第5部 前編 ただの敬虔な信徒だったのに。なんでこんなことに…
私は、とある教えを信じる敬虔な信徒だった。
特別な地位はない。
英雄でも、神官でも、指導者でもない。
ただの、一般市民だ。
それでも――
私は前世の記憶を持って生まれ、
そして、チートと呼ばれる力も与えられていた。
だが私は、それを使わなかった。
信仰とは、
力に頼らず、
弱さを抱えたまま祈ることだと、
そう教えられていたからだ。
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私は、幸せだった。
妻がいて、
子どもがいて、
両親も健在で。
朝は祈り、
昼は働き、
夜は家族と食卓を囲む。
それだけで、十分だった。
世界がどうなろうと、
国がどんな正義を掲げようと、
私の生活は、ここにあった。
――あの日までは。
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とある帝国が侵攻してきた。
彼らは、自らを秩序の守護者と名乗っていた。
そして、私たちの信仰を――邪教と断じた。
理由は、分からない。
教義が危険だと。
過去に多くの悲劇を生んだと。
再発防止のために排除すると。
そんな言葉が、掲げられていた。
祈りは禁じられ、
聖典は焼かれ、
信徒は捕らえられた。
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家に、兵が来た。
私は、何もできなかった。
妻は、私を庇った。
子は、泣きながらしがみついた。
両親は、何も言わずに立っていた。
「異端を匿った罪」
それだけだった。
血の匂いを、
私は今でも覚えている。
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その日、
私の信仰は滅ぼされた。
国によって。
秩序によって。
正しさによって。
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生き残ったのは、偶然だ。
瓦礫の下で気を失い、
目覚めた時には、
全てが終わっていた。
泣かなかった。
泣くべき理由が、
多すぎて、選べなかった。
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復讐を決意したのは、
数日後だった。
感情ではない。
――これを許せば、
同じことが、
どこかで、
誰かに起きる。
その確信だけが、
私を立ち上がらせた。
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今、私は仲間と共にいる。
僅かに生き残った信徒たち。
信仰を捨てなかった者たち。
家族を失った者たち。
私たちは、
レジスタンスと呼ばれている。
帝国から見れば、
ただの残党だ。
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私は、チートの力を使い始めた。
祈りと、
前世の知識と、
この世界の理を重ね合わせて。
それが、正しいかどうかは分からない。
だが――
何もしないよりは、ましだ。
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帝国は強い。
世界は、彼らを支持している。
それでも、私は抗う。
信仰のためか。
復讐のためか。
それとも、
自分が壊れきっていないと証明するためか。
分からない。
ただ一つ、確かなことがある。
この世界では、
滅ぼされた側にも、物語がある。
私は、その物語を、
ここから始める。




