5 襲撃(8)
(リーユエン、どうしたの、具合が悪いの?)
リーユエンは、しばらく苦しんでいたが、それがおさまると、顔をあげ、
「乾陽大公には、何も言わないでくださいね」と、言った。ミレイナは、
(でも、そんなに具合が悪いのに、あの人に隠すなんて良くないわよ)と彼女へ伝えた。けれどリーユエンは、
「お願い、言わないで・・・それから、王女殿下、あの人を必ずあなたの国へ連れていって保護してください。彼は、命を狙われていて、ずっと追われているのです。だから、彼を助けてあげて」と、真剣な顔で訴えた。
ミレイナは驚き、(命を狙われているって、じゃあ、あなたもそうなの?)と、尋ねた。
「私は、体に毒が回っているみたいだから、もう、あまり長く持たないと思います。私に何かあっても、そんな事は気にしないで、とにかく乾陽大公を助けてあげてください」と、リーユエンはささやいた。その後は、目を瞑ると木の幹に背中をもたれさせ、何も言わなくなった。
(どうしよう、リーユエン、体のどこかが悪いのね。毒って、一体何の毒なのかしら・・・)
小珠を追跡したダルディンは、セイバの大木の洞の中へ珠が呑み込まれ消えるのを目撃した。セイバは天へ向かって直立し、幹回りは三丈以上あった。樹齢はおそらく数百年はあるだろう。蔦いちじくが幹に幾重にも絡みつき、その絡みついた蔓の隙間から、洞穴のような空洞が見えた。ダルディンは、無造作に近寄ると、蔦を片手でむしり取り、隙間を広げ、洞をのぞき込んだ。
洞の中は二丈四方の広さで、宝石や磨かれた剣や盾が床に散らばり輝いていた。洞の中は、日の光も届かない暗闇のはずなのに、柔らかな光に満たされていた。その光源をたどり、ダルディンはニヤッと笑った。宝珠が、洞の隅の一段高い場所に置かれ、光を放っていた。天井からは、大水蜥蜴が仕留めた獲物が、得体の知れない干物となってぶら下がり揺れていた。獲物が取れない乾季に備えた保存食だった。
ダルディンは、洞の中へ入り、宝珠へまっすぐ近づくと持ち上げた。すると、洞の天井から、凄い勢いで黒い何かが、背後から襲いかかってきた。が、ダルディンは左腕を一閃させ、黒い襲撃者を薙ぎ払った。それは洞の壁に激突し、「グエッ」と声を上げ、ずるずると地面へ落ちた。振動で天井から干物がばらばらと落下した。片手に宝珠を持ったままダルディンは、干物を踏みつけながら、その黒い物体へ近づいた。それは体長が半丈余の大水蜥蜴だった。大水蜥蜴は、ダルディンが接近し射程距離に入るや、
「わしの宝を狙う盗人っめ、こうしてやる」と叫び、強力な尻尾を振り回し、ダルディンを叩きのめそうとした。 けれど、玄武の膂力の前では、大水蜥蜴の俊敏で強力な尻尾の攻撃ですら児戯でしかなかった。
ダルディンは
「ふんっ、盗人とはおまえのことだろう」と、言いながら、片手で尻尾を掴み、蜥蜴を引きずったまま洞の外へ出て、セイバの木へ蜥蜴を片手で軽々と数回叩きつけた。骨が折れる音がし、やがて大水蜥蜴は絶命した。
「悪く思うな。リーユエンがお前を食いたいそうなんだ。あの子は具合が悪いから、栄養をつけさせないとな」とつぶやき、ダルディンは蜥蜴を背負い、宝珠を手にして、リーユエンとミレイナ王女の待つ場所へ戻った。
ダルディンが戻ってきたのに気がつくと、リーユエンは立ち上がった。そして、笑って
「大きな水蜥蜴だね。これは食べでがあるな」と、言いながら、「宝珠も取り戻せてよかった」と、左手の宝珠をのぞき込んだ。ダルディンは、彼女へ
「宝珠を取り戻したが、これをどうやって王女の体へ戻すつもりだ?」と、尋ねた。リーユエンは
「殿下が一度体に取り込んで、それを王女の体へ流してあげてください。それでもう一度取り込めるでしょう」と、答えた。
ダルディンは左手の宝珠へ、自身の法力を流し込んで分解し、中の法力を体内へ取り込んだ。それから、亀を左手にのせ、右手を上からかざし、様子をみながら法力を慎重に流し込んだ。亀の体が発光し、あたりが真っ白になった。そして、亀の姿が消え、青い髪が豊かに波打つ、青味がかった翡翠色の眸の美しい少女が現れた。簡素な白地の貫頭衣はくるぶしまであって、金色の帯で結び止め、その上には水色の薄地の袍をまとっていた。少女は自分の体を見下ろすと、
「戻った、戻ったわ、元の姿だわ」と、飛び跳ねながら喜んだ。
「ありがとう、本当にありがとう」と、ダルディンの手をつかみ、彼女は微笑んで礼を言ったが、突然、ひどく無作法なことをしてしまったと気がつき、赤くなって手を引っ込めた。
いきなり手をつかまれたダルディンも何だか気恥ずかしくて、顔を赤らめながら、
「元に戻れてよかったな」と、言った。




