13 香車ナイナイ(2)
「リーユエン、リーユエン、そんなに本心をすぐ見せてはいけないよ。前に何度も教えてあげただろう。忘れたのかい」と、ナイナイが形の良い三日月眉をクイッと上げ、指を振りながら、注意した。
リーユエンは、握り締めた右手で口元を抑え、目を潤ませ、
「でも、私は猊下のことが・・・」と言い、また黙り込んでしまった。すると、ナイナイが立ち上がり、ダルディンへ
「殿下、悪いけど、ちょっとお席を代わってくださいな」と言った。ダルディンは、すぐさま立ち上がり、ナイナイと入れ替わった。ナイナイの猫目から発する圧は凄まじく、ダルディンはただ従うことしかできなかった。
ナイナイは、隣に座るとリーユエンの顔をのぞき込み
「リーユエン、そういう事は、私が全部あんたに教え込んだんだ。お見通しなんだよ。いい加減、本心をしゃべりな」と、婀娜っぽい口調で、詰問した。リーユエンはしばらく黙っていたが、突然、頬杖をつき、
「もうっ、ナイナイ姐さんには、敵わないよ」と、言い出した。
ダルディンは、突然リーユエンの態度が豹変したのでギョッとした。
リーユエンは、椅子の上で胡座をかき、頭の後ろへ両手をあて、背もたれへ深々ともたれかかった。魔導士服姿で、そんな格好をすると、まるで悪ガキのように見えた。
「猊下はすぐやきもちを焼いて、何かと法力で私をいじめるくせに、今回に限って何もしなかったんだ。おかげで、なん度も死ぬような目にあったんだ。内傷が体中に広がったときも、何回も助けてって呼んだのに、何もしてくれなかった。私のことは絶対守るって言ったくせに、約束を破ったのは猊下なんだ。今さら、高祖さまと縁を切れとか言われても、そんなの知らないよ」と、言ったのだ。
ダルディンは、リーユエン、リーユエン、それがあなたの本心なのか、嘘だろ、嘘だと言ってくれえ、と、心の中で絶叫した。
リーユエンは続けて、「高祖さまは、多分、私のことは珍しい愛玩動物みたいに思っているのかな?要らないのに、胸までプヨプヨ付け足してくれて、ご満悦なんだ。とにかく、高祖さまの法力は強烈すぎて、私はあの人の言いなりになってしまう。私の独断で縁を切るなんて無理だね」と、あっさり言ってのけたのだ。巽陰大公は、難しい顔で話を聞いていたが、ここで
「リーユエン、ドルチェンは、おまえが王太子のことを好きだから、添い遂げたいだろうと思い、待つつもりだったんだよ。だが、王太子の妻になったおまえの心なんか見たら、気が変になるからね。耐えきれないと思って閉関してしまったんだよ」と、話した。リーユエンは巽陰大公へ視線を向け、
「そんな事だろうと思ってはいましたが、私は、そんな薄情者ではないし、恩知らずでもありません。どうして信じてくださらなかったのでしょう。まあ、そんなことを言っても、私は、高祖さまと関係を持ってしまって、すっかり不義理な状態なんですけれど」と、寂しげに笑い自嘲した。
巽陰大公は、リーユエンへ、
「おまえの意志で大帝との関係を断ち切ることはできないのかい」と、尋ねた。リーユエンは首をふり、
「関係を私の方から切ろうとしても、高祖さまが法力を送って、私を抱こうとしたら、私はどうしても拒めません。意識が飛んでしまって無理なんです」と、答えた。すると、ナイナイが
「どっちかを選ぼうなんてするから、厄介なんだよ。もっと前向きに考えたらどうなんだい」と、言い出した。リーユエンは、口を尖らし、ナイナイへ眇めた目を向けながら、
「それってどういうこと?」と、尋ねた。




