13 香車ナイナイ(4)
「ああっ!?」
リーユエンは、口に咥えたお菓子をポロッと落とし、素っ頓狂な叫びをあげた。そして、膝からお菓子を拾い上げ、
「どうして、惜春楼を借り上げなきゃならないのよ?私は妓女じゃないわ」と、抗議した。
ナイナイは、目を細め冷笑を浮かべ、
「何言ってるんだい。あんたは、今、明妃じゃない、ただの庶人だろう?それなら、取り合いする男に話をつけるのは、私事なんだから、どこを場所にしたって構わないじゃないか。それに、あんたはともかく、猊下も大帝も、それなりの地位のあるお方だろう。秘密が守れる場所じゃないと、醜聞なんて、あっという間に広がるんだよ」と、説教した。
リーユエンは、眉尻を下げ、「やっぱり醜聞になるかしら・・・」と、不安そうにナイナイを見上げた。
すると巽陰大公が、「大帝の方は気にしないかもしれないが、ドルチェンは法座主なんだから、やはりおまえを取り合いしているなんて、公にはならない方がいいと思うね」」と言った。
「・・・・・そうだよねえ」と、巽陰大公の言葉にリーユエンは、悄然とうつむいた。
ナイナイは、「何も難しく考えることはないよ。こんな事、身請けの時に、複数の旦那が名乗りをあげるのと一緒さ。よくある事なんだ」と、慰めるのかと思ったら、「それでだ、いいかい、リーユエン、あんたには、惜春楼を三日間借り上げてもらうからね」と、いきなり商談へ突入した。
「ええっ、どうして三日も必要なの。話し合いなら一日で済まそうよ」と、リーユエンは嫌がった。そんな彼女に対して、ナイナイは指を振り、チチッと舌打ちして、
「バカな子だねえ。話し合いだけしてどうするんだい?そんな事したら、血を見ずにはすまないよ。いいかい、あんたは、一日交代で、猊下と大帝を接待するんだ。私が教え込んだ技全部を使って、とにかくメロメロの骨抜き、いや、玄武だから甲羅抜きの状態にしちまいな。それでおまえが欲しくて欲しくてたまらない、絶対別れたくないって状態の時に条件闘争に持ち込むのさ」と、言い出した。ダルディンは大人しく話を聞きながら、内心、法座主と東海大帝を手玉に取ろうとするなんて、なんという恐れ知らずな女だろうと呆れ返った。
一方、巽陰大公は乗り気になり、
「それは、いい作戦だね。条件はこれから詰めることとして、リーユエン、おまえは、二人をどんな風に楽しませるか。よく考えておきなさい。一日相手をするなんて、結構長いからねえ」と、言った。
ナイナイは、「食事もつけるし、お風呂は使い放題、必要なら、うちの禿や妓女も手伝わせるからね。それに、衣装も化粧も使い放題。お色直しは何回でもし放題、お部屋は全室自由に使っていいし、うちの庭園の設備も全部自由に使っていいよ」と、言いながら、三日間の借り上げ料をリーユエンへささやいた。金額を聞いたリーユエンは眉をひそめ
「ええぇ、それ、追加料金なしだよね。飲み放題にしてよ」と、ささやいた。ナイナイはいきなり彼女の頭を小突いた。
「痛っ、何するんだよ」リーユエンは両手で頭を押さえ、ナイナイを睨んだ。
「あんたは底なしに飲むから、酒はきっちり別料金だよ。あんた、この間、金杖王国の酒蔵を半分空にしたんだろう、聞いてるよ」
「ちぇっ、誰からそんな事聞いたんだよ、本当に地獄耳だな」
ぷいと横を向き不機嫌なリーユエンへ、ナイナイはイヒヒッと笑いかけ、
「金杖王国なら、ゲオルギリー以外にもお得意さんはいるんだよ」と、ささやいた。リーユエンはため息を吐き、
「わかったよ。明日、金を用意する。それで、いつ貸切にしてくれるの」と、尋ねると、ナイナイは
「毎度あり、そうだね、準備もあるから、五日後にしよう」と言った。
リーユエンは、ナイナイと巽陰大公へ、
「でも、猊下と高祖さまは、本当に、そんなやり方で喧嘩しないで仲良くしてくれるのでしょうか」と、不安そうに尋ねた。巽陰大公は、
「話し合いは、私とナイナイでするよ。おまえは、条件があるなら、私たちに言ってくれればいい」と言い、ナイナイは、「そうだよ、こういう事はね、本人が直接交渉したってうまくいかないものなんだよ。代理人を立ててやるのが一番なのさ」と言った。そして、
「私の腹案としては、猊下は玄武国を出られないのだから、リーユエンが玄武国にいる間は、猊下が独占する。リーユエンが玄武国の外に出たら、大帝が独占するっていうのが、いいかと、思うんだ」それを聞いた、リーユエンは、
「もうひとつ条件をつけてほしい」と言い出した。




