9 黄金獅子参戦(3)
デミトリーは、やはり自分は、リーユエンのことを全然理解できていないのだと、またしても思い知らされた。玄武国にいる時でさえ、彼女は一時だって気の抜けない立場にあったのだ。
またしても落ち込む愚息デミトリーへ、ゲオルギリーはさらに追い討ちをかけた。意地悪気に目を細め、皮肉な笑みを浮かべ
「ヨークからの報告によれば、最近、乾陽大公とリーユエンはえらく仲が良いらしいぞ。乾陽大公は、もう、リーユエンに溺れ切っておるらしい。宿屋の主人にまで揶揄われて落ち込んでおったそうだ」と、ささやいた。
それを聞いた瞬間、デミトリーの黄金の髪は、ぞわっと逆立った。
「なんで、あの玄武の野郎が、リーユエンに手を出すんだっ」と、琥珀色の眸をぎらぎら光らせ、叫んだ。すると、ゲオルギリーは、
「ヨークは控えめな陰護衛だから、のぞきなんて悪趣味はしない。だから、詳細は分からないが、どうも、リーユエンの方が積極的なようだぞ」と、さらに煽った。
デミトリーは、イライラしながらも、いや、すでに自分とは縁の切れた女なのだ、それを気にしてどうすると自分自身に言い聞かせ、気にするまいとした。けれど、思わず
「あの恐ろしい法座主の妃であるリーユエンに、乾陽大公が手を出すなんて、信じられない」と、つぶやいた。
ゲオルギリーは、長椅子に腹ばいになって息子を見上げ、
「あの品行方正そうな乾陽大公でさえ、リーユエンにあっけなく落とされてしまったのだ。まったくリーユエンは、何人落とすつもりなのだろうな?おまえは、リーユエンはそういう女だ、もう仕方ないことだと諦めるのか?それなら、それでもいいだろう。しかし、ここで諦めたら、おまえは、黄金獅子でありながら、雌虎の張り手一発に負けた獅子という、不名誉を背負い続けることになるな」と、つぶやいた。それから、
「追いかけるのなら、仕事を引き継ぎしていけよ。隊商はウマシンタ川へ向かったそうだから、後を追いかければいい。カリウラとハオズィの隊商は、いつも、蒼馬国へ立ち寄るから、今度もその経路だろう」と、言うと、立ち上がり、「朕は色々忙しい。これ以上さぼると、内官長が泣き出すから、もう帰る」といい、後宮から出ていった。
デミトリーは、金杖王国を出立し、隊商の後を追った。そして、ドルーアの襲撃のあった半月後にウマシンタ川近くで、隊商に追いついた。けれど、隊商の中にリーユエンと乾陽大公の姿はなかった。
「えっ、襲撃されたのかっ」
カリウラから、襲撃の件を知らされ、デミトリーは、強い衝撃を受けた。
「乾陽大公とリーユエンは、襲撃が続くと隊商が危険だと判断し、ヨークもつれて、俺たちから離れてしまったんだ。俺たちには、狐狸国の国旗を掲げておけば、自分たちがいなくなったと気がつき次第、襲撃はなくなるはずだと、リーユエンは話していた。実際、もう、襲撃はなくなった。たぶん、リーユエンたちを追跡しているんだろう」
カリウラは、デミトリーへ、そのように話した。デミトリーは、
「彼らに追いつきたいのだが、どの方角へ行ったのか、わかるか?」と、尋ねた。すると、カリウラの巨体の横合いからハオズィが顔をのぞかせ、
「老師は、東海へ向かわれたのです。ほら、密林の果てに見える山嶺がわかりますか?」と、赤狐族の商人は、ウマシンタ川の遥か彼方、果てしなく広がる密林のさらに向こう、雲間から微かにみえる山嶺を指差した。
「あの山嶺を越えると、昔竜が棲んでいたという大きな圏谷へ出ます。そこからさらにひたすら東へ進み続けると、最後は海へ出るそうなんです。私は、行ったことがないのですが、狐狸国の古い言い伝えなんです。圏谷を出ると、また高地となって、氷雪の大地に出て、それから砂漠を越えたら、海沿いの国へ行けるそうです」
そう説明して、ハオズィは、デミトリーのために簡単な地図まで作って持たせてくれた。そして、デミトリーは、リーユエンたちの後を追い始めた。
今回は、陰護衛すらつかず、本当にたったひとりの旅だった。ただザリエル将軍から、陰護衛が通った跡がわかる、追跡石を特別に貸してもらったので、圏谷に降りたった頃から反応が現れ、ヨークの進んだ経路を辿ることができるようになった。そうでなければ、さすがに、行きつけなかったかもしれない。そして、何日もかけて、彼はとうとう氷雪の大地にいたり、ヨークの変わり果てた姿を発見した。




