なんかごめん
エルフフロンティアの最高級ホテル、スイートルーム。窓から差し込む朝日は眩しいほどだが、俺たちの空気はどん底だった。
「……さて、どうしたものかね」
俺は、ホテルの豪華な朝食を前に、重い溜息をついた。
隣では、エマが昨日の買い物のレシートを検分しながら、「マリンの保釈金、リボでいけるかしら……」と物騒なことを呟いている。
クルスはといえば、無罪放免になったものの、マミにデコられるのを警戒して、部屋の隅で『零戦の盾』を構えたままスタンバイしている。
そこへ、部屋の大型ディスプレイが勝手に起動し、アステリアver18の顔が映し出された。
『――フェイタル・ガーデンの皆様。至急、セントラル・コアへお越しください。ニコタール・スカイの件で、緊急の相談があります』
俺達はすぐにホテルから移動した。
セントラル・コアの面会室。俺たちを待っていたアステリアのホログラムは、昨日までの冷徹な裁判官の面影はなく、どこか処理速度が低下しているように見えた。
「……相談って、レンレンの禁錮刑のことか?」
俺が尋ねると、アステリアの演算ノイズが激しく走った。
『訂正します。……我が国の司法制度において、被告人ニコタール・スカイをこれ以上拘束し続けることは「国家予算の崩壊」を意味します。彼女を閉じ込めておける檻が、この国には存在しません』
「はあ?」
『彼女は昨夜、収監された一時間後に「檻が可愛くない」という理由で、特殊魔導合金の格子を素手で引きちぎり、看守エルフをバックドロップで沈め、独房内で勝手に獄中ライブを開始しました。現在、刑務所の壁面には修復不能な亀裂が入り、囚人たちの半数が彼女の歌による精神汚染で廃人寸前です』
アステリアは深く(擬似的に)溜息をついた。
『……よって、彼女の刑を「国外追放」に切り替えます。今すぐ、あのジャイ◯ンを連れてこの国から出ていってください』
「……なんか。ごめん」
俺はレンレンのポテンシャルの恐ろしさに、改めて戦慄した。
「だったら、ついでにマリンも釈放してくれよ。あいつも仲間なんだ」
俺が提案すると、アステリアの表情は再び冷徹なビジネスモードに戻った。
『それは不可能です。ニコタール・スカイは「ただの公務執行妨害と騒音被害」ですが、マリンは海底国家からの「国際指名手配犯」です。国家間の犯罪者引き渡し協定は、AIである私にとっても絶対の法理です』
「そんな……。マリンはどうなるんだ?」
『予定通り、本日正午に転移ゲートを通じて海底国家の執行官に引き渡されます。彼女はあちらで「王族の反逆者」として裁かれることになるでしょう。……深海は、地上の法が届かない場所です』
部屋に重い沈黙が流れる。
海底国家。これまで噂でしか聞いたことがない、未知の領域。そこへマリンが連れて行かれれば、もう二度と会えないかもしれない。
「……行くわよ、コーセー」
エマが立ち上がり、俺の袖を強く引いた。
「マリンをパーティーに誘った時からこうなることは予想してたでしょ?」
「……ああ、そうだな。アステリア、その転移ゲート、俺たちも使わせてもらうぞ」
マミが「海底国家でもデコるしー!」と拳を突き上げ、クルスが「マリン殿の盾になりましょう」と静かに頷く。
こうして、フェイタル・ガーデンの次の目的地は、青く深い海の底――マリンの故郷である海底国家ショーナンへと決まった。




