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千年妃(異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須ですのつづき)  作者: nanoky


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13 香車ナイナイ(6)

 扉の向こうから、妓女のひとりが「香車、三階に通したお方が、釣り堀で釣りをしたいと仰せでございます」と、声をかけた。

 ハビは、ここは妓楼だぞ、なんで釣りなんだと呆れた。けれど、ナイナイの方は、

「案内しておやり、魚も水も、昨日、北嶺の渓流から運び込み、全部入れ替えてあるからね」と、言った。

惜春楼の売りは、妓女の水準の高さだけではない、広大な庭園もその一つだった。東西南北の四つの庭園があり、東園では、昨日、リーユエンの接待計画に従い、釣り堀が清掃され、玉砂利を敷き詰め、渓流の水を大量に運んで総入れ替えし、魚も渓流で生捕りしてきたものへ入れ替えたのだ。

 ハビは立ち上がり、妓女と一緒にふたりを釣り掘りへ案内した。

 釣り堀では、ハビは、商人姿の男へ毛鉤つきの釣竿を渡した。男は、薄緑色の目で、釣竿を不思議そうに眺めた。リーユエンが傍に寄って来て、釣竿の使い方を男へ教えた。リーユエンは、男へ微笑み、

「私が旦那さまへ教える役をするなんて、初めてですね」と、嬉しそうに言った。

 男も「そうだな」と、穏やかに微笑んだ。そして、ふたりは、一緒にならんで座り、和気藹々と釣りを始めた。 リーユエンは、次々に渓流大岩魚を釣り上げ、ご機嫌だった。商人姿の男は、ただ釣り竿を垂らし、寝転んでリーユエンを見上げ、

「そんなに釣り上げてどうするのだ?」と、尋ねた。リーユエンは、

「そりゃ、もちろん、串に刺して塩焼きにします」と、答えた。 

 ハビは、一旦そこを下がり、また、香車のもとへ戻り、様子を報告し、

「接待するって聞いていたのに、リーユエンは自分が遊ぶばかりですよ。あれでいいんですか?午後の予定表は、囲碁をして花札して、あと壺振りとか、訳の分からない予定表ですが」と、不思議そうに聞いた。ナイナイは、ハビを見て、

「それでいいんだよ。相手は玄武だろ。いやいや接待なんかしたらすぐわかってしまう。そこが、玄武の扱いの難しいところなんだよ。リーユエン自身が楽しんでなきゃ、白けてしまうだろう。だから、旦那も興味が持てて、リーユエンが楽しめることで、もてなさないといけないんだよ」と、教えた。ハビはうなずき、

「なるほど、自分も楽しんで、相手も楽しくないといけないのか」と納得した。

 その日、午前は釣り三昧、昼食は魚の丸焼き、午後は、囲碁勝負を三番し、次に妓女とハビ、ナイナイまで参加して花札、壺振り大会を開き、夜は二人きりで御寝所へこもり、一日目の接待は終了した。早朝、迎えの輿車に乗り込む男は、何だか昨日より明るく元気になったように見えた。帰り際、ドルチェンから、過分な謝礼をもらい、ハビは狂喜した。


その二時間後、つぎの玄武がやって来た。

「!・・・・」

 ハビは、その男の神々しいほどの立派な姿に見惚れ、勤めを一瞬忘れた。

 服装は簡素で、白い長衫に濃い翡翠色の長袍姿、まるで月輪のように輝く白金の長髪、一度見てしまうと視線が外せなくなるほどの玲瓏端正な顔立ち、長身の逞しい姿の若君なのだ。男は青味がかった翡翠色の眸でハビを見て、

「惜春楼はここか?リーユエンを訪ねてきたのだ」と、脳天を揺すぶる美声で尋ねた。ハビは慌てて揖礼し、

「ようこそお越しくださいました。ご案内いたします」と、先導した。広々した玄関へ入ると、いつのまに支度したのか、美く装ったリーユエンが男を待ち受け、床の上で跪拝叩頭し、「ようこそお越しくださいました。旦那さま」と、蕩けるような口調で挨拶した。男は、リーユエンへいそいそと近寄り、腕を取り立ち上がらせ、四方を見回しながら、

「ここは、楽しそうなところだな」と言った。

 今日も一旦ナイナイのもとへ下がったハビは、

「あのお方は一体誰なんです?只者じゃありませんね」と、尋ねた。

 水煙管から口を離すとナイナイは、

「あのお方は、伝説に出てくる三界を平定した玄武だよ」と言った。

 ハビは、口をあんぐり開けて固まった。しばらく経ってようやく

「えっ、本当なんですか。だって、どこかの良家の若様にしか見えないのに・・・」と、ささやいた。ナイナイは、「何しろ玄武だからね。そんな事もあるだろうよ。第一位のお方が追い払おうとしても追い払えない手強い虫なんだよ。強敵が現れたのさ」と、楽しそうに言った。

 しばらくすると、妓女がひとり降りてきて、

「午前はお人払いをお願いしたいそうです。午後からは射的をされたいそうです」と言った。

 ナイナイは、「おやまあ、いきなりそっちから始めるのかい。昨日から引き続きとは、ご苦労さまだね」と言い、あとで、滋養湯をもっていっておやりと言った。

 午前中、三階で二人きりで過ごしたあと、高祖とリーユエンは庭園へ降りてきた。

 庭園の北の東屋には、五日の間に長い回廊が急遽建て増しされ、そこに射的場が作られた。高祖とリーユエンは、十丈離れた的へ、交互に矢を射た。どちらも的の真ん中へ命中させ、何度射ても、一度も外れなかった。矢がびっしり真ん中に集中し、いっぱいになると、ハビは素早く次の的に取り替えた。しばらくすると、ふたりは、ナイナイが一昨日のうちに用意させ檻に入れておいた三足鳥を放鳥し、それを射おとした。

 ハビは、男の方の矢の腕前にも驚いたが、リーユエンの腕前にも、驚いた。胸元の開いた女もののヒラヒラした衣装姿なのに、リーユエンは大弓を悠々と操り、三足鳥を次々に射落としたのだ。

 高祖も感心して、「その腕前、そなたの師匠は、なかなか優秀な男だな」と誉めた。もちろん高祖は、リーユエンの記憶をそっくりそのまま持っているから、それがドルチェンであることは承知して、そう言ったのだ。リーユエンは笑みを浮かべ、

「はい、よい師匠に恵まれました」と、応えた。

 そのあと、ふたりは、東屋でお茶を飲み、リーユエンは琵琶を持って来させて、爪弾いた。爪弾く曲を聞くうちに、高祖は、突然立ち上がると、リーユエンのそばに来て、結界を張り巡らし、近くで控えていたハビへ、「しばらく人払いせよ」と、命じた。高祖の希望を察したハビは、すぐさまその場を離れた。そのあと夕暮れに近くに、高祖はリーユエンを抱き抱えて楼へ戻ってくると、ふたりで入浴し、夜もずっとふたりきりだった。

 様子を聞いたナイナイは、「大帝は、相当お熱を上げていらっしゃるね。これは、明日の交渉が楽しみだよ」と言った。 

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