第2部 前編 イキリチート貴族に俺の留守中に国ごと家族が殺された話
俺は、魔族に転生した。
それ自体に、特別な感慨はなかった。
前世の記憶はあるが、だからといって世界に期待していたわけでもない。
ただ、生まれ変わった先が人族ではなく魔族だった、というだけだ。
そして――チートは、あった。
魔力量、魔力制御、理解速度。
人族基準で言えば、明らかに規格外だ。
だが俺は、それを表に出さなかった。
理由は単純だ。
目立つ必要が、なかった。
魔族社会は力を尊ぶが、同時に「実績」を重視する。
若くして突出した力を示せば、警戒されるか、利用される。
面倒だった。
だから俺は、無難に生きた。
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王都で職を得て、家庭を持った。
妻は特別な血筋ではない、普通の魔族だった。
子どもも二人。才能はそれなりだが、健やかだった。
慎ましやかだが、不満はなかった。
王都は安全で、仕事は安定していて、
明日が今日の延長として続く生活だった。
俺は、自分が強いことを忘れていた。
いや、忘れたふりをしていた。
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ある日、王都を離れた。
仕事の都合で、数日。
長くても一週間で戻る予定だった。
国が滅ぶとは、思わなかった。
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異変を最初に感じたのは、国境を越えた後だった。
通信魔法が繋がらない。
街道が荒れている。
避難している魔族の姿。
嫌な予感はあった。
それでも、国ごと消えているとは思わない。
普通は、そうだ。
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王都は、なかった。
正確には、王都だったものがあった。
崩れた城壁。
焼け落ちた建物。
魔力反応は、ほとんど残っていない。
――徹底的だった。
軍事侵攻というより、掃討に近い。
俺は、急いで家に向かった。
だが、そこにも何もなかった。
妻も、子どもも。
痕跡すら、ほとんど残っていない。
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後で知った話だ。
侵攻してきたのは、人族だった。
しかも、単なる国家ではない。
人間の貴族に転生した、チート持ち。
若く、強く、そして――ひどく傲慢だった。
彼は魔族の王を討ち、
象徴となっていた存在を消し、
国家という形そのものを壊した。
理由は、復讐。
自分の領地が、留守中に滅ぼされたから。
それだけだ。
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俺は、その話を聞いても、すぐには怒れなかった。
理解できてしまったからだ。
力を持った者が、
合理性と再発防止を理由に、
「仕方ない」と判断すること。
その論理は、あまりにも整っていた。
だが――
その合理性の中に、
俺の妻と子は、ただの「含まれる犠牲」として処理された。
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その夜、俺は決めた。
感情ではない。
計算だ。
彼が生きている限り、
同じことが、別の場所で起こる。
彼は、自分が正しいと信じている。
なら、その正しさごと、否定する必要がある。
俺は、力を使うことにした。
今度は、隠さない。
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復讐を決意した時点で、
俺の平穏な人生は終わった。
だが、後悔はない。
留守中に、
国ごと、
家族ごと、
人生を奪われた者が、
黙っている理由は、どこにもなかった。




