第1部 後編 そして復讐はなされた
俺は、領地の廃墟に三日間いた。
何かを探していたわけではない。ただ、事実を受け入れるために、歩き回っていただけだ。
焼け落ちた役所。
壊された用水路。
逃げきれなかった者たちの痕跡。
誰も俺を責めなかった。
生き残った者たちは、むしろ頭を下げた。
――それが一番、堪えた。
俺が不在だった。
それだけで、彼らの人生は終わった。
この世界では、それが「よくあること」なのだと、理解してしまった。
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復讐を決意するのに、時間はかからなかった。
感情ではない。計算だ。
魔族の侵攻は成功体験になっている。
魔族の王は、力で押せば人族は引くと学んだ。
今回を許せば、次は別の領地が選ばれる。
俺の領地である必要は、なかった。
だから――終わらせる必要があった。
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魔族の国へ向かう道中、俺はかつて使わなくなった力を解放した。
転生時に与えられた、過剰な才能。
理解すれば即座に最適化される魔力操作。
人族の常識から外れた演算速度。
領地運営に不要だったそれらを、戦闘用に再構築する。
皮肉な話だ。
俺が「無双をやめた」から滅び、
俺が「無双に戻った」ことで、世界が一つ消える。
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魔族の王は、自身を疑っていなかった。
王城は堅牢で、周囲には精鋭。
侵攻の成功が、判断を正しかったと証明していると思っていた。
魔族は力を尊ぶ。
そして王は、最も力ある存在だった。
だから酔っていた。
自分の判断が世界を動かしたことに。
俺が王の前に立った時、彼は俺を敵とも認識しなかった。
「人族の貴族か。交渉か?」
そう聞いてきた。
――違う。
俺は交渉に来たのではない。
再発防止に来た。
王の防御魔法は完成していた。
理論上、正面から破るのは困難だ。
だが理論は、人族の想定だ。
魔力回路を読み、王自身の魔力流に干渉し、共鳴を逆転させる。
防御は、内側から崩壊した。
王は理解できないまま死んだ。
力を誇った者ほど、自分が否定される瞬間を想像しない。
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例の令嬢は、別の場所にいた。
保護され、丁重に扱われ、魔族の象徴のような存在になっていた。
彼女は俺を見るなり、安堵した顔をした。
「助けに来てくださったのですか?ですが、私は自分の意思でここにいるのです。それよりも、彼はどうしました?」
――彼女はまだ状況を理解していないようだ
彼女が悪だとは思わない。
王太子に捨てられ、居場所を失った被害者だ。
だが、彼女の存在が「侵攻の正当性」になった。
それだけで、十分だった。
彼女は最後まで理解しなかった。
なぜ自分が殺されるのか。
なぜ救われないのか。
答えは単純だ。
世界は、被害者だけで構成されていない。
彼女が生きていれば、同じ理由で、別の侵攻が起こる。
それを止める方法は、存在そのものを消すことだけだった。
短い一撃だった。
苦しみはなかったと思う。
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王を失い、象徴を失った魔族の国を、滅ぼす。と言っても王都といくつかの主要都市を破壊しただけだ。
強さで繋がっていた国家は、強さを失えば崩れる。
これにより内紛が起き、周辺国が介入し、数年後には「かつて魔族の国だった土地」になるだろう。
俺はそれ以上関与しなかった。
やるべきことは、終わっていた。
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俺は英雄にならなかった。
称賛も、感謝もなかった。
ただ、俺の領地は戻らない。
だから俺は知った。
この世界では、
真面目に生きるだけでは、何も守れない。
力を持ち、使う覚悟を持たなければ、
善意はただの隙になる。
そう理解した時、
俺はようやく、この世界に転生した意味を理解した。
貴族の男の保有チート
高い素質
領地運営能力




