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親より先に死んだ俺、異世界で徳を積んで無双する  作者: 田舎浪漫


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12/23

社畜


『『……は?』』


切り株の上で、俺とエマの声(念話だが)が完全にハモった。

死ね、だと? この男、契約書にサインした直後に、互いへの危害禁止条項を破るつもりか?


『おい、ヤスオ! 契約したばっかりじゃない! 何が「死んでくれないか?」よ!』


『そうだぞヤスオ! 俺たちS級だかSS級だか知らねーけど、やるってんなら容赦しねーぞ!』


俺たちが騒ぎ立てると、ヤスオはキョトンとした顔で首を傾げた。


「いやいや、マジで死んでくれって話じゃねぇよ。偽装工作だ、偽装工作」


ヤスオはそう言って、ニヤリと笑った。その顔は、契約前の飲んだくれのそれとは違い、B級(元S級?)冒険者としての狡猾さが滲み出ていた。


「お前ら、ギルドで討伐依頼が出てるのは分かるだろ? 『ピンク・デビルを追え』。最初は銀貨3枚だったが、お前らの本当の危険度が知れ渡りゃ、すぐに報酬は跳ね上がる」


俺ははっとした。確かに、討伐依頼が出てもおかしくない。


「俺は飲んだくれだし、借金でギルドから降級食らってる。俺も報酬目当てで襲いかかったわけだし、まぁ、金は欲しい。だから、お前らの悪評を利用して、一気に稼ぎたいわけよ」


『つまり……私たちを「倒した」ことにして、ギルドから報酬をせしめる、と?』


エマがヤスオの意図を正確に読み取る。


「そういうこった。お前らは俺に『討伐された』ことになって、一件落着。俺は借金返して晴れてA級……いや、S級に復帰。お前らは指名手配から解放されて、のんびり蜂蜜酒が作れる。ウィンウィンだろ?」


ヤスオはなんてことないように言ったが、俺は頭を抱えた。


『無茶言うな! どうやって俺たちS級死を偽装するんだよ!? 討伐証明がないと報酬はもらえねぇだろ。ギルドはごまかせないだろ?』


「まあまあ、落ち着けって。実はな……」


ヤスオはそう言うと、背負っていた大きな荷物袋をガサゴソと漁り始めた。中から出てきたのは、酒瓶とサッカーボールサイズの黒い石だった。そこには、微かにだが強力な魔力の残滓が感じられた。

「これは『ファイア・ドラゴン』の魔石だ。中身は空っぽだが、元々は危険度S以上の魔物が持ってたもんだ。討伐証明は魔石で大丈夫だ」


ヤスオはニヤリと笑った。


「お前らの魔力をこの空っぽの魔石に注ぎ込めば、鑑定士は『これはS級魔物の死体から取れた魔石だ』と勘違いする。そうすれば、死の偽装は完璧に機能するって寸法よ」


『なるほどな! 俺たちの魔力を注ぎ込むわけか!』


「その代わり、報酬は、俺の借金返済が優先だ。お前らには、当面の間は森のこの開けた場所を拠点に、蜂蜜酒作りで自給自足してもらう」


ヤスオはさっきとは打って変わって真剣な顔で、俺たちに提案した。


「どうだ? のんびり酒作るか、それとも冒険者に怯えながら逃げ回るか。選ぶのはお前らだ」


俺とエマは顔を見合わせた。どう考えても、ヤスオの提案に乗る方が安全だ。


『……仕方ないわね。』


『俺もそれでいい。まずはこの魔石に魔力を注ぎ込むか……』


こうして、俺たちの異世界生活は、「魔石を使った死体偽装」という、どこか後ろめたい形で新たな展開を迎えたのだった。


この後、エマについてはまだ、伏せ、俺が転生者であることはヤスオに伝えて、偽装について簡単な打ち合わせも行った。


そして少し落ち着いたところで、俺達は雑談をはじめた。


「それにしても、コーセーは飛ぶのが上手ね。私はまだ慣れなくて、地面よりちょっと浮くのが精一杯ね」


エマがため息をつく。その姿は威厳というより、どこか寂しげに見えた。


「そういや、エマって俺を蜂に転生させる前に、蟻か蜂かで悩んでたんだろ? 結局なんで蜂にしたんだ?」


何気なく尋ねた。

エマは少し黙り込み、遠くの空を見上げた。


「……私ね、地獄省で何年も働いてきた社畜なのよ。毎日毎日、流れてくる魂を裁くだけ。決められた机、決められた仕事。地下一階の薄暗い執務室から出たことなかったの」


その告白に、俺は少し驚いた。てっきり威張っているだけのポンコツ神かと思っていたが、彼女なりの苦労があったらしい。


「……だから、空を自由に飛べる蜂に憧れたの。地下の閉じ込められた感のある生活が、心底嫌だった。蟻は地中……地下で働くでしょ? だから、コーセーには空を飛んでほしかったのよ。私の代わりに、自由にね」


エマの声は、いつもの威張り腐った口調ではなく、穏やかで少し切なげだった。


「……なるほどな。だから、俺に飛翔スキルを取らせたのか」


「ええ。あなたの本来の目的は『親孝行』だけど、その過程で、空の広さとか、自由を感じてほしかったのよ。……まあ、結局私も一緒に落ちて、まだ下手すぎて一緒に飛べないんだけどね。クスクス」


エマは自嘲気味に笑った。その姿を見て、俺は少しだけ、この理不尽な相棒への見方が変わった気がした。


「そっか。じゃあ、まずは俺が空を飛んで、美味い蜜をいっぱい集めてやるよ。それが最初の仕事だ」


「ええ、頼んだわよ、コーセー」


俺たちは、空を見上げた。俺はピンクの蜂として、エマは飛べない女王蜂として。ヤスオは「俺は酒さえあれば」と笑っている。







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