13 香車ナイナイ(3)
ナイナイは、翡翠色の眸を細め、リーユエンをじっと見ると、指をピシリと突きつけ、
「あんたが、二人とも面倒をみれば、それで丸く収まるだろ」と、言ってのけた。ダルディンは、もう、顎が外れそうなくらい口が開いた。一体、この女、何を言い出すのだ、正気なのか、と思った。
リーユエンは、口をへの字に曲げ、
「凡人ならともかく、相手は玄武だよ。それをふたりも面倒見るなんて、私には無理だよ」と言った。ところが、ナイナイは、
「何をお上品ぶったことを言ってるのさ。現にもう、手玉に取りまくっておいて、よくそんな事がいえるね。いいかいっ、妓楼の売れっ子妓女なら、旦那の二、三人いるのは当たり前だよ。毎日、日替わりなんて、豪の者もいるくらいなんだからね。あんたにだって、旦那が二人いたってちっともおかしくないだろう。それが、たまたま二人とも玄武ってだけのことじゃないか」と、捲し立てた。その言葉を聞きながら、ダルディンは、心の中で、うわあっ、もうやめてくれ、俺たち玄武を何だと思ってるんだっと、絶叫した。
ナイナイがお茶を喫して喉を潤す横から、今度は、巽陰大公が、
「リーユエン、何も同時にふたり相手にしろなんて言っているわけじゃないよ。ただ、どちらも、無理に縁を切れないし、仮に切れたとしても、影響が大きすぎるだろう。一人は、玄武の国の法座主、一人は、三界の大戦を平定した大英雄の東海大帝だよ」と、発言した。
リーユエンは、茶菓子をポリポリ食べながら、上を向いて考え込んだ。
お茶を飲んだナイナイが再び参戦し、
「リーユエン、あんた、半月後には、明妃に復位する予定なんだろう。それなら、早く、この問題に決着をつけておかないとまずいだろ」と、言い出した。
リーユエンは、また、ナイナイを見て、
「復位なんて別にしたくはないけれど、どうして、その前に解決する必要があるのよ?」と、尋ねた。
「東海大帝っていえば、さして教養のない私でも知っている大英雄だ。何千、何万、一体何匹妖魔を殺したかわからない武人中の武人だよ。そんな男が、あんたのことを気に入ってしまったんだ。明妃に復位したあんたを、もう自分の妻にできないとなれば、式典の最中にだって乱入しかねないよ。そのうえ、式典の最中に法力を送り込まれたら、あんたは、それを耐えることができるかい?おまえについてきた青玄武が正真正銘の東海大帝なら、そのくらいの事は平然としてのけるよ」と、説明した。これには、さすがのリーユエンも不安になった。
「本当にそこまでするのかしら・・・」
巽陰大公もうなずき、
「ナイナイの言うことは間違っていないと私も思う。あの玄武は法力の強さなら、ドルチェンより強いと思う。まあ、死ぬ気で戦ったら、相打ちに持ち込めるかもしれないが、どちらも無事ではすまないだろう。第一、そんな戦いをこの玄武の国でされたら、国が吹き飛んでしまう。東海大帝が、あんたを妻にすると宣言した以上、面子もあるから、絶対後へは引かないだろうしね」
と、さらに不安を煽った。
リーユエンは、唇を震わし、
「私はどうしたらいいの?」と、涙目でつぶやいた。ナイナイは、ニコニコ笑い、
「泣きなさんな。このナイナイ姐さんが、ちゃんと仕切ってあげるから、あんたは大船に乗ったつもりで、おっとり構えていればいいのさ」と言った。
リーユエンは、ナイナイをジトッと見つめ、
「ナイナイ、また金儲けをしようと思ってるんだろう」と、低い声でささやいた。
ナイナイは、両手を広げ、わざとらしい愛想笑いをうかべ、
「金儲けなんて、人聞きの悪いことは言わないでおくれ、かわいい教え子のために、人肌脱いでやろうと言ってるのに、もちろん、必要経費はいただくけれどね」と、言った。リーユエンは、不機嫌なしかめ面になり、
「一体いくらふんだくるつもりだ。私は、金なんか持ってないぞ」と言った。すると、ナイナイは、大袈裟に目を見開き、
「有徳の老師ともあろうお方が何をおっしゃいますやら、あんたは、南洋海での船荷保証保険組合の立ち会いに関わったそうじゃないか、あの保険組合の配当金は恐っろしく高配当だって、評判だよ。その配当金を提供しなっ、それで、惜春楼を三日間貸切にしてあげようじゃないか」




