一石二鳥
「はぁ、はぁ……なんで俺が掃除なんてしなきゃいけねーんだよ!俺の職業は、ニートの働き蜂だぞ」
俺は、前足でボロ雑巾(ヤスオの古着)を握りしめ、埃まみれの床を拭いていた。隣では、エマがホウキ代わりに木の枝で天井のクモの巣を払っている。
「文句を言ってないで手を動かして。これも立派な徳を積む行為よ。多分。それに、雨風しのげる場所があるだけありがたいと思わない?」
俺たちがいるのは、森のさらに山奥。ヤスオが拠点にしろと言った場所だ。単なる小屋だと思っていたが、実際は少し違うようだった。
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『ここは昔、ギルドが建てた簡易宿泊施設だ。この目の前にあるのが、今はもう魔物は湧かない「枯れたダンジョン」だ。ちなみに俺が剣聖と呼ばれてた時に攻略したダンジョンでもある。ま、何も無いから冒険者も誰も来ない。お前らの拠点として、最高の隠れ家になると思わないか?』
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確かに、小屋の前には洞窟の入り口のようなものがあったが、魔力は一切感じられないし、完全に寂れている。人目につかない場所としては最適だった。
「それにしても、魔石への魔力チャージはきつかったな」
あの後、俺とエマはヤスオの指示通り、空っぽの魔石に全力で魔力を注ぎ込んだ。魔力を吸い取られる感覚は最悪だったが、無事に虹色に光る魔石が作れた。ヤスオいわく、虹色に光る魔石は国に一つあればいいほど貴重なもので、金貨1000枚はくだらない最高の魔石だそうだ。出来た時は「なんでそんなのが出来るんだよ」とマヌケ面でヤスオは首を傾げていたが考えることを放棄して、完成した魔石を受け取り「よし、これを持ってギルドに行ってくる。ついでにお前らに頼まれた買い出しもしてくるぜ」と言い残し、街へと向かった。
「これで、私たちはこの世界では「討伐済み」の扱いになる。ヤスオも借金返済、私たちは自由。一石二鳥ね!』
エマが満足げに頷く。俺も最後の仕上げとばかりに窓を拭いていた、その時だった。
枯れたはずのダンジョンの入り口から、微かな物音が聞こえてきた。
「おい、エマ。なんか音しなかったか?」
俺がエマに耳打ちした瞬間、洞窟の奥から二つの影が現れた。
一人は150センチくらいで鋭い目つきの獣人の男。もう一人は少し小柄で、130センチくらいの女の子の獣人だ。二人ともボロボロの服を着て、よろめいている。
「お兄ちゃん……もう、食料が……」
「くそっ、もうこの辺の果実は食べ尽くしちまった……」
二人は俺たちに気づかず、そのまま簡易宿泊施設へと入ってこようとしている。
「……ねぇ、コーセー。彼ら、どう見ても犬か狼の獣人よね、しかも首輪してるから奴隷みたいね」
「だよなあ。どうする? 」
エマと話していると、ドアを開け獣人が入ってきて2人と目が合った。向こうも一瞬固まるが、すぐに臨戦態勢に入ろうとする。
「なっ!? ピンクの……蜂……!?」
「こ、コーセー! ほら、念話! 念話で誤解を解くのよ!」
エマが慌てて俺に指示を出す。俺は2人を怖がらせないように、最高に穏やかな声色で念話を飛ばした。
『やぁ、初めまして。ここはもう使われてないから、好きに使っていいんだぜ(聖人風)』
――しかし、俺の念話は、冒険者の少年の時と同じように最悪の変換をされた。
「ヒィッ! な、なんだあのピンクの蜂! 『この食料庫は我らが占拠した……命が惜しければ、このまま回れ右をしろ。さもなくば、その肉を喰らう……(魔王風)』だとぉぉぉ!!」
「お兄ちゃん! 逃げよう、食べられるよ!」
狼の獣人と犬の獣人は、顔面蒼白になり、街のほうに向かい全速力で逃げていった。
「……おい、エマ。ヤスオにはちゃんと会話出来てたから、不完全っての忘れてた」
「ヤスオは【状態異常無効】のスキル持ちだから、強制変換を弾いただけだもんね。一般人には、やっぱりデビルボイスで届くみたいね。はぁ……」
エマが大きなため息をついた。
「この辺りに人は来ないって言ってたのに普通にいたな。あの2人逃げた奴隷かな?」
「多分そうね、ヤスオが帰ってきたら色々確認しなきゃだめね」
エマと話をしながら、ヤスオが帰ってくるのを待っていると、外が少し騒がしくなって来た。窓から覗いてみると、ヤスオとさっき逃げ出した2人の獣人が小屋に向かって歩いてきてた。




