12 処断の嵐(4)
高祖は、「ならば、白貂の房飾りつきで真綿入りの衫を仕立ててやろう」と言い出した。リーユエンは、ただ笑みを浮かべ、「高祖さま、朝食はまだでございましょう」と、食卓へ腕を取り案内した。太師は、それを見ながら、ニエザへ、
「いつから、大帝はここにいらっしゃるのだ?」と、小声で尋ねた。ニエザは、
「すみません。定刻に起きてここへ上がってきたら、もういたんです」と、答え、そして、
「あのお方と、リーユエンはどのような関係なので」と、尋ねた。
すると、太師は眉をしかめ、ニエザを見下ろし、
「見ての通りの間柄だ。おまえにだって、わかるだろう」と、不機嫌に言った。
ニエザは嘆息し、黙ってうなずいた。そして、内心、
(もう、リーユエンったら、昔っからすぐ虫をくっつけてくるんだから・・・本当に困った奴だ。それにしても今回は、超大物がくっついたなあ、猊下は、このことをご存知なのだろうか)と、心配した。
高祖は、二人の方へ振り返り、「おまえたち、そこでゴチャゴチャ話をしないで、一緒に朝食にしよう」と声をかけた。
昨日の冷菜と硬パンと温め直したスープだけの質素な朝食も、高祖は文句もいわず平らげた。ニエザは、自分が心に思い描いてきた大英雄の姿とはあまりにかけ離れた姿に、ますます本当に目の前の若い男が大玄武である東海大帝本人なのかと、疑問が募った。
太師は、食べ終えると、リーユエンへ
「本日の会議は、あなたも出席せよと、猊下からの命令があった」と、伝えた。
リーユエンは「畏まりました」と、答え、それから、
「ドルーアの行方はわかったのでしょうか?」と、尋ねた。
太師は、首を振り、「まだだ。ただ、秘密研究所はみつかり、捜索が入った。毒薬の調合資料も押収したそうだ。遅効性の毒薬の調合資料が大量にみつかり、今、魔導士学院の毒薬学の専門教授が資料を分析中だ」と、答えた。そして、
「先代の乾陽大公が病死した時の症状と、あなたが、浴びた毒薬の症状が酷似していると、殿下より指摘があったのだが・・・どのような症状が出たのだ」と、尋ねた。リーユエンは、
「皮膚に毒を浴びたので、すぐさま皮膚を抉り取ったのですが、浸透が早くて、体に残ったようです。その後、内臓が焼け付くような痛みがあり、咳がとまらず呼吸がずっと苦しかったのです」と、小声で答えた。そして、「魔導術を使ったり、法力を通されると、症状が悪化しました。もう最後は、内傷で体の中はボロボロでした」と、淡々と語った。
ニエザは聞いているだけで、自分の臓腑までボロボロにされた気がして、よくそんなものを我慢できたものだと感心した。
太師は、「今日、枢密会議に出席して、それを証言してくれ」と言った。ところがリーユエンは、「でも、もう体に内傷の痕はどこにも残っておりませんから、証拠にはならないと思います」と言い出した。太師は驚き、
「内傷がまったく残っておらぬとは、一体どういうことだ」と、尋ねた。
リーユエンは、高祖を見上げ、
「私は、本当にもう死ぬところだったのです。それを高祖さまが法術でもって助けてくださいました。この方は私の命の恩人なのです」と、言った。高祖はうなずき、
「換骨変易法で体をすべて作り変えてしまった。そのため、内傷はすべて消えている。ただ、法術を使う前にどのような状態であったかは、私が証言してやってもよいぞ」と、話した。太師はしばし考え、「是非、証言をお願いします。先代の乾陽大公が亡くなられたときの状態と、リーユエンの内傷の状態を比較すれば、毒殺の証拠となるでしょうから」と言った。
リーユエンは、「とにかく、ドルーアを早く捕まえなければ、あの陰玄武の使う毒は本当に悪辣です。彼女が二度と毒を使えないようにしてください」と訴えた。ドルーアから二度も毒で攻撃されたリーユエンの言葉の重みに、太師もただ「まったくその通りだ。捕縛には全力を尽くそう」と、答えるしかなかった。
リーユエンは、太師へ、「乾陽大公殿下は、お父様が毒殺されたと知って衝撃を受けられたのではありませんか」と尋ねた。太師は、
「殿下も衝撃を受けられたが、猊下の方が衝撃が大きかったようだ。病死だとばかり思って、毒殺されたことを見抜けなかったと大層悔やんでおられる」と、答えた。




