9 黄金獅子参戦(4)
その大地に広がるのは、降り積もった雪と、何百層にも重なり合う硬い氷盤ばかり、その単調なほど白い景色に、凍りつき樹氷に覆われたまばらな木立が、たまに変化を添えていた。けれど、その大地の中に一箇所、ひどく乱された場所があった。白い景色の中、その場所にだけ違和感を大きく感じ、デミトリーはそこへ行ってみた。
大地には、巨大な地割れが広がり、その周囲には血が飛び散り、すでに黒く変色し、日数の経過を物語っていた。地割れの周りに、白い忍び装束の何人かが、喉を切り裂かれ死んでいた。
「一体、ここで何があったんだ?」
地割れの間近には、何かを引きずった跡があった。リーユエンたちがここへ来て、すでに一月以上経っていたにも関わらず、奇跡的に降雪がなかったため、現場はそのままの状態だった。
引きずられた跡は、地割れの前あたりで途絶えていた。それで、デミトリーはそこから逆に辿ってみた。そして、ヨークを見つけた。
「ヨークッ!」
雪の中に半身をのぞかせ倒れているヨークをみつけ、デミトリーは駆け出した。が、傍へ来て棒立ちとなった。
「何だ・・・これは、何だ・・・」
ヨークの体は真っ二つに裂け、茶色く変色し、ミイラ化していた。さらに、そこから何か巨大な生き物の死骸が見えていた。周囲には、その生き物の死骸の一部が散乱していた。
「ヨーク、どうして・・・どうして、こんな事に」
ここでも襲撃があったのは、間違いなかった。けれど、リーユエンの姿も、乾陽大公の姿もなく、無惨なヨークの姿だけが、氷雪の大地に取り残されていた。デミトリーは涙で霞んだ目を拳でごしごしと拭い、周囲を冷静に見て回った。そして、「あれはっ」と、黒い物体を見つけて駆け寄った。
「リーユエンの面覆だ」
手に取ったのは、黒鋼でできた面覆だった。
「ここにリーユエンが来たのは、間違いない。だが、どこへ行ったんだ」
デミトリーは、面覆を手にして立ち上がり、氷雪の大地を進んだ。
数日後、デミトリーは砂漠へ到着した。見渡しても砂と石ころしか見当たらない。乾燥した風が吹き抜け、砂を巻き上げた。氷雪の大地でかき集められるだけの雪をかき集め、皮袋がパンパンに膨らむほど詰めてきたが、それも何度か飲むうちに残り少なくなっていた。
「この先に本当に海があるのか。行けども、行けども、砂漠が続くだけじゃないか。俺は、常春の国へ本当に辿りつけるのか」
たった一人、孤独な旅を続けるデミトリーは、不安が増す一方だった。そんなある日、とうとう食糧がつきた。さらに我慢して数日進んだが、ついに水がつきた。さらに数日、人の気配も、生き物の気配もない、砂漠の中、デミトリーの足はついに止まった。
「もう、ダメだ、これ以上は一歩だって進めない。俺は、こんな場所でたった一人で死ぬのか」
焼けつくような砂漠には、日差しを避ける岩場さえなかった。デミトリーは、面覆を取り出し、眺めながら、
「これをリーユエンに渡してやりたかったのに、渡せそうにないな」と、掠れた声でつぶやいた。その時、突然面覆いが霧となって広がり、金眸三眼、渦巻く白い毛を吹き流すアスラが姿を現した。デミトリーは、幻を見ているのかと目をこすった。アスラは、デミトリーへ近寄ると、
「乗れ、リーユエンのいる場所がわかった。おまえが、ここまで連れてきてくれたおかげだ。距離が近づいて、やっとわかった。連れていってやる」と、言った。
デミトリーは、飢えと渇きで意識が朦朧として、よく理解できないまま、うなずくとアスラへまたがった。




