イエス、マム
「が、無くもないか。」
やはり俺の素晴らしい三段活用が刺さったらしい、閻魔が可能性を示してきた。
ここは、畳み掛けるか。
「私を人として転生させて頂いた暁には、まず、世の為、人の為に働、、働こうと思う意識を持ち、」
「貴様、何地獄が好きじゃ?」
「さーせんでしたー。・・・」
くそ、俺の心の声。レジストしてくれ。死んでるはずの俺の命が危ない。クソ閻魔も読むな。読んでも既読スルーしろ。空気よ・・・なーんてね。さーせんさーせん。
「はあ、話がすすまん。貴様何も考えずに黙って聞け。」
「イエス、マム」
「まず最初に言っとくが、貴様をいきなり人へと転生させたり、人生のやり直しをさせることは出来ん。次の転生は蜂か蟻。これは決定事項じゃ。」
おいおい、思わせぶりか。やはり閻魔じゃ駄目か。神に会わせろー。チートもらってウハウハじゃあー。
「人は学習する生き物じゃったはずじゃがの」
「人は愚かな生き物です、マム」
「いいから最後まで聞け。そもそも地球の神とわしは同級生じゃ。出来ることは同じじゃよ。そこで本題じゃがわしも貴様を異世界転生させることができる。虫じゃがの」
「意味なーし。転生したくありませーん。お前がいけー」
ガンッ
「魂に響く拳骨じゃ」
口は災いのもとというが、俺の口のことだったのか。てかさ、
「いってぇぇ! 魂が物理的に凹んだわ! 訴えてやる、ヘルプデスク呼べ!」
「騒ぐな、不届き者が。いいか、これより貴様に『特別救済措置』を提示してやる。感謝して聞け」
閻魔が赤い和服の袖を払うと、虚空にホログラムが浮かび上がった。
「これは『徳積みポイントカード』じゃ。善行を積めばポイントが貯まる。100万貯まれば、特別に時間を巻き戻し、現世の親元へ『10分間』だけ帰してやろう」
「……10分? 謝罪動画一本分かよ。短けぇよ!」
短い、短いが心は揺れる。母ちゃんに伝えたいことがある。どうしても。あっついでに親父にも。
「その10分で、謝るなり、親の肩を叩くなり、好きにするがよい。ただし――」
閻魔がニヤリと、最高に性格の悪そうな笑みを浮かべた。
「貴様の転生先は、うーん、蜂か蟻か、、よし決めた。『蜂』じゃ。蜂として世界を救い、100万ポイント稼いでみせよ。ププッ」
「……は? 蜂? 無理だろ。物理的に。俺、一生懸命花粉運ぶの? 働きバチ? 結局ニートの次はブラック労働かよ! そもそもまた直ぐ死ぬじゃねぇか!」
「安心せよ、異世界転生させてやると言ったじゃろ。」
「異世界転生?」
「本来なら地球の働き蜂なんじゃが、剣と魔法の異世界でキラー・ビーにしてやるのじゃ」
「……」
「……?どうした、貴様の望む異世界転生じゃぞ?」
「キラー・ビーってモンスターじゃねーーか!!討伐対象がどうやって世界をすくうんだよー」
「やかましい! モンスターでも異世界転生は異世界転生じゃ。 さあ、善は急げ、幸成という名に免じて更生させてやるぞ。行ってくるのじゃ!」
閻魔が手をかざすと、俺の前に魔法陣、これが異世界転生ゲートであろうものがあらわれる。そして、閻魔は巨大な机から身を乗り出し、俺の襟首を掴もうとした――その瞬間。
「あ」
閻魔の足元。
豪華絢爛な和服の裾が、彼女自身の足に絡まった。
「あわわわ、落ちる、落ちるのじゃ!?」
「待て、お前、その先は……!」
閻魔が倒れ込んだ先には、異世界転送ゲートがある。洗濯機の脱水口みたいに口を開けて。
ガシッ。閻魔の手が、俺の腕を掴む。
「え?クソ閻魔離せ! 地獄の心中とかお断りだ!」
「嫌じゃ! 貴様も来るんじゃあー。」
そのまま、俺たちは真っ逆さま。
地獄の静寂を切り裂く、野郎の悲鳴と、地獄の主の絶叫。
こうして、俺の「10分間の親孝行」を目指す旅は、文字通り最悪の墜落から幕を開けた。




