第4部 前編 聖国いくらなんでも調子乗りすぎ。こりゃダメだ
余は、とある国の皇帝の子として生まれた。
前世の記憶があり、
そして――チートも、あった。
この世界において、それはもはや珍しいことではない。
だが、皇族という立場と組み合わさると、話は別だ。
俺は早い段階で理解していた。
力があるだけでは、世界は動かない。
だが、立場と力が揃えば、世界は簡単に歪む。
最近、その歪みが目に余るようになってきた。
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聖国が、調子に乗っている。
魔王を討ち、
魔族を絶滅させ、
世界を救ったという“実績”を盾に。
彼らは今や、
自らを世界の道徳的上位者だと信じて疑わない。
信仰を要求し、
上納金を課し、
従わぬ国には「神意に背いた」と圧力をかける。
表向きは平和だ。
だが、それは
教国の解釈する「正しさ」に従う限り、という条件付きの平和だった。
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特に深刻なのが、亜人への扱いだ。
聖国は、
亜人は魔族の残党である
と勝手に定義した。
事実かどうかは、関係ない。
魔族が滅びた今、
新たな“悪”が必要だっただけだろう。
迫害、隔離、強制改宗。
抵抗すれば、異端。
各国は不満を持っていたが、声を上げられなかった。
魔王を倒した英雄国家。
宗教的権威。
軍事力。
三つが揃った相手に、
単独で逆らえる国はない。
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だから俺は、決めた。
聖国を止める。
正義のため、ではない。
復讐でもない。
国際秩序のためだ。
一つの価値観が、
「絶対の正しさ」を名乗り始めた時、
世界は必ず壊れる。
それを、余は前世の歴史で知っている。
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余は、チートの力を使った。
だが、剣や魔法ではない。
情報処理能力。
交渉の最適解。
未来予測。
そして、皇族という立場。
水面下で各国と接触し、
利害を整理し、
恐怖と不満を言語化してやる。
「聖国が正しいと思えるのは、今だけだ」
「次は、あなたの国が“異端”として断罪されるかもしれない」
その言葉は、よく効いた。
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そして、余は提案した。
国際会議の開催。
名目は、
「魔王討伐後の世界秩序の再確認」。
聖国は、断らない。
自分たちが世界の中心だと証明する、
絶好の舞台だからだ。
各国も、参加する。
これは、
戦争ではない。
まだ。
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会議の準備が進む中、
余は一人、地図を見ていた。
かつて滅ぼされた国。
消えた種族。
勇者と魔王。
全てが、
「自分が正しい」と信じた結果だった。
次に滅びるのは、
聖国か。
それとも――
帝国か。
それを決める場が、
もうすぐ開かれる。




