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危険な飴


「ハチさんにはハチミツたっぷり! サルさんにはバナナの踊り食いおじゃ〜! さあ、もっと踊るでおじゃ。マリン! 地上の友人も喜んでおるぞよ! おじゃ、おじゃおじゃ!」


フグのような体躯を揺らし、柄杓を振り回して狂乱の『激甘パフェ・パーティー』を煽る王。


「やめろ! ベタベタする! エマ、助けてくれ!」


「ウキーーッ!(殺せ! 殺してくれ!)」


俺とさるゆき(ただの猿)が、ファンシー住民たちに揉みくちゃにされ、尊厳をズタズタにされていたその時だった。

王宮の重厚な真珠の扉が、物理的な衝撃――おそらくは強力な魔力の波動――と共に、粉々に粉砕された。


「――いい加減になさい、このゴミフグ!!」


轟音と共に現れたのは、美しい人魚でありながら、圧倒的な覇気と知性を纏った女性。マリンの母であり、この国の真の支配者である王妃であった。


「お、おじゃ……!? 妃よ、これには深いわけが……」


「黙りなさい! 貴賓、娘の友に対してハチミツをぶっかけ、娘に羞恥プレイを強いるなど、王家の恥です! そこに直れ、正座ッ!!」


王妃の一喝で、深海水圧さえも凍りつく。フグ王は「おじゃぁ……」と萎みながら、すみっこで烏帽子を脱ぎ、短いヒレを揃えて正座させられた。


数分後。王宮の一角にある、ようやくパステルカラーの暴力から解放され落ち着いたテラスにきた。

俺は王妃の魔法でベタベタの蜜を洗浄してもらってから円卓を囲んでいた。


「皆様、うちの愚夫が多大なるご迷惑をおかけいたしました。私はマリンの母です。……

王妃が優雅に淹れてくれたハーブティーを啜り、俺たちはようやく人心地ついた。

だが、マリンだけは顔を真っ赤にしたまま、震える手でティーカップを握り、テーブルの一点を見つめている。


「……マリン。あんた、さっき『おじゃおじゃサンバ』を踊りながら、殺気で王宮の柱を三本ほど折ってたわね」


エマの容赦ないツッコミに、マリンが


「……死にたい。……今すぐ、刺身にして食べて」

と消え入るような声で呟いた。


「……さて。お母様に伺いたいのですが」


エマがカップを置き、鋭い視線を王妃に向ける。


「マリンが『国際指名手配』された理由……エルフフロンティアで聞いた話では『王族暗殺未遂』とのことでしたが、本当のところは何があったのですか?」


王妃は困ったように微笑み、隣で項垂れる娘を見た。


「それは……非常に『個人的』な事件だったのです」


マリンがポツリポツリと、呪詛のような声で語り出した。


「……私は、地上で流れる『バレンタイン』という風習に、人知れず強い憧れを抱いていたの。……運命の相手を地上で見つけ、その心臓ハートを射止めるための、究極のチョコレート……。私はそれを、三日三晩寝ずに調合したわ」


「……調合?」


俺は呟く様に聞いた。『作る』じゃなくて『調合』なのか。


「……ええ。致死性の一歩手前まで煮詰めたカカオと、恋の魔力を込めた秘薬。それを王宮の厨房で冷やし固めていたの。……明日にはこれを持って地上へ旅立ち、私の愛しい人を『捕獲』する……。その計画は完璧だった」


マリンの目が、恨みがましく正座する父王へ向けられる。


「……なのに。……この『クソフグおやじ』が、夜中にこっそり厨房に忍び込み、私の愛の結晶チョコを……『ちょっと小腹が空いたぞよ』の一言で、全部、一口で平らげたのよ!!」


テラスに沈黙が流れた。


「……私が見つけた時、この男の口の周りにはチョコがべったり付いていたわ。……私は、頭の中で何かが千切れる音がした。……気づいたら、私は手近にあった巨大なマグロ解体用の包丁をひっ掴み、『その腹を割いてチョコを返せぇぇ!!』と叫びながら、この男を王宮の端から端まで、追いかけ回していたわ」


「おじゃる……。あの時のマリンは、まさに深海の魔神……。わしは死の恐怖を感じて、全軍に『暗殺者が現れた! 助けておじゃ!』と救援を求めたのじゃ……」


「……それで、警備隊が駆けつけ、マリンはそのまま地上へ逃亡。形式上『王族暗殺未遂』として指名手配された……っていうのが真相?」


エマが呆れ果てた顔で総括した。


「……ええ。お恥ずかしい話ですが。……でも、あのチョコを食べた主人は三日間、鏡の中の自分に恋をして求愛ダンスを踊り続けて大変だったのですよ」


(((((自業自得だ!!)))))


「……わかったわ。事情は理解したし、指名手配も王妃の権限で『親子喧嘩』として取り下げてもらえるのね?」


エマが確認すると、王妃は優雅に頷いた。


「ええ。マリン。……あなたはもう自由よ。地上で、その……『獲物』でも何でも見つけてきなさい。ただし、次は王宮のチョコを食べていいか、ちゃんと王に釘を刺しておきなさい」


「……釘じゃ足りない。……次は、心臓を直接、縫い止めてやるわ」


不穏な宣言を吐き捨て、マリンは人魚の姿から、いつもの黒いドレス姿の「足のあるエルフの姿」へと戻った。


「……さあ、帰りましょう。……ここには、私の黒歴史しかないわ。……今すぐ、記憶を漂白したい」


「賛成だ。俺もハチミツの匂いを嗅ぐだけでトラウマになりそうだ」


「あーし、お土産の『マリンちゃんキーホルダー』、みんなの分買っちゃったー!」


「マミ、お前どこ行ってたんだ?」


「えー、二頭身可愛いから〜厨房借りて、舐めたら二頭身になる飴作ってた」


マミの聞き捨てならない一言を聞き俺は合図を送る。


「エマ」


「ええ。マミその危険な飴は没収よ?あとそのキーホルダーは返品してきなさい」


「えー?あーし頑張って作ったのにー」


マミを無視し王宮を後にし、ゲートにくる。


「……さらば、海底国家。……二度と来ないでおじゃる」


「あなた語尾うつってるじゃない、コーセー!!」


エマの鋭いツッコミが、青い海底にこだました。

こうして、フェイタル・ガーデンの海底国家ショーナン編は、一人の男の食い意地と、一人の娘のメンヘラの暴走が原因だったという、救いようのない真実と共に幕を閉じた。

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