17 華燭の典と葬送の儀(3)
ウラナの恐ろしい顔を見ながら、リーユエンはミレイナへ視線を走らせ、助けを求めた。王女は、二人の間に立ち、
「ウラナ、リーユエンは公務で忙しかったのだから、許してあげなさいな。私がここへ来たのは、リーユエン、あなたに、挙式と披露宴の出席を直接お願いしたくてなのよ」と、話しかけた。
リーユエンは、一瞬、虚をつかれ、黙り込んだ。それから、
「乾家の挙式は、乾陽大公のお屋敷で行う私事でございましょう。法座主猊下と高祖さまがご臨席あそばされます。しかし、私は玄武ではないので、出席の方は・・・」と、力無く笑って察してほしい様子をみせた。
ミレイナは、リーユエンへ近寄りその両手を自身の両手で握りしめ、
「あなたは、明妃なんでしょう。それなら、法座主猊下の妻ってことじゃない。式に立ち会い、披露宴に出席するのは当然でしょ」と、言った。リーユエンは、ミレイナを見つめたが、その紫眸には翳りが現れ、ミレイナから視線を外し、
「いえ、明妃であっても私は凡人です。玄武の皆様の慶事に出席するなんて、分が過ぎたことです。それはできません」と、沈んだ声ながら、はっきり断った。そして、
「お招きいただいたことは、心から感謝申し上げます。ですが、それはできかねることございます。どうか、お許しくださいませ」と、言った。
「リーユエン・・・」
まさか、断られるとは思いもしなかったミレイナ王女は、呆然とした。リーユエンは沈痛な表情だったが、突然、はっとして、
「あっ、そうだ、ウラナ、明日、ハオズィの商会から、青薔薇と白薔薇とそれに薔薇香水と、それから蓮花堂から蜘蛛織の霞レース生地が届くから、それを受け取って、好きな様に使いなさい」と、言った。そして、ミレイナ王女へ、
「挙式と披露宴の主役でいらっしゃるのだから、美しく装ってくださいね」と微笑みかけ、扉の外へ送り出した。
しかし、廊下へ出されたミレイナ王女はまだ諦めなかった。
「いいわ、本人がダメなら、法座主猊下にお目にかかってお願いするわ」と、言い出した。ウラナは、今さら投げ出すわけにもいかず、次は法座主の執務室へ連れていった。ところが、ここも廊下には、溢れそうなほど面会待ちの凡人やら魔導士やら人外のものやらが群がっていた。それでも、内官をつかまえ何とか中へ通してもらえたが、ミレイナ王女の話を聞くドルチェンの薄緑色の眸にも翳りが現れた。
「明妃自身が断ったとなると、それを翻意させるのは、わしでも無理だな」
「ええっ、どうしてですかっ。伯父上さまは、明妃の旦那様でしょう。説得なさってください」
恐れ知らずの王女は、もう猊下のことを義伯父扱いして頼みこんだ。
けれどドルチェンは首を振り、
「明妃がそのように決断した以上、わしはその決断を尊重するしかないのだ。それほど、明妃と玄武の間の軋轢は根が深いのだ。明妃は、あなたと乾陽大公の式が台無しになることを恐れているのだから、どうか悪く思わないでほしい」と言い、面会を打ち切ってしまった。
それで、とうとうミレイナ王女は、高祖を頼ることにした。
しかし、ミレイナの話を聞いた高祖は、「リーユエンの判断が正しい」と、断言したのだ。
ミレイナは、「ええっ、どうしてですか?」と、尋ねた。
高祖は、若い昆孫に視線を向け、
「そなたは、陰玄武というものを知らぬからだ」と言った。
ミレイナは首を傾げた。
「どういうことですか?」
高祖は、ミレイナへ椅子へ座るよう促し、自身も長椅子に腰かけて
「そなたは、あの魔に堕ちた陰玄武を見ていないし、あの時、居合わせた大公たちの会話も聞いていない。しかし、私はすべて見届けている。この国の玄武の中にある、明妃に対する反感は非常に根深いのだ。一朝一夕で解決するような問題ではないし、そなたと乾陽大公が婚姻したところで、それで状況が好転するとも思えない」と、言った。
ミレイナは、高祖の言葉に衝撃を受けた。
「そんな・・・・私たちが知り合ったのはリーユエンのお蔭だし、私をウマシンタ川の岸から助け出してくれたのは、彼女なのに・・・私は、彼女の立場を少しでもよくしてあげたいのに・・・」
高祖は、青味がかった翡翠色の眸を、昆孫へ向けた。
13日に、また掲載します。再見!




