マリンの殺気
「よし、メール送信……。これでよし、帰るぞ!」
俺が、マリンに『拠点の村で待ってる』というメッセージを送信し、ゲートへ戻ろうとしたその時だった。
「「「ワッ……! ワーーッ!!」」」
足元から、二頭身のファンシー生物たちが津波のように湧き出してきた。
「あそぼー!」「いっしょに、あそぼー!!」
「きゃー! なにこれ超エモーい!」
マミは速攻で二頭身軍団と円陣を組み、謎のダンスを踊り始める。だが、住民たちのつぶらな瞳は、俺とさるゆきに釘付けだった。
「見てー! ピンクのハチさんだ!」
「ハチさんハチさん!」
『待て、触るな! 俺はただの魔物だ』
俺が必死に威嚇の羽音を立て念話を飛ばすが、二頭身軍団には「ハチさんが歌ってるぅ~!」としか変換されない。
「ハチさん、甘いの出す?」「ハチさん、お腹ぽよぽよ~!」
数十匹の二頭身軍団に脚を掴まれ、俺はピンクの綿あめのように揉みくちゃにされる。一方、その隣ではさるゆきが地獄を見ていた。
「お猿さんだ!」「お猿さん、赤いね!」「お猿さん、バナナ持ってる?」
ちっ。さるゆきの様子がおかしいと思ったら、キアラとノッテはさるゆきの中から離脱していやがった。すでに2人はゲート前にいる。そして、こちらをチラリと2人で見たと思ったら手を振りゲートに消えていった。さるゆきは今や本当にただの猿なので、困惑顔に同情してしまう。
「あらぁん? アタシも混ぜてぇん、愛の魔法少女レンレンちゃんだぞぉん?」
「……俺の盾で波乗りするか?」
勇気を出して混ざろうとしたデカブツ二人だったが。
「「「「ギャアアアアアン!!(ガチ号泣)」」」」
あまりの威圧感と「可愛くないサイズ感」に、子供の住民たちが一斉に泣き出した。拒絶された二人は背を丸めしぶしぶとゲートに向かい、哀愁をおびて退場していった。
結局、珍獣として捕獲された俺(蜂)とさるゆき(猿)、そして飼い主面のエマ、マミの俺達は、貝殻の馬車に乗せられ王宮へと連行された。
玉座に座っていたのは、マシュマロのようにぷくぷくした、体はフグ、顔は真っ白で烏帽子をかぶった二頭身の人魚の王だった。
『エマ、あいつ柄杓持ってるぞ、取り返さなくていいのか?』
『コーセー。黙りなさい。私が元閻魔でもそのネタはだめよ。空気よみなさい』
俺が念話でエマに、今にもおじゃと言いそうな王をイジったら普通に怒られた。反省。
「……おじゃ。よく来たの、地上の珍しきハチとサルよ。おじゃる」
やっぱり「おじゃ」って言ったよ、この王様!
『……コーセー、あっち見て。……もう、助からないわよ、私たち』
エマが念話で俺に話しかけ、引きつった顔で指差す先。
そこには、人魚バージョン(下半身が黄色の魚)になったマリンが、貝殻の拘束具を着けられたまま、般若のような顔で俺たちを睨みつけていた。
……見たな。……よりによって、この姿を。コロス、コロス、コロス……。
マリンの殺気が、深海の水圧より重く、俺の小さな羽にのしかかる。
「……おじゃる。我が娘、マリンが世話になったの。お礼に最高級の『激甘パフェ』を持ってくるぞよ。ハチさんには特製の蜜をドロドロにかけるぞよ。おじゃおじゃ」
『……エマ、助けてくれ。あの目は本気だ……』
『無理よ』
マリンの「今すぐ消滅しろ」という視線と、王様の「おじゃる」が響く、地獄よりカオスな状況に俺は頭を悩ませるのだった。




