18 炸裂 玄武十式(1)
その同日、魔導庁長官ミネリオスは、妻や子供らとともに晩餐を終え、その後、妻との雑談中に、玄武国から高名の魔導士ヨーダム太師の訪問があったことを漏らした。魔導士界の重鎮であるヨーダム太師の来訪は、非常に名誉なことなので、つい話してしまったのだ。
妻は、にこやかな顔でうなずき、
「それは素晴らしいことですわ。でも、どのようなご用向きでわざわざお出になったのでしょう」と、尋ねた。
ミネリオスは、声を潜めた。
「ここだけの話なのだが、玄武の国で、邪術を行使した玄武がおったらしい、その後始末をつけるために、各国を訪問中なのだそうだ」
「それは、大変なお役目でございますね。玄武の方達は、法力があるのをいい事に、好き勝手をなさって、後始末は魔導士に押し付けるのが常だと聞いておりますわ。ヨーダム太師もご苦労なことですね」
ミネリオスは、周囲を見まわし、
「これっ、そんな事を声高に申すものではないぞ。玄武の法力を侮ってはならない。知らぬ間に、おまえが何気なく言ったことさえ、あやつらはその気になれば知ることができるのだ」と、ささやいた。妻は、うなずき、
「申し訳ございません。私は凡人ゆえ、魔導の心得もなく、浅はかでございますゆえ、お許しくださいませ。で、お話の続きですが、ヨーダム太師は他に誰を連れてきたのですか?」と、尋ねた。するとミネリオスは、
「金杖王国に常駐しておる魔導士協会の会員ハイネルが随行し、他に、魔導士学院の蟲術教授のフォンダン、それにリーユエンが従っているそうだ」と、答えた。
リーユエンと聞いた瞬間、妻の目が不穏に光った。
「あなた、リーユエンって、この間、甥のイカリオスを魔導士協会へ告発した女ではありませんかっ」
ミネリオスは自分の失言に気がついたが、もう手遅れだった。魔導庁長官としての立場で、あの事件の真相を知っている彼は、イカリオスに下された処分は当然だと思っていたが、事件の経緯は、サンロージア王女の魔道具使用が関係するため、機密扱いとされ、公になったのは、イカリオスへの処分内容だけだった。そのため、イカリオスの母親と仲のいい妻は、この処分を不当だと思っていたのだ。しかし、いくら妻だとはいえ、あの事件は機密扱いであり、経緯を詳らかにすることはできないのだ。
「デレシア、あの事件はもう終わったことだ。リーユエンは、ヨーダム太師の助手として、この国を再訪しただけなのだから、もう気にするな」としか、言えなかった。
けれど、その夜、デレシアは、イカリオスの母親へ、リーユエンが金杖王国内にいることを使者を送って知らせたのだ。
イカリオスの母であるノラデアは、その知らせを受けるや、腹心のひとりを呼びつけ、
「蒼馬国で荷運人足に落ちぶれているビアロスを見つけ、至急連れ戻せ」と、命じた。
ノラデアは、ひとり息子のイカリオスの投獄も、その後の魔力剥奪、領地への追放処分もまったく納得できず、今だに非常な恨みをつのらせていた。
金杖王国の南の果て、荒野に近い、遠方の領地へも何度か蒼馬の馬車を走らせて赴き、イカリオスに一体何があったのか、何度か聞き質したのだ。
「イカリオス、どうしてこんな事になったの?あなたは、一体何をしたの。お願いだから、母に本当の事を教えてちょうだい。あなたを助けるには、本当のことを知る必要があるのよ」
古びた塔の最上階の一室に幽閉され、やつれ切った姿で椅子に腰掛ける、生ける屍同然の息子にとりすがり、何度その問いかけを行ったことか。しかし、抜け殻のような息子からは、何の釈明も得られなかった。ただ、時々、イカリオスの口からは、
「リーユエンの奴、あいつは許せない、あいつだけは許せない、紋つきの奴隷のくせに、あいつが憎い」と、この言葉ばかりを呪いのように、小声で漏らすばかりだった。そのためノラデアは、リーユエンがすべての元凶なのだと思い込み、息子の仇を討とうと固く決意し、その事を、同じくイカリオスの処分に納得いかない魔導庁長官夫人のデレシアにも打ち明けていたのだ。デレシアも、事件の詳細は知らないため、ノラデアの言うことを鵜呑みにし、リーユエンが金杖王国に滞在中であることを知らせたのだ。
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