異議なし
エルフフロンティアの巨大転送ゲート前。俺たちは、ようやく釈放されたレンレンを回収し、順番待ちの列に並んでいた。時刻は既に正午を回っている。
「コーセーきゅんごめんねぃ。アタシが迷惑かけたせいでマリンちゃんをすぐに追いかけられなかったわぁん。あんな可愛い子が深海の冷たい牢獄に閉じ込められているなんて……私、心が張り裂けそうだわぁん!」
「いいんだよ、レンレン。……順番が来たみたいだ。マリンを助けに行こう」
「ええ、行くわよコーセー、待っててマリン。閻魔の私が、その運命を書き換えてあげるわ」
エマが銀のドレスを翻し、決然とした表情でゲートへ踏み出す。一瞬の暗闇、浮遊感が訪れ……俺たちは海底国家ショーナンへとやって来た。
「…よし、帰ろう」
ゲートを抜けて一秒。俺は無表情のまま、一歩も動かずに踵を返し、今来たばかりのゲートへ引き返そうとした。
「えー、もう帰るの? アーシめっちゃ遊びたいんだけどー?」
「マミ、そもそも遊びに来てない! そしてここは危険だ。精神的に、致命的なほどにな!」
「えー危険かなあ? めっちゃかわいいじゃん!」
そう、カワイイのだ。いや、可愛すぎるのだ。
海底国家ショーナン、そこはファンタジーを通り越して、完全なる「ファンシー」の領域だった。
目の前のサンゴの門には、ピンク色のふわふわした文字で、巨大な垂れ幕が掲げられていた。
『おかえりなさい! マリンちゃん おかえりなさいパーティー会場はこちら♪』
「……なによ、あれ」
エマの引きつった声が響く。
門の周囲にいる国民らしき生き物は、どう見ても二頭身の『ちい〇わ』的な何かにしか見えない。「ワッ……」「プルャ……」と鳴きながら、パステルカラーの貝殻で遊んでいる。
門番にいたっては、真っ白でふわふわな某アニメのゴマアザラシにしか見えない。槍は持っているが、先端がハート型だ。そいつらが、寝そべりながらこちらを「キュ~?」と見つめている。
俺は、震える声で隣のエマに問うた。
「どう思う、エマ」
エマは、手を強く握りしめ、戦慄した顔で呟いた。
「……これをバレたと思ったら、マリンは私たちを口封じのために殺しに来るんじゃないかしら?」
「だよな。俺もそう思う……。あいつが『捕獲』とか『致死性の毒』とか物騒なことばかり言っていたのは、この、吐き気がするほどメルヘンな故郷から自分を切り離すための、精一杯の自己防衛だったんだな」
「……コーセー、見て」
エマが指差す先、パステルカラーの馬車(馬じゃ無くて亀がひいてる)に乗せられたマリンが、遠くの方で国民たちに「お帰りマリンちゃまー!」と合唱されながら連行されていくのが見えた。
幸い、彼女はこちらに気づいていない。
「……マリンに、『拠点の村で待ってる』ってメールだけ入れて、今すぐ帰ろう。それが、彼女の尊厳を守る唯一の方法だ」
「そうね。……異議なしよ」
俺たちは無言で、もう一度ゲートに向かって歩き出した。背後でマミが「えー! あーしもゴマちゃん撫で回したいんだけどー!」と叫んでいたが、全力でスルーした。




