14 玄武の話し合い(3)
高祖の傍へ近寄ると、巽陰大公は、袂から錦繍に包まれた品を取り出した。そして、
「どうぞ、ご自身の目でご見分ください」と、言いながら、恭しく差し出した。
高祖は、片手でそれを取り上げ、何げなく包みを解いた瞬間、「これはっ」と、顔色を変えた。包みの中から現れたのは、青白い光が脈打つ、握り拳大の太極石だった。高祖は、それを魅入られたようにしばらく見つめ、
「何という大きさだ。それに、何という輝き、脈動して生きているかのようだ。これほどの太極石、私も、今まで見たことがない」と、つぶやいた。
巽陰大公は、「これは、昨年、リーユエンが法座主と瑜伽業を行い、作り出した石でございます。これが十年分現れました」と、述べた。
「十年分・・・」
さすがの高祖も、顔色を失い言葉も失った。巽陰大公は続けて、
「私は、この結果に狂喜いたしました。これで、明妃はすべての大公家一族から、その力を認められ、明妃として相応しい敬意を示されるに違いないと思ったのです。けれど、それは見込み違いでございました。けしからぬ一族は、明妃を捕まえて、家畜のように使役しようと企みました。その企みと、ドルチェンが明妃をいかんともし難い事情で金杖王国へ渡らせ、王太子の配偶になるだろうと思いつめて閉関した時期が不幸にも重なってしまったのです。言い訳にしかならないことは重々承知のうえでございます。そうであっても、ドルチェンも、そして私もまた、高祖の尊い血を引く玄武のひとり、どうかご宥恕ください」と、訴えた。
高祖は、太極石を片手でいじりながら、しばし黙考した。そして、
「リーユエンを妻にしたい気持ちに嘘偽りはない。私の一生はあまりに長い、これから先も子孫の行く末を見続けることになるだろう。私に近しい者は皆死に絶えて、遠い係累ばかりとなった。妃も四度娶ったが、皆、先立っていった。もう、配偶など要らぬ、このまま孤独にひとりで生きていこうと思っておったのだが・・・・リーユエンに、私の心は大きく動かされたのだ。このようなことは、何千年ぶりであることか・・・」と、低い声でつぶやいた。すると、巽陰大公の後ろから、突然ナイナイが首を伸ばし、
「恐れながら、高祖さま、私に妙案がございます。少しだけお耳を傾けてはいただけませんでしょうか」と、猫撫で声で言った。
高祖は、ナイナイの猫目へ視線を寄越し、「申してみよ」と言った。
「高祖さまと、法座主猊下、リーユエンは、どちらかひとりを選ぶことなどできないと申しております。それならば、いかがでございましょう。お二人で、リーユエンのことを面倒見てやってはいただけませんでしょうか」
高祖は眉をしかめ、「ふたりで、面倒を見ろだと、それはどういう意味だ?」と、不機嫌に尋ねた。
妖魔を数知れず倒した武人のひと睨みにも臆することなくナイナイは、
「法座主猊下は、玄武国の地殻とその原身を繋ぎ止めること分かち難く、国を安定させていらっしゃるため、この国の外に出ることは叶いません。ところが、あの子、リーユエンは、生来の放浪癖があって、何かと言えば隊商を立ち上げて、あちらこちら、ふらふらと渡り歩いては交易をしているのでございます。あの子に、隊商をやめさせるのは、息を止めろというのも同然です。今までは、猊下が遠方から監視なさったり、乾陽大公殿下が護衛として同行なさったりしておりました。ですから、玄武の国外では、高祖さまが我が妻として、リーユエンを守護してくださいませんでしょうか。玄武の国においては、法座主猊下、そして国外では、高祖さま、おふたりで分担なさってはいかがでございましょう」と、一気に提案した。
高祖は、ナイナイへ視線を定め、
「三界の大戦すら平定し得た私に、一人の女を別の男と共有しろと、そちは申すのか」と、抑揚のない声で尋ねた。ナイナイは、頭を下げ、
「女が選べないのであれば、それも一考する価値があるかと・・・」と、言ってのけた。
ナイナイの声を聞きながら、リーユエンは、太師の手をぎゅっと握りしめて、じっと何かを堪えるように目を瞑っていた。
息の詰まるような沈黙が続き、そして高祖は身じろぎすると、
「ふむ、女に体はひとつしかないのだからな、選べぬとなればそうなってしまうか」と、つぶやいた。そして、青味がかった翡翠の眸をドルチェンへ向け、
「法座主よ、さきほどから黙りこくっておるが、そなたはどう考えておるのだ?リーユエンを独占したいのなら、私と争わねばならんぞ」と、直接尋ねた。ドルチェンは、頭を下げ、
「リーユエンが満足し、穏やかであれば、いか様にでも・・・選ぼうとして苦しむのであれば、それも良いのかと」と、低い声で言った。
その言葉を聞いたリーユエンは、激しく震え、こらえきれなくなり、嗚咽を漏らした。そして、「リーユエンの過ちをどうかお許しください」と、ささやいた。




