16 喪失(5)
ダルディンは、カーリヤへ生真面目な顔つきで
「リーユエンは、いつも玄武の国の事を思い、猊下の立場を考えて行動しているのに、どうして他の大公は、彼女のことを認めようとしないのでしょう?リーユエンは、ただ我慢ばかり強いられて気の毒すぎる」と、言った。
カーリヤはうなずき、「あの子は、本当によく辛抱していると思うよ。私だったら、とっくの昔に後ろ足で砂を引っ掛けて、こんな国からは遁走していただろうね」と言い、続けて、
「だからね、ダルディン、せめて、おまえとリーユエンは、今は、もうそんな関係ではないという事を、公にした方がいいんだよ。それは分かるだろう?」と、話しかけた。
ダルディンは、眉をひそめ
「だからと言って、それで求婚するだなんて、動機が不純すぎやしませんか」と、こぼした。
カーリヤは、口元を歪めるように笑い
「まったくおまえは甘ちゃんだねえ。玄武の婚姻なんて、政略そのものなんだよ。どの家の、どの世代の、誰の血筋と姻戚関係を結ぶかがすべてなんだよ。恋愛感情なんて二の次さ」と、諭し、「それに、お前だって知っているだろう。玄武の女が出産できるのは、齢でせいぜい八百年くらいまで、頑張って九百年だ。甲羅が厚みを増して法力が蓄えられる千年を越えてしまえば、もうそれは陰玄武となるから、出産なんてできなくなるんだ。それに娘らしい初々しさなんて、せいぜい齢五百年までさ。あとはひたすら自我のはっきりした、物事に動じない、図太い女になる一方なんだよ。その点、ミレイナ王女は齢二百年、ごく若い玄武なんだから、おまえの言う事をよく聞くはずだよ」と、言った。
ダルディンは、大伯母のあまりに夢のない言葉に情けなくなった。けれど、カーリヤは、ダルディンのそんな思いなどお構いなしに、
「玄武の国には、おまえと釣り合うほどの出自の、若い玄武の娘がいない。リーユエンだって、その事をよく分かっていたから、おまえを引きずるように、言い方は悪いかもしれないが、自分自身を餌にしてまで、おまえを東荒の果てまでまんまと連れ出したんだよ。ミレイナ王女は、これ以上望めないほど、おまえには勿体無いくらいの良縁だよ。何といっても、あの東海大帝の直系なんだからね。せっかくご縁ができたのだから、さっさと求婚して、身を固めなさい」
ダルディンはもう涙目だった。リーユエンが自分を連れ出すために、彼女自身を差し出したなんて、そんな話は信じたくなかった。けれど、まったく無視するには、もうリーユエンの裏表のあれこれを知りすぎていて、それもありそうな事だと納得してしまう自分がいた。ダルディンの反応を見ながら、カーリヤは非情にも、
「おまえだって思い当たることがあるのだろう。けれど、リーユエンを責めてはいけないよ。おまえに、まだ少しでも情が残っているのなら、あの子の立場がこれ以上悪くならないよう、さっさと身を固めて、明妃との間に、そんな情などありはしないと、皆にはっきり示すべきだよ」と言い渡した。
ダルディンの心の中には、彼女への情ならまだ有り余るほど存在した。けれど、それを表に出すことは、ドルチェンがいる以上、決して許されないことだった。それに、真実思っているのなら、彼女を苦境から救うべきなのだ。決して配偶には選べない相手だと分かっている以上、情を捨てる覚悟を決めるべきだった。ダルディンは瞑目し、暫し沈黙した後「わかりました」と、簡潔に答えた。
その二日後、ダルディンは迎賓館を訪れ、白いアムネリアの花が満開の庭園で、ミレイナ王女へ求婚した。王女は眸を輝かせ頬を染めて、彼の求婚を受け入れた。
その後、ダルディンは、高祖へ謁見を願い、王女を娶りたいと願い出た。
「ミレイナは、元よりその心づもりで来たのだから、私に異論はない」と、高祖は上機嫌で言った。それから、ダルディンへもっとそば近くへくるよう手招きし、跪拝を解いて立ち上がり、近寄ってきた彼を隣へ座らせると、端正な顔に笑みを浮かべ、
「婚姻を結ぶ決心をしてくれて上々だ。これで、リーユエンの周囲から、競争相手がひとり減ることになるからな」と、言った。
ダルディンは、昆孫の婚姻の慶などそっちのけで、話題をそちらへ振る高祖に呆れてしまった。
「そんな呆れた顔をするな。王女の結婚はもちろん重要だが、私自身にとってはこちらの方が切実なのだ。そうだ、もう結婚する身となったのだから、おまえにも、いい事を教えてやろう」
高祖は、目を細め、ダルディンへささやいた。
また、11日に掲載します。再見!




