5 襲撃(7)
リーユエンは、ダルディンへ
「大水蜥蜴は、おそらく奪った法力を宝珠の形に固めて、隠しているのでしょう。明日、大水蜥蜴を見つけ出して、彼女の法力を取り返します」と、言った。ダルディンは
「力をあまり使うな。今日も錬成で使っている。明日も使うなんて、やめた方がいい」と言った。
リーユエンは何か言いかけたが、また咳が出た。
「ゴホッ、ゴホッ」
背中を折り曲げて咳き込む彼女へ、ヨークが「どうぞ、これを飲んで」と、慌てて白湯を差し出した。リーユエンは頷き、白湯をゆっくり飲んだ。咳がおさまると、ダルディンへ
「ミレイナ王女を、大青亀王のもとへ連れて帰れば、東海の情報が得られます。これから長旅になるから、法力を取り戻せるなら取り戻した方がいい。それに、もともと彼女のものなのだから、取り返すべきです」と、言った。
ダルディンは、リーユエンは一度決めたら容易に引き下がらないのを承知しているので、
「わかった。今日はもう遅いから、寝もう。明日の朝、相談しよう」と言った。
翌朝、朝食を済ますと、リーユエンは、
「大水蜥蜴を探しにいってきます」と言って立ち上がった。ダルディンは、慌てて立ち上がり、
「待て、いくなら私が行く」と、彼女の進路を塞ぐように立った。
リーユエンは亀を抱いたまま、彼を見上げ、
「でも、場所がわからないでしょう?ひとりじゃ無理ですよね」と、陰険な笑い方をして言った。ダルディンは、(しまった。最初から俺を巻き込むつもりだったのか・・・相変わらず、油断ならない奴だ)と、悔しくなった。
リーユエンは、「王女を抱っこしておいてください」と、言いながら、亀をダルディンへ押し付けると、腰から下げた袋を探り、手のひらにちょうどおさまる大きさの円形の羅針盤を取り出した。
ダルディンが「羅針盤なのか?」と尋ねると、
「魔導羅針盤です」と答えると、王女へ
「王女殿下、あなたの息を羅針盤へ吹きかけてください」と、亀へ声をかけた。
ミレイナは、言われた通り、羅針盤の透明な水晶板に息をふっと吹きかけた。すると、上半分が赤で下半分が青の針がくるくる回転し始め、針先がある方向でピタッと止まった。針の様子を見ていたリーユエンは、
「この魔導羅針盤には、太極石の小さな欠けらが入っており、それが、息を吹きかけた者の持つ法力に反応するのです。王女は陰の気が若干強めですから、赤い針が指す方向へ行けば、宝珠の隠し場所へ辿り着けます」と、説明した。
(凄い道具ね。まるで魔法使いみたいだわ)と、王女は心の中で叫んだ。するとダルディンは不思議そうに
「太極石を使えば、ごく簡単にできることだろう」と言った。
ところがミレイナは、
「太極石って何?」と、逆に不思議そうに尋ねた。
「太極石を知らないのか?法力の強い玄武が瑜伽業を行って産み出す魔石だ」と、ダルディンが答えると、王女は、
(魔石なら知ってるわ。でも、私たちを祀る凡人たちは、最近、魔石ですらほとんど使うことがなくなったわ。太極石なんて、聞いたこともないわ)と言った。
ダルディンは、リーユエンへ
「王女は、太極石を見たことがないそうだ。それに、王女の一族を祀る凡人たちは、魔石ですらほとんど使わないそうだ」と、話しかけ、「やはり、玄武の一族ではないのかもしれない」と、ささやいた。
けれど、リーユエンはあまり気にする様子もなく、
「実際に行ってみれば、わかりますよ。早く法力を取り戻して、王女に道案内をお願いしましょう」と、言った。
彼らは、羅針盤の針の方向に従い、川から離れ、東側の広大な密林の中へ分け入った。半日進み続けると、川の支流のひとつにたどり着いた。リーユエンは、羅針盤の針が輝きだしたのを確認し、
「この近くに宝珠を隠していますね」と言った。
ダルディンは、眉を寄せ、「こんな広大な密林の中で、どうやって隠し場所をみつけるつもりだ?」と、尋ねた。すると、リーユエンは、
「王女殿下、法力を少しだけ分けてください」と、ミレイナに頼み、手を差し出した。
ミレイナは、彼女の手へ、そっと息を吹きかけた。リーユエンは、両方の手のひらで彼女の吐いた息を包み込むようにしながら、「小なる珠よ、現れて大なる宝珠を探せ」と、唱えた。すると、両手の平の間にほのかに光る珠が現れ、ふわふわと宙を漂い始めた。リーユエンは、ダルディンへ微笑みかけ、
「では、大公殿下、あの珠の跡を追って、王女殿下の宝珠を取り返してきてください。相手は反転鏡を持っているから、法力はお使いにならないで、腕力勝負でお願いしますね。ついでに大水蜥蜴を仕留めてくださったら、今晩は蜥蜴の丸焼きが食べられるから、期待してますよ」と、愛想よく言った。
ダルディンは、眉をしかめ首を振りながら、
「わかった。宝珠を取り返してくる。蜥蜴の丸焼きも善処しよう」と言いながら、珠の光の後を追って行った。
リーユエンはしばらくダルディンを見送っていたが、彼の姿が見えなくなると、「ゴホッ、ゴホッ」と、また咳き込み始め、胸を抑えてうずくまった。




