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千年妃(異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須ですのつづき)  作者: nanoky


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1 乾陽大公ダルディン(3)

 七年前のある日、巽陰大公(そんいんたいこう)カーリヤは、ダルディンへ難しい顔をして、

「猊下が、ついに明妃(みんふぇい)を選んだそうだ」と、話した。

 カーリヤから屋敷に呼び出され、お茶をご馳走になっていたダルディンは、これを聞かされた時、

「よかったじゃないですか。これで、瑜伽業(ゆがぎょう)をひとりでやるなんて無茶をしなくてすむでしょう」と、答えた。

 ところがカーリヤは、顰めっ面で頭をふり、

「それが大問題なんだよ。猊下が選んだのは、聞いたこともない凡人の子供なんだよ」と言った。それを聞いたダルディンは、危うく熱い茶が入ったまま茶碗を落とすところだった。

「エッ、凡人を選んだのか?瑜伽業をどうなさるつもりだ」

 瑜伽業の相手を務める明妃には、法座主の法力を受け止めるだけの、器としての強靭さが求められる。凡人に務まる役目でないのは、明白だった。

「まだ、子供だから、数年たって成長したら、相手をさせると話していた」

 カーリヤの言葉に、ダルディンはさらに驚いた。

「相手をさせるって、凡人にそんな役目が務まるのか?」

 カーリヤは、ため息をついて、また頭を振った。

「玄武の女ですら、役目が過酷過ぎて、最近では皆が嫌がって引き受けない。私だって、やらされた時は、騙されて押し付けられたんだ。それで泣く泣く明妃になったが、三百年務めたところで、引退させてもらったよ。凡人なんか明妃にしたら、途中で死んでしまうか、死ななくても発狂するか、一回でも瑜伽業がやり通せたら、幸いかもしれないね」と、話した。

 ダルディンは、齢五百年余りのごく若い玄武のため、瑜伽業が、実際のところ、どのようなものなのかを知らなかった。だから、経験者のカーリヤの言葉に衝撃を受けた。

「そんなに、瑜伽業とは過酷な業なのですか」と、尋ねるダルディンへ、カーリヤは暗い目つきとなって

「ああ、過酷だとも・・・おまえは、若いから知らないだろうが、先代の法座主の瑜伽業の相手を務めた、最後の明妃は、業の途中で力が尽きてしまい、全身に内傷が生じ、それはもう悲惨な最後を遂げられたんだ。それだって、引退したがっているのに、誰も成り手がいないからって、無理を押して瑜伽業を行わせたためだ。法座主の生み出す強大な法力を受け止め、陽の気である法力の流れに寸分のずれもなく陰の気を流し込み、練り込んでいかなくてはならない。とんでもない集中力と気力が必要なんだよ。それを、寿命も短い、体も玄武のように頑丈でない凡人の、しかもまだ子供にやらせるなんて、無茶苦茶だよ」と説明した。

 それに対してダルディンは、「大伯母上は、その事を猊下には、おっしゃったのですか」と、尋ねた。カーリヤはうなずき、

「もちろん言ったよ。けれど、ドルチェンは聞く耳を持たないんだよ。あの子以外の明妃は考えられないって、その一点張りだ。昔から変わり者だったが、ますます偏屈ぶりに拍車がかかってきたよ」と、言った。それから、「その凡人の子供なんだが、私が聞いたところによると、元々は、魔導士修行を希望して、ヨーダム大師のところへ訪ねて来た子だそうだ。おまえ、覚えているかい?去年の冬、凡人の間で、風邪みたいな症状から始まる厄介な疫病が流行っただろう。あの時、中央大平原から来た隊商が、特効薬を色々持ってきて大儲けしたって話」と言った。ダルディンはもちろん覚えていた。

「覚えています。相場の何倍もの値段で買い取らせ、大儲けしたそうですね。まあ、その薬材のおかげで、疫病の方は無事終息しましたが」

「その薬材を仕入れて、玄武国へ運び込んだ子が、猊下が明妃にしようとしている子なんだよ」

 カーリヤの言葉に、ダルディンは興味を惹かれた。

「へえ、子供なんだろう?それなのに、薬材を仕入れて、隊商に参加して運んできたのか?凄いな」

「凄いのはその後だよ。その薬材を売り払ったお金で、ヨーダム太子に弟子入り志願して、内弟子にしてもらったそうだ」

 内弟子という言葉に、またもやダルディンは驚いた。

「太師の内弟子だとっ、ニエザを百年前に内弟子にとって以来じゃないか」

「ヨーダム太師は、その子を魔法学院へ通わせているそうだ。ところが、猊下がその子を気に入り、明妃にすると言い出したんだ。ヨーダム太師も困り果てているそうだよ」

「魔導士修行に耐えられるのなら、ただの凡人とは言えないな。けれど、法座主についてから一度も明妃を選ばなかった伯父上は、どうしてその凡人の子供にこだわるのだろう?」

 カーリヤは、声を低めて、「数日前、その子に、兌陰(だいん)大公の孫娘のひとりが、毒薬を無理やり飲ませたそうだ」と、告げた。

「ええっ、もしかして、ドルーアかい?」

 ダルディンは毒と聞いた瞬間、もうドルーアの意地悪な顔立ちを思い浮かべた。ドルーアはドルチェンがずっと好きだったのに、全然相手にしてもらえず、恨みを募らせているのだ。

「そうだよ。よく分かったね。あの噛みつき玄武と言われるドルーアだよ。幸い、ドルチェンがすぐ気がついて解毒したらしいが、目に毒が回ってしまって、しばらくは見えないそうだ。猊下は激怒して、もう少しでドルーアを殺すところだったらしい。けれど、瑜伽業を終えた直後のうえに、解毒に法力を使いすぎて、その場で殺し損ねたそうだ。甲羅にヒビが入ったドルーアは、プドラン宮殿から逃げ出して、祖母であある大公の領地へ舞い戻って隠れているそうだ。そして、子供の方は、ドルチェンが離宮へ連れていって閉じ込めてしまった」

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