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千年妃(異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須ですのつづき)  作者: nanoky


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11 波乱の帰還(5)

 呼びかけても、岩戸の向こうから何の反応もなかった。リーユエンは息を吸い込み、さらに声を張り上げ、

「猊下、目を覚ましてください。目を覚ましてくださらないのでしたら、私は、東海の蜃市の青玄武、高祖様の妻になりますよ。もう東海の蜃市へ行って帰ってきませんからね。それに、乾陽大公の彼女の顔を見られませんよ、いいのですか」と、呼びかけた。そして、岩戸をガシガシと足で蹴飛ばした。

「バカバカ、猊下のバカ、鈍感、嫌い、嫌い、早く起きてったら」と、また、叫んだ。リーユエンの双眸からは、涙がこぼれ落ち、手燭の明かりを反射してその紫眸は光を受けた水面のように煌めいた。高祖は、甲羅破りの大業の後で、疲れ切っているリーユエンにこれ以上叫び続けさせるのは忍び難く、

「リーユエン、私の法力をあなたへ流し込む」と告げ、いきなり強力な法力を流し込んだ。リーユエンは、「ヒッ」と息をつめ、体を強張らせ、手燭を落とした。深い法悦が体の奥深い場所から湧き上がり、陶然となって、岩戸の前で崩れ落ちた。それを高祖は抱き留めた。リーユエンの体内へ流し込まれた法力は、奔流となり、震家の紋が消え去った玄武紋を通り、岩戸の向こうで眠るドルチェンを直撃した。

 ドルチェンは、薄緑色の目を開けた。体内を、自分のものではない、強力な法力が通ったのを感知したのだ。

「今のは、何だ?」

 百年ほど眠り続けるつもりであったのに、真の暗闇の中で、ドルチェンは扉の向こうの気配をさぐり、驚愕した。リーユエンの気配があった。だが、その気配は以前のものとはあまりに異なっていた。陽気が盛んなのはわかるが、法力が、自分のものでない、しかも強大な法力の気配があったのだ。

「誰か玄武を連れて来たのか。一体何者だ、カーリヤでも、あれほどの法力は出せないはずだ」

 完全に覚醒したドルチェンは、人形(ひとがた)へと姿を変え、岩戸を開け放った。

 突如、巨大な岩戸の扉が両側へ音もなく開け放たれ、中から長身の堂々たる偉丈夫が現れた。リーユエンは、まだぼうっとした意識のまま、それでもドルチェンの気配に気がつき、彼へ腕を差し伸べようとしたが、腕は持ち上がらず、ただ「猊下・・・」と、弱々しく呼びかけた。

 ドルチェンは、床に胎児のように丸まるリーユエンの姿に気がつき、両腕で抱き上げた。リーユエンは両腕で彼の首と肩へしがみつき「猊下、猊下、お会いしとうございました」と、泣きじゃくった。

 ドルチェンは思いがけないリーユエンの反応に驚きながら、目の前に立つ、月輪のような輝きを放つ見事な白金長髪、長身痩躯の若々しい青玄武と対峙した。

 一見若々しい、青年の姿ではあったけれど、その青玄武がとてつもない齢を重ねた存在であることはすぐに分かった。そして、彼が東海から来たことは、その青みを帯びた白い肌と青みがかった翡翠色の眸をもつ青玄武であることからも明らかだった。東海から来た青玄武で、これほどの法力の持ち主ともなれば、ドルチェンには、相手の正体がすぐに分かった。そして、高祖へ向かい、ドルチェンは軽く頭を下げ、

「このような格好で失礼する。東海大帝とお見受けするが・・・」と、話しかけた。すると、高祖は、口元にふっと笑みを浮かべ、

 「その称号を耳にするのは、五千年ぶりかのう。最近の私は、ただ高祖と呼ばれておるのだ。今は何の官位も持ってはおらぬのでな」と、答えた。ドルチェンはやはりそうかと思いながら、

「私は、玄武国の法座主を務めるドルチェンと申す、お見知りおきを」と、自身の名乗りをし、「妻が随分世話になった」と、低い声で言った。高祖は、笑みを消し、

「それは、私の妻だ。私の妻にすると決めたのだ。ここでの用を済ませば、すぐさま東海蜃市へ連れて帰る」と、言ってのけた。その言葉を聞きながら、ドルチェンは眉をひそめ、今頃は金杖王国の王太子妃になっているに違いないと思っていたリーユエンが、どうして東海大帝の妻に望まれてしまったのか訳が分からず、困惑し切った。この場ですぐ聞き質したいところだが、リーユエンはまだ泣きじゃくっているので、落ち着くまで心を探ることも躊躇われた。

 高祖は、リーユエンをのぞき込み、

「おまえによほど会いたかったのだな。しばらく時間をやろう。私は、いまさら急ぐ必要もないのだ。ふたりで、身の振り方を相談すればよい。リーユエンは、おまえの決定には従うと言っておったからな。さっさと、私にその者を妻として連れ帰らせてくれ」と、言い、ドルチェンへ、

「そろそろこの辛気臭い洞窟から外へ出たい。案内してくれ」と、声をかけた。ちょうどその時、床に落ちた手燭の明かりが消え失せた。ドルチェンは、明かりの消えた真の闇の中で、高祖へ、

「ついて来てくれ、案内しよう」と言い、まるで真昼の道を歩くように、迷いのない足取りで、洞窟を登り始めた。

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