テンプレ
「……止まれ、愚かな人間どもよ。ここから先は森の聖域。穢れた足を踏み入れることは許さん」
鬱蒼と茂る古木の影から、鈴を転がすような、それでいて冷徹な声が響いた。しかしあのエルフは俺たちが人間に見えているのか?眼科いけ。そんな事を考えていた次の瞬間、俺たちの足元に無数の矢が突き刺さる。一本一本が寸分違わず同じ深さで地面を穿つ。
「テンプレ、きたあああああ!!」
俺は猛烈に感動していた。異世界に転生して以来、ようやくこれぞ異世界という「エルフの洗礼」に出会えたのだ。
「あらぁん、歓迎されてるわねぇん。でも、その程度の爪楊枝じゃあ、私たちの歩みは止まらないわよぉん?」
レンレンが優雅に、腰をくねらせて歩みを進めると、再び矢の雨が降り注ぐ。だが、クルスが重厚な盾を掲げると、すべての矢は空中で弾かれ地面に落ちた。
「魔導障壁か。警告は済んだ。……特殊部隊、展開。各員、擬態解除」
声が響いた直後、森の景色が「ノイズ」と共に歪んだ。現れたのは、弓を持った優雅なエルフではなかった。
「……は?」
そこにいたのは、最新式のデジタル迷彩戦闘服に身を包み、タクティカルベストを装着したエルフの集団だった。顔にはペイント、耳には無線機。彼らが構えているのは、美しき木製の弓ではない。黒光りするアサルトライフル(魔導機関銃)だ。
「目標確認。ロケットランチャー(RPG)、装填完了。目標の『盾持ちの巨漢』を最優先で無力化せよ。……撃て(ファイア)!!」
ドォォォォォン!!
凄まじい爆発音と共に、対戦車ロケットが俺たちの目の前で炸裂する。さらには森の奥から、ディーゼル音……いや、魔導エンジンの重低音を響かせて、三色の迷彩を施した魔導重戦車が樹木をなぎ倒しながら姿を現した。
「ちょっ……待て待て待て! ファンタジーどうしたああああああ!!」
俺の絶叫が虚しく響く。
「弓は!? 精霊魔法は!? なんでフルオートで鉛弾バラ撒いてるんだよ! 迷彩服エルフとか属性過多だろ!! 誰も森を守ってねぇじゃねーか!」
「コーセーっち、うるさーい。……てか、あのデザイン、あーしの好みかも。マットな質感が超エモくない? 写真撮っていい?」
マミがダークフォンを構える横で、クルスが「……今の爆発で、ストレージ内のイチゴは無事か?」と、戦火の中でもイチゴの安否を確認している。
「あらぁん、この『てっぽう』っての? 私のパンチとどっちが速いかしらねぇん」
レンレンはニヤリと笑う。マリンも
「あの『鉄の塊(戦車)』……装甲の隙間、排熱口が弱点ね。あそこに爆縮の暗器を放り込めば、三秒で鉄屑になるわ。……あっちの迷彩服も、熱源遮断が甘い。私の視界からは、心臓の鼓動が丸見え……」
「マリン、怖い怖い! 暗殺者の本能出ちゃってるから! 今は交渉(?)のターンだから!」
俺がこの状況に頭を悩ませていると
「……止めな、お前ら。そいつらは今の玩具じゃあ傷一つつけられやしないよ」
森全体に響き渡るような力強い声。戦車の上から飛び降りてきたのは、一人の美人エルフだった。
ヨレヨレの白衣を羽織り、首からは無数のレンズやセンサーをぶら下げ、手には杖ではなく……よく分からないハイテクなタブレット端末を持っている。
「(どこの馬の骨かと思えば、ニコタール·スカイに、馬鹿弟子の遺物もいるねぇ)……世界樹を救ったのは、あんたたちだね?」
エルフはボソッと何かを呟き尋ねてきた。俺が「ああ、助けたけどあいつ猛スピードで走って逃げたよ」と答えると、エルフはハハハと、愉快そうに笑った。
「そりゃそうだろうさ! 昔は信仰だの神格化だのと、世界樹を敬う連中も多かったがね。最近じゃあたしの『研究』が捗りすぎて、あいつを**【大陸間魔導通信用の電波塔】**に改造しようとしたんだよ。枝にアンテナを埋め込もうとした瞬間に、あいつ、根っこを足にして泣きながら逃げ出しやがった。あいつ逃げクセついたみたいだねぇ」
「……逃げるわ!! てか何で世界樹助けたの知ってるんだ?」
「そりゃあ見張りをつけてるから報告は聞いてるさ。助けを求めて来たら電波塔の契約をせてからと思っていたんだが…あんたたちが助けちまったがね」
そんなことよりと、
「……狼娘。……その指先、その魔力の流れ。『錬金神の加護』かい? 昔から欠陥だらけで、今の時代じゃ廃れたゴミスキルだが……」
「え、そうだよ? ゴミスキル?神スキルっしょ」
マミがケラケラ笑ってみせると、エルフは驚愕に目を見開いた。
「……ほう錬金スキルの良さがわかるかい。面白い。いいだろう、特別に通してやるよ。」
助けたの知ってたなら、攻撃せずに通せよ!と思いながらも口には出さず、案内に従い、俺たちは古木の巨大な門をくぐった。
「……はぁ?」
そこに広がっていたのは、緑豊かな森の村ではなかった。
天を突くようなガラス張りの超高層ビル群。空を縦横無尽に飛び交う、光の尾を引くエアカー。ビルの壁面では巨大なホログラムのエルフ美少女が新作のポーションを宣伝し、通りには無数のエルフたちがタブレットを片手に、スーツ姿で闊歩している。
それは、かつて俺がいた東京の街を、さらに数百年、魔法技術でブーストさせたようなネオンきらめくサイバーパンク大都会だった。
「……ようこそ、ここが、エルフの郷『エルフフロンティア』だよ。自然? そんなもんはVR(仮想現実)で十分さ」
エルフの言葉に、俺は周囲を見渡し、魂の底から叫んだ。
「緑はどこ行ったんだよおおお!! 森林浴させろよ!!ツリーハウスは? 癒やし要素ゼロじゃねーか!!」
「コーセーっち、見て! あそこのビル、イーサの街にもあったマック(魔導・クイック・キッチン)あるじゃん! 無料Wi-Fi飛んでるし、超最高なんだけど!」
「マックはエルフが出してるチェーン店だねぇ。あそこが本店さ」
美人エルフが言う。何だろ。テンプレ来たーと叫んだ数分前の自分をぶん殴りたい。
「……エマ、一応、聞くけど……ここ、本当にファンタジーの世界だよな?」
「ええ、そのはずよ多分」
エマも困惑しながら言う。このままでは話が進まないので俺はエルフに聞く。
「なあ、この郷には錬金を極めたハイエルフのババ…婆さんがいるんだろ?会えないか」
「おや、気付いてないのかい?そこのニコタールとホムンクルスは気付いてるみたいだが、あたしが錬金を極めたハイエルフのババアだよ。あんたたちの事も、実はドワーフの老害から連絡はきてたよ」
ああ、ユータが性格悪いと言ってた意味がわかった。俺は、さっきは口に出すことを躊躇ったが、今度は全力で叫んだ。
「知ってたなら、攻撃せずに通せよー!?」




