15 魔境の刺客(3)
ウラナから、離宮へ呼びつけられたムンガロは、リーユエンを見るなり、目を見開き、大口を開け、しばらく固まった。
リーユエンは、あまりに長い間、ムンガロが動かないので心配になり、
「大丈夫?ムンガロ」と、声をかけた。ムンガロは、その声にはっと我に返り、
「明妃殿下、素晴らしいっ、完璧です。もう、あなた様は、正真正銘、四荒太平の中で、最高の美女でいらっしゃいます。このムンガロへお任せください。あなた様の美を、さらに、さらに、引き立てるお衣装を今すぐご用意いたします」と、叫んだ。
リーユエンは、表情が引き攣るのを必死でこらえ、辛うじて笑顔を保ちながら、
「式典といっても、復位するだけだから、大した儀式ではないのよ。あなたの腕前で、何とか見られるようにしてちょうだい」と、言うのがやっとだった。けれど、ムンガロは目を剥き、鼻息も荒く
「お任せください。皆の目を、殿下から二度と離せなくなるようにいたしましょう」と、宣言した。
リーユエンは、内心、衣装なんて、普通に着られれば、それでいいじゃないか、どうして、ウラナといい、ムンガロといい、着飾ることにそんなに情熱的になるのか、さっぱり分からない、私を着せ替え人形扱いするのだけは、やめてほしいよと、ぼやいた。
その後、ムンガロは色々衣装合わせをし、純白に蓮華唐草紋様が細かく織りこまれた衫と、同じく純白に白金の糸で中程から裾にかけて、大柄の蓮華と月映水流紋を刺繍し、銀と金の砂子を箔付けした裙、袍は玄色で、広襟に金糸で玄武流水紋を刺繍したものを用意した。そして胸のすぐ下で衫を下帯で結び止め、裙を常より高い位置から錦繍飾り帯で結び止めて着付けし、襟元を広く開けて胸元を強調し、その上から袍を羽織らせ、金剛石と紫鋼石が輝く金の瓔珞で七重に飾りつけた。
「これ、何だか少し開けすぎでは・・・」
姿見で自分の格好を見たリーユエンは、あまりに白い胸元が、首筋からすべて露わになるのが恥ずかしく、ムンガロへ遠慮がちに抗議した。けれどムンガロは首を振り、
「いいえ、通常この程度は既婚の方でも開けておられます。少しだけお待ちください。衿幅を縫い縮めて、調節いたします」と、いい、手早く余った襟を畳み込み、まち針で仮止めしていった。
その時、リーユエンはいままで感じたこともない、凶悪で禍々しい気配が突如現れたのを感じた。心の臓がドクンと一拍大きく脈打った。
(何だ、この禍々しい気配は・・・)
それを感じると同時に、リーユエンがいきなり体を大きく動かしたため、針が一本肌をかすった。針がかすったところが傷となり血が玉となって滲み出た。ムンガロは、貴人を傷つけてしまい、自身が犯した過ちへの恐怖で、髪が逆立ち、顔が真っ青になりながらも、すぐ針を持った手を離し、
「殿下、申し訳ございませんっ」と、飛び下がって跪き、額を床へ打ちつけた。
ムンガロの声で、我に返ったリーユエンは、近寄ると彼を助け起こし、
「そんなことどうでもいい。それどころじゃない。今すぐ、店の人たち全員を連れて、宮殿から出なさい」と話しかけた。ムンガロは、殿下はお怒りで、我々を馘にするのだと思い、身を震わせ涙目となった。けれどリーユエンは、眉をしかめながらも、
「そうじゃないのよ。ここにいたら危険なの。すぐ逃げてちょうだい。逃げるときは、庭を抜けて、奥の門から外へ出て、宮殿の外園から西門へ行ってそこから逃げなさい。絶対に正門の方へ行ってはダメよ。何か、危険なものが正門から入ってきたわ。仮縫いなら後でしたらいいから、早く逃げてちょうだい」と、一気に言った。その真剣な表情で、ムンガロは本当に危険が迫っているのだと理解し、
「畏まりました。あとで、必ず参上いたします」と、いい、店員たちを呼び集めて庭から出ていった。
リーユエンは、すぐさま、「ウラナ、ウラナ、早く来て、緊急事態よ」と、叫んだ。リーユエンから大声で呼ばれたことに、何事かと驚きながら、慌ててウラナが駆けつけると、リーユエンは、「すぐ、猊下と、高祖さまを呼んできて、それから大公も集めて、禁軍を正門の守備へ回してっ」と叫んだ。




