一蓮托生
「これで、全員終わりだ」
カチリ、という乾いた金属音と共に、最後の一人の首輪が地面に落ちた。
俺の手から放たれた温かな光——スキル『魂の浄化』が、理不尽な拘束具に刻まれた漆黒の呪印を白く塗り潰し、霧散させていく。
広場に集まった人々が、信じられないといった様子で自分の首筋に触れている。そして、鉄の冷たさが消えたことを確信すると、一人、また一人と、自由を噛み締めるようにその場に泣き崩れていった。
「……お疲れ様、コーセー」
隣でエマが、慈愛に満ちた、それでいてどこか誇らしげな表情で俺を労ってくれる。だが、俺はまだ少し、頬を引きつらせていた。
それはこの解放作業の疲れのせいじゃない。数時間前、あの奴隷商会元締めの屋敷に突入しようとした瞬間に起きた「予想外すぎる結末」のせいだ。
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【数時間前・元締め邸前】
さあ、やりますか
俺は、ダークフォン越しにバケモノ軍団の戦果を見届けた後、最後はリーダーらしく、俺自身の手で元締めを捕らえるつもりだった。
《――ピコン! クエスト:『闇の鎖を断つ者』の達成を確認しました。報酬を配布します――》
脳内に突然響いた無機質なアナンスに、俺は思わず一歩踏み出した体勢のまま固まった。
「……は?」
達成? まだ一歩も踏み込んでない。門のノブにすら触れていない。
あまりのことにキョドりながら、不審者のようにキョロキョロと周囲を見渡していると、ギィィ、と重厚な屋敷の玄関扉が開いた。
そこからゆったりと歩いて出てきたのは、拠点に待機しているはずのエマと、そしてマミだった。
「あ、コーセー。ちょうどいいところに来たわね。終わったわよ〜」
「……」
エマは頬に返り血を一滴だけつけ、ペロリと舌を出して「殺っちゃった」と可愛らしくテヘペロして見せた。背後ではマミが、困ったような、でもどこかスッキリしたような顔で苦笑いしながら無言でペコリと頭を下げる。
「えっ?えっ?え〜?お前ら、なんでここに!? 拠点に待機してたはずじゃ!?」
「ごめんなさい。でも、ダークフォンでみんなの活躍を見ていたら、どうしても我慢できなくなっちゃって。……」
エマの瞳に、一瞬だけ「閻魔」だった時の冷徹な、そして圧倒的な暴力の光が宿る。
「あの元締め、スズメ蜂部隊で監視していたら、隠し部屋で『女の奴隷は高く売れる』なんて書類をニヤニヤしながら眺めて、新しい注文書を書いていたんですもの。……気づいたら、スズメ蜂たちと一緒に部屋をハチの巣にしていたわ」
蜂だけにハチの巣にしたと……今これ笑う所か?
「ピコン!」
うん?エマの発言に困惑しているとダークフォンにメッセージが入った。
『コーセーっち、メンゴメンゴ。あーしもエマたん止めようと思ったんだけど〜何かノリでやっちゃったwww』
目の前のエマからのメッセージだった。そう、ダークフォンを手に入れてから俺たちはメッーセージのやり取りで意思疎通が出来るようになった。本来なら俺がメッーセジを送ってエマは普通に喋れば良いんだが、俺に面と向かって話すのはまだ怖いらしくメッセージで伝えてくる。あー、今さらだが、俺がこの世界の言語が分かるのは、そういう感じのなろう仕様だと納得してくれ。
「ピコン!」
日本の現代っ子並みの速さで目の前のマミはメッセージを打っている。
『コーセーっち、既読スルーはヒドいよ〜』
ちなみに、メッセージでのマミのキャラは普段の内気な雰囲気は身を潜め、いつの時代のギャルだよ!?とツッコミたくなるほどキャラが崩壊している。多分こっちが本来の姿なんだろ。俺は手(前足)を使い返信する。ニッコリマークのスタンプを。
「はぁ」
マミがため息をつきながら、またメッセージを打っている。ピコンと次はエマのダークフォンが鳴った。エマはメッセージを確認し、俺の方を向いた。
「コーセー、貴方もう少し勉強しなさい。……まあ、今はそれより、勝ち鬨をあげなきゃ」
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「……まあ、結果オーライ、なんだろうけどさ」
俺は地面に山積みになった大量の首輪を見つめながら呟いた。
その瞬間、再び視界の端で光が溢れ、脳内アナウンスがこれまでにない音量で鳴り響く。
《不当に拘束されていた魂(9,257名)の解放を確認しました。――》
《――徳ポイント獲得:1,388,550pt――》
凄まじい数値だ。トールたちの時と合わせ、この一連の騒動で救い出した魂の総数は、ついに大台を突破した
。
《――累計解放者数が10,000名を突破しました。隠し称号:【万の魂を救いし救世主】を授与します。――》
《――『万の救済』による恩恵を選んで下さい−−》
俺はエマとステータスを確認した。徳ポイントのマイナスが減ったのを眺めながら話す。
「……救世主、ね」
「ああ、徳ポイントの借金も大分減らせたな」
「そうね。まだまだ、借金はあるけど、コーセーとなら大丈夫そうね。それよりもどれにするの?」
エマが訪ねてくる。恩恵の報酬のことだろう。なんで選択式なんだよ!全部くれよ!頭で悪態をつきながらまたステータスに目をむける。
《――『万の救済』による恩恵を選んで下さい−−》
《人化(一日3時間限定)》
《瞬間移動(一日3回限定)》
《蘇生魔法(1回限定)》
《転生(またやり直しますか?)》
《シークレット(あなたの運次第)》
詳細は見なくても分かるが、最後の選択肢は何だよ!でもなあ。ガチャりたい気もするしなぁ。だが【人化】も捨てがたい。クエスト:『闇の鎖を断つ者』の達成報酬で【念話・完全版】が解放されたから、これからは皆と普通に会話はできる。しかし、この見た目では街に行って冒険者になったり屋台の買食いだったり異世界っぽい事が出来ない。【瞬間移動】は、まあ飛べるからいらん。【転生】は俺にまた死ねと?俺は意外とエマとのここの生活を気にいっているから無いな。う〜ん。実質2択か。いや1択か。
「決めた【人化】にすりよ!」
「何で【人化】なの?」
「こそこそせずにエマと世界を見て回りたいからな。俺の【一蓮托生】のスキルでエマも人化出来るだろ?」
ふっ、決まった!エマはこれで俺にベタ惚れだろ。俺はエマを見る。
「ふーん。じゃあ【人化】をポチッとな。」
エマは淡々と【人化】を選択した。いやお前どこのぼや◯◯ーだよ!どっちかというと、◯◯ンじょ様だろ!てか顔を赤らめるとかしろよー!?
「今日は俺の奢りだー!(領主の金だけどな!)コーセーもこっち来い!」
ヤスオの声で辺りを見回すと祝勝会の準備が出来たらしく皆、盃を手にしている。
「コーセー! 領主が用意してくれた特大の祝勝会が始まるわよ。私たちも行きましょう!」
エマが俺の手を引き、弾んだ声で笑う。広場では、ヤスオが暴れ、またしても酒を飲まされた燕尾服姿のユータが「うえええん! 紅茶が苦いよぉおぉ!」とシルクハットを投げ捨てて泣き始め、さるゆきがそれをニヤニヤしながら全世界にライブ配信している。
自由になった人々が、俺たちを「救世主」と呼び、涙を流して拝んでいる。
……まあ、たまにはこういう『やりがい』ってやつも、悪くないか。
俺は苦笑いしながら、騒がしいバケモノ仲間の輪へ、どうせならとエマと2人で人化してから足を進めた。




