クソ喰らえ
---獣人兄妹兄トール視点---
「お兄ちゃん、もう限界……。お腹空いたし、足も痛いよ……」
妹のマミが弱々しい声を上げた。俺達は、人目につかない場所を探して森の中をさまよっていた。街は危険だ。奴隷商人に見つかれば、再びあの地獄に逆戻りになる。
「マミ、頑張れ。もう少し森の奥に行けば、誰も来ない場所があるはずだ……」
そうは言っても、俺自身も限界だった。もう何日まともに食っていない? このままでは二人とも野垂れ死ぬだけだ。生きることを諦めかけていた。この逃亡生活は無駄だったのかもしれない。だが、マミだけは生かさなければならない。俺が生きる理由は、それだけだった。そんな時に寂れた小屋を発見した俺は希望を見出した。
「ここなら……誰もいない。ここで寝泊まりして食料を探すぞ」
マミにそう声をかけ、周辺の果実は食べつくしたから近くにあった洞窟にキノコが生えていないか探しに行く。しかし収穫は無く重い足取りで小屋に戻って少し休もうと思ったのだが、
「なっ!? ピンクの……蜂……!?」
何でこんなところに魔物がいるんだよ。魔物のおぞましい声が脳内に響き、俺たちは恐怖のあまり、すぐに逃げ出した。
「やっぱり俺たちには安息の地なんてないのか……」
どれくらい走っただろうか。後ろを振り向くとマミが俺から大分離れて蹲っている。俺は大事な妹が遅れていることに気づけなかった。自分が嫌になる…慌てて妹に駆け寄ると、
「お兄ちゃん待ってよ、もう私走れない」
「ごめんなマミ。俺がもっとしっかりしていれば」
本当に自分が嫌になる。これからどうすればと考え呆然としていると、マミが青い顔をして叫ぶ。
「ヒッ、お兄ちゃん!後ろ! に、人間! 奴隷商人!」
マミが悲鳴を上げた。俺たちにとって、人間は恐怖の対象だ。鎖、鞭、奴隷になってからの日々がフラッシュバックする。もう終わりだ。俺は死を覚悟した。空腹で力も出ない。首輪の枷でスキルも使えない。でも…マミだけは守る。獣人族の誇りにかけて。
「マミ、ごめんな。後ろを振り返らず全力で走るんだ」
俺が最後の別れをした直後、人間は一瞬で距離を詰めてきた。
「おいおい、そんなに怖がるなよ。俺は奴隷商人じゃねぇ、冒険者だ。それも、今はお前らと同じ、森に隠れてる身さ」
人間はそう言うと、懐から取り出した冒険者プレートを俺達に見せてきた。S級…一瞬呆けそうになったが、俺は警戒を解かず人間を睨みつける。
「腹減ってるんだろ?ほら!」
そう言った人間はパンを2つ渡してきた。え?大丈夫なのか?思考が追い付かない。するとマミが小声で伝えてくる。
「お兄ちゃん、変だよ、この人間から嫌な匂いがしないよ」
そうなのだ、この人間からは奴隷商人のような悪意の臭いがしない。ただ酒臭いだけだ。
「お前ら何でこんなところにいるんだ?」
「ピンクの蜂から逃げてきたんだ」
人間の問いに答えると、何かをボソッとつぶやいた後、俺の目を真っ直ぐ見つめ話しかけてくる。
「(何やってんだあいつ……)お前ら逃亡奴隷だろ?」
「……」
「まあ、気持ちは分かるがそう警戒するな。行く宛が無いなら俺についてこい。」
人間はそう言って、森の中へと歩き出した。その背中に向かって俺は問いかけた。
「なぜ、見ず知らずの獣人、奴隷に優しいんだ。」
立ち止まり振り返った人間は言う。
「俺は冒険者だ。自由に生きる冒険者だ。だから人の自由を奪う奴隷制度なんかクソ喰らえなんだよ。」
俺とマミは顔を見合わせる。怪しい男だが、このまま森で野垂れ死ぬよりはマシだ。更に人間は告げる。
「だから、お前らも自由なんだ。俺に着いてくるのも、このままどこかに逃げるのも。」
「……俺はトール、妹はマミだ。なあ俺たちも自由を求めていいいのか?」
「ああ?そんなくだらないこと俺に聞くな。それを決めるのが自由だろ。」
「自由…本当に俺たちも付いていって良いのか?いや違うな、俺たちは兄貴に付いていく!マミもそれで良いか?」
「うん!」
「兄貴って何だよっ!…まあ良いか。それも自由だ。」
俺達はまた歩き出した兄貴の背中を追いかけた。歩きながら食べた硬いパンは少ししょっぱかった。




