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千年妃(異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須ですのつづき)  作者: nanoky


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6 尸蟲の術(4)

 リーユエンは、脱ぎ捨てた蛹の殻のように、真っ二つに割れたヨークの体を胴の両側にぶら下げたままの尸蟲を見上げた。尸蟲の体高は、一丈近くあった。死体を餌に育てた尸蟲なら、よく育って六尺程度だ。ところが生きた凡人を餌にしたため、体を循環する生気を餌に一気に巨大な尸蟲に育ったのだ。

「許せない・・・こんな邪術を使って、人の命を踏み躙るなんて、絶対許せない」

 リーユエンの身内は、邪術を使った玄武への、激しい怒りに荒れ狂っていた。と、同時に、ヨークは、わざわざ主代えまでして、自分について来てくれたのに、自身も毒に侵され体調が悪かったとはいえ、彼の異常に気がつかないまま、尸蟲を羽化させてしまったことを、激しく悔やんでいた。

 一方、尸蟲を羽化させたレムジンは、いつ見ても尸蟲の姿はおぞましいなと思いながら、尸蟲へ「乾陽大公を襲え」と、命じた。尸蟲は棘だらけの鎌を振り立て、乾陽大公へ襲いかかった。

 リーユエンは、「アスラ」と叫び、現れた金眸三眼、白い長毛が渦巻くアスラへ

「尸蟲を乾陽大公へ近づけるな、あいつを殺せっ」と、命じた。そして、後ろで怯えきっているミレイナを振り返り、

「ミレイナ、蜃市へ帰ることだけを考えて、乾陽大公と一緒に必ず蜃市へ戻るんだ。いいね」と、言い聞かせた。ミレイナは、涙目で、

「わかった。必ず、蜃市へ乾陽大公を連れて帰るわ」と言った。

 すると、リーユエンは、「乾陽大公の方へ走って彼に飛びついて」と、叫んで、彼女を乾陽大公の方へ突き飛ばした。ダルディンは、いきなり突き飛ばされ、雪原を滑ってきた彼女を慌てて抱き留めた。すると、リーユエンは、彼へ向かって、

「乾陽大公、法力を、今すぐ最大限放ってください。早くっ」と、叫んだ。

 ダルディンは、尸蟲への対抗で必要なのかと思い、直ちに掌拳打突で法力を最大限発射した。すると、リーユエンはいきなり掌を法力へ向け、円陣を展開し、法力を円陣へ吸収させるや、それをダルディンとミレイナへ向けて放った。

「開け、時空の扉よ、蜃市へ、王女の望む場所へ」と、リーユエンの絶叫が響いた。辺りは発光に包まれ、何も見えなくなった。


 発光が消え去ると、ダルディンとミレイナの姿は消えていた。

 リーユエンは、激しく咳き込み、赤黒い血を吐き出すと雪原へ倒れ込んだ。

「げっ、あいつ、あれはまさか畳地連結二点法か?まだ、そんな余力があったのか」

 レムジンは慌てて、リーユエンのそばへ駆け寄った。

 

 一方、アスラは尸蟲の左鎌を食いちぎり、翅を引きちぎった。尸蟲はギチギチと耳障りな鳴き声を上げ、片方の鎌を振り回し、アスラを殴りつけようとした。が、アスラは素早くかわすと、腹の下側へ周りこみ、腹を噛みさいた。悪臭を放つ臓腑が飛び出し、尸蟲は雪原に横倒しとなり、動かなくなった。

 レムジンは、リーユエンのそばにしゃがみ込み、顔をのぞき込んだ。彼を見上げる紫眸は暗く翳り、死人の鬼気を漂わせていた。それを見て、レムジンは、余力ではなく、乾陽大公を助けるために死力を尽くしたのだと悟った。

「俺の事を悪く思うなよ。これも祖父様の言いつけなんだ」

「祖父様?」

「震陽大公だよ。祖父様は、あんたをどうしても自分のものにしたいそうだ」と、言いながら、レムジンは、ドルーアを脅しつけてせしめた解毒薬を懐から取り出すと、リーユエンを抱き起こし、

「解毒剤だ。飲め、少しは楽になるはずだ」と、言い飲まそうとした。けれど、リーユエンは目を瞑って顔を背けた。

「拒否するのは勝手だが、おまえが言う事を聞かないのなら、俺たちは、乾陽大公を追跡し続けるぞ。本来なら、あいつも生け捕りにするよう命令されているんだ。だが、おまえが、言う事を聞くなら、あいつを見逃してやってもいい。どうする?」

 再び目が開き、紫眸がレムジンを見上げた。

「本当に乾陽大公を見逃してくれるの?」

 力なくささやくリーユエンへ、レムジンは、

「ああ、言う事を聞くなら、あいつの後はもう追わない」と答え、解毒薬の瓶を口元へ近づけた。リーユエンは、おとなしく解毒薬を飲み干した。すると、レムジンは、自身の左中指に嵌めた指輪の蓋をはずし、

「これを見ろ。震家の奴婢の刻印だ。これをおまえの体にある玄武紋の上に焼き付ける。いいな」」と言った。

 リーユエンはその指輪をじっと見つめ、そして無言でうなずいた。その時、尸蟲を仕留めたアスラが駆け寄ってきて、

「俺の主を害するのはやめろ」と、叫んだ。けれど、リーユエンは、

「アスラ、消えろ」と命じた。アスラは抗議の声をあげる間もなく、面覆に姿を替えてしまった。

 レムジンは、満足そうにうなずき、

「そうだな。もう、魔獣を俺たちにはけしかけるような事はしないでくれ」と言いながら、リーユエンの襟元を肌け、玄武紋の上から刻印を押し当てた。肉の焼ける匂いがし、リーユエンは苦痛に顔を歪めた。レムジンが指輪をあげると、玄武紋の上に震家の紋章に囲まれた震の字が焼きついていた。

「さあ、これで、おまえは震陽大公の持ち物になった。祖父様の法力は、ここまで届かないが、ウマシンタ川あたりまで戻れば、おまえを、法力でがっちり保護してくれるだろう」と、薄ら笑いを浮かべてささやいた。

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