17 華燭の典と葬送の儀(1)
(ウラナの独白)
とうとう、ミレイナ王女殿下から、ご下問がございました。覚悟はしておりましたが、何とお答えするべきなのでしょう。実は、ドルーアの事件があってから、明妃殿下は離宮へ一度もお戻りではないのです。復位の告知はとうの昔に終わっておりますのに、あの方は、まだヨーダム大師の東塔に入りびたり、こちらへ戻られないのです。しかも法座主猊下まで、その事を黙認しておられるのです。一体どういうことなのでしょう?もう、有りのままお話しするしかなさそうです。
ウラナは一寸躊躇ったが、
「明妃は、所用がお有りのようで、ヨーダム太師のもとにご滞在でございます」と、返答した。
ミレイナは、愛らしい仕草で首を傾げ、
「ヨーダム太師ってどなたなの?」と、尋ねた。
「魔導士学院の創立者のお一人で、プドラン宮殿の外壁沿いにある、魔導士塔のお一つにお住まいの偉い魔導士でいらっしゃいます」
ウラナの説明を聞いた王女は、目を輝かせ
「思い出したわっ、魔導士界の最高峰と云われる偉大な魔導士よね。それに、確か、リーユエンのお師匠さまでしょ?私、その人にも会ってみたいわ。ねえ、ねえ、その魔導士塔へは、どう行けばいいの?午後からの予定を変えて、そこへ行ってみるわ」と、言い出した。
天真爛漫な王女の反応は愛らしい、と思いながらも、このぎっしり詰まった予定を変えろだなんて、そんなの無理でしょう、と内心こぼしながら、ウラナは厳格な表情を崩す事なく、
「恐れながら、王女殿下、午後の予定を変えるのは難しゅうございます。そんな事をすると、予定がさらに過密となり、殿下ご自身のご負担が増すだけでございますよ」と、婉曲に断った。
しかし、王女は、
「ええぇぇー、予定表を見たけれど、別に式を挙げた後で聴講しても構わない科目も結構あったわ。それより、私は、リーユエンに直接会って、挙式の立ち会いと、披露宴の出席を絶対お願いしたいのよ。乾陽大公に出会えたのは、リーユエンのお蔭なのだから、私から直接お願いしたいのよ」と、真剣な口調で言った。
ウラナは、その言葉に感動した。けれど、やはり予定を変えるのは躊躇われた。ウラナの反応をうかがっていたミレイナは、
「ウラナ、あなただって、あの噂のことは知っているのでしょう?」と、いかにも悲しそうな顔をつくって話しかけた。ウラナは怪訝な顔をして、
「あの噂とおっしゃいますと?」と、言った。
ミレイナは、声を潜め、「ほら、ダルディン様とリーユエンが関係しているっていう噂よ」と、言った。さすがのウラナも顔色を変え、
「そんな事あるはずがございません」と声が大きくなった。
ミレイナは、彼女の腕を手でそっと叩き、
「落ち着きなさい。大丈夫よ。私は、そんな事は信じていないわ。ダルディン様は誠実なお方だもの。私のことを愛してくださっているわ。ただね、周囲がリーユエンと関係していると信じているでしょう?それってよくないと思うの。だから、私が直接頼みにいって、私たちの関係はそんなものではないって事をはっきりさせておいた方がいいと思うのよ。だから、お願い、午後からの予定を変えて、私をヨーダム太師のところへ連れていってちょうだい」と、説得した。
ウラナは、王女の言葉に強く感動した。ここまで明妃の立場を慮ってくれる玄武の女性が、初めて現れたのだ。もちろん巽陰大公だって色々配慮はしてくれるが、あくまで長老格としての立場からの配慮で、直接的なものではなかったのだ。けれど、ミレイナ王女は自ら動き、自身も噂の矢面に立たされることを覚悟の上で、動こうと言ってくれたのだ。ウラナは、王女の頼みを引き受けることにした。
ウラナは、東塔へ行く前に、法座主のもとへ使いを出し、明妃の居場所を確認させた。すると、彼女は執務のため、東塔を出て、法座主棟内の会議室にいると返事があった。ウラナは、ミレイナをそこへ連れていった。
迷路のようなプドラン宮殿の廊下と階段を歩き、ウラナはその会議室の近くまでやってきた。一丈四方の小さな会議室の前の廊下には、書類を抱えた役人たちが長い列を作っていた。そして会議室からは何やら議論する声が聞こえた。




