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親より先に死んだ俺、異世界で徳を積んで無双する  作者: 田舎浪漫


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ご利用は計画的に


「……おかえりなさい。早かったですね」


ギルドの奥、支部長室。書類の山に埋もれていたユータが顔を上げた。

その表情にはまだ「本当に戻ってくるとは」という困惑が混じっていたが、部屋に踏み込んできた『フェイタル・ガーデン』の姿を見た瞬間、彼の思考は停止した。

先頭のクルスが、伝説の武具「拒絶の盾」を完全にイチゴ専用トレイとして水平に捧げ持ち、ズカズカと入ってきたからだ。


「……クルスさん。それは何ですか?」


「イチゴだ」


「見れば分かります! 私は何故盾の上にあるのかを聞いてるんです。…まあいいです。討伐証明はありますか?」


「枝ならあるわよぉん」


レンレンが、世界樹から贈られた『心枝』をユータの机に無造作に放り出した。その枝から放たれる、時空を歪めるほどの神聖な魔力。ユータの目が一瞬でプロのそれに変わる。


「……これは……まさか、世界樹の……。まさかあなたたち、本当に『和解』して、これを直接譲り受けてきたんですか?」


「やっぱり、最初から狙ってたんだな?」


俺が聞くと、ユータは深いため息をつき、椅子の背もたれに体を預けた。


「……ええ。あのエルダートレントが、ハイエルフから『世界樹』と崇められる聖域の主であることは知っていました。もし下手に『討伐』なんてして首を持って帰ってきたら、この国はハイエルフの軍勢と全面戦争ですよ。だから、暴力以外で解決できそうなあなたたちに振ったんです」


ユータは机の上の枝を愛おしそうに見つめた。


「それに、その盾の上のイチゴ……それこそが『和解』の証拠だ。魔導イチゴは、世界樹が自らの意思で切り離さない限り、収穫した瞬間にただの黒い腐肉へと変わる。討伐した死体からは、一粒たりとも手に入らない『奇跡の果実』なんですよ」


「へぇー、じゃあこれ、マジでレア中のレアってことじゃん!」


マミが得意げにVサインを作る。


「ええ。ですから、そのイチゴの一部をギルドに納入していただければ、報酬はさらに跳ね上がり――」


「「「「だか、断る」」」」


全員の声が完璧に重なった。


「えっ」


ユータが固まる。


「これはあーしのクエスト用だし! 一粒だってあげないよ!」


「私の美肌のためにも必要なのよぉん」


「イチゴ、渡さない。……おいしいから」


「……不本意ながら、俺はこのイチゴを運ぶために、盾としての誇りを一時捨てた。報酬などで譲れるものではない」


「……いや、あなたたち、これ一国が買えるレベルの価値があるんですよ!?」


ユータが身を乗り出して叫ぶが、エマが冷ややかに微笑んだ。


「お金なら、あの世界樹の枝を売れば十分でしょう? イチゴは私たちの『庭』の果実よ。部外者に分ける道理はないわ」


ユータはがっくりと肩を落とし、胃を押さえながら別の書類を取り出した。


「……分かりました。イチゴは諦めます。その代わり、世界樹の枝はギルドに討伐証明として納品してください。……それと、マミさんのクエストに関係する『錬金神の像』についてですが」


ユータが地図の一角を指さす。そこは、人間が足を踏み入れることを禁じられた禁域だった。


「この先にある『ハイエルフの郷』。そこには、世界で最も錬金術を極めたとされる存在……『ハイエルフの古老ババア』が住んでいます。郷の中心には、古い錬金神の像も安置されているはずです」


「ハイエルフのババア……」


俺がその言葉を繰り返すと、ユータは少しだけ意地悪く笑った。


「性格は最悪、口は悪い…ですが、世界樹と和解し、そのイチゴを『腐らせずに』持ち帰ったあなたたちなら、話くらいは聞くでしょう。何せ、世界樹に認められた証拠を、その盾の上に山盛りにしているんですから」


「よっしゃ! 次のターゲットはハイエルフの郷ね! そのババア、あーしのイチゴスイーツで黙らせてやるし!」


マミが気合十分でガッツポーズを決める。


「……さて。そうと決まれば準備をしてください。クルスさん、そのイチゴを早く袋にいれるなりして下さい。私の部屋が甘い匂いで充満して、仕事になりません」


「……ダメだ。移す時に潰れる可能性がある。俺はこのまま運ぶ」


「ギルドの外までその格好で行くつもりですか!?……というか、あなたたち。そもそも誰かマジックバッグを持っていないんですか!? もしくは空間魔法を使える者は!? なぜSランクにもなって、イチゴを盾に山盛りにして運ぶという原始的な搬送方法を選んでいるんですか!」


その言葉に、一行は「あ」という顔で顔を見合わせた。ユータの顔がみるみる絶望に染まっていく。


「このデタラメな連中、便利機能の類を一切持っていないのか……?」


その時、一歩前に出たのはエマだった。


「あら、ちょうどいいわ。さっき、ステータスみてたのよ。徳ポイントマイナスのままだけど……『優良顧客』だし、また前借できそうよ」


エマが空中に指を走らせると、彼女の前に半透明のウィンドウが現れた。


「ええと……時空神の加護【神のストレージ】。あらゆる物質を劣化させずに無限に収納できる権能……。取得条件は……『徳ポイント:マイナス五十万ポイント(特別融資)』。……ふふっ、いいわ。ポチッとな」


「……は?」


俺は驚きエマを見る。


「エマさん、今なんて? マイナス……ポチッとな……?」


「ええ。以前、トールたちの首輪を外した時に五万ポイントのローンを組んだじゃない? 今回はそこに五十万ポイントの増額(リボ払い)よ。返済期限は『生涯かけて』よ」


エマが手をかざすと、クルスの盾の上にあった大量のイチゴが、吸い込まれるように空間の割れ目へと消えていった。


(ま、また借金……しかも今度は一気に五十万だと!?)


俺は、内心で戦慄した。だが同時に、不謹慎なワクワク感も抑えられなかった。「徳」を前借りして神の権能を無理やり手に入れる……。この「借金まみれの成り上がり」感こそ、まさに異世界らしくて最高じゃないか! 借金の額がデカければデカいほど、俺たちの格(不名誉な意味で)が上がっていく気がする!


「……エマ、それ最高だ! 五十万なんて、俺たちがこれから悪を根絶やしにすれば……いや、善行を積めばすぐに返せるさ! 夢が広がるぜ、徳の多重債務!」


俺が興奮気味に羽を震わせ、エマと「借金同盟」の絆を深めた、その直後だった。


「……あらん、、私ストレージのスキル持ってるわよぉん?」


レンレンが話しだした。


「女の子はメイク道具に洋服、たくさん無いと困るものん。ストレージは必須よねぇん」


「……私も、深海の真珠に収納機能があるわ。……身一つでは愛を探す旅はできないもの。暗器も隠さなきゃいけない」


マリンが首元の真珠を気だるげに指差す。


「「ノッテも、影の収納魔法使えますわお姉様。さるゆきのポシェットもマジックバッグですね」」


キアラとノッテまでが、さるゆきの中からひょっこり顔を出して告げた。


「……え?まさかクルスも?」


エマの動きが止まる。五十万の追加融資(借金)を背負い、俺と盛り上がった直後の、あまりにも残酷な事実。


「……マスターから譲り受けたマジックバッグがあるな」


「あ、あーしも! 今のクエスト達成したら、『無限冷蔵マジックバッグ』のレシピ分かる気がするんだよねー。だから、エマたんとコーセーっちがそんな無理してローン組まなくても良かったかも?」


マミが追い打ちをかけるように、ケラケラと笑った。

静寂が支部長室を包み込む。

エマの背後に、過去最高密度のどす黒いオーラが立ち昇るのを俺は見逃さなかった。


「……あなたたち。……なぜ、それを、今言ったのかしら?」


「「「「だ、だって聞かれなかったし……」」」」


「……ぐ、ふふっ。いいわ。五十万ポイントなんて、この世界の悪を根絶やしにすればすぐに貯まるはずよ……。まずは、その辺の生意気なハイエルフの郷から掃除(善行)しましょうか……」


エマは漆黒の微笑を浮かべて部屋を出て行った。皆も続いて出ていく。その背中に向かい呟く………


「ご利用は計画的にー!!」



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