17 華燭の典と葬送の儀(10)
ヨークの柩は、外苑に運び込まれ、番人小屋から近い森の一画に埋葬された。
ヨークは、もともと孤児で身寄りがなかった。しかも、主代えをしたため、金杖王国から籍を抜く形となってしまい、陰護衛が任務遂行中に死亡すれば、王宮前広場で葬列隊が組まれ、広場を一周して弔意を表す慣わしなのだが、それさえ認められなかった。そのため、外苑で葬儀を行い、ひっそり葬られることになった。
参列者は陰護衛府の長であるザリエル将軍と、数名の同僚だけで、あと、玄武国を代表してヨーダム太師とリーユエンが立ち会ったのだ。
葬儀のあと、墓石のそばに立ち尽くすザリエル将軍へ、リーエンは歩み寄り、その場で跪いて頭を下げた。けれど、ザリエル将軍は、彼女の肘をつかんで立ち上がらせた。
「嬢ちゃん、いやもう、嬢ちゃんじゃないな。頭を下げたら、ヨークは余計悲しいだろうから、やめてくれ」
ザリエルの言葉にも、リーユエンはうなだれたまま、
「ヨークは、玄武の争いに巻き込まれたんだ。主代えしなければ・・・」と、力無く言った。
ザリエリは苦笑し、
「リーユエン、それは所詮仮定の話だ。仮に主代えしなかったとしても、すでに術に嵌っていたのだから、結末は同じだったかもしれない。ただ、死ぬ時期が違ったかもしれないだけだ。それに、主代えしなければ、金杖王国の機密情報を震陽大公が知ることになったかもしれない。さらに言えば、主代えは、ヨーク自身が強く望んだことなんだ。嬢ちゃんを守りきれなかったのは、ヨークにとっては、不本意な結末だろうが、少なくとも、あんたと最後の最後まで行動をともにできたことは嬉しかったはずだぜ」と、言うと、彼女の肩を軽く叩き、
「陰護衛は、主の身代わりに死ぬのは覚悟のうえの務めだ。ヨークだって、死ぬ覚悟はできていた。ただ、こんな死に方になったのは、悔しかったろうと思う。だが、その事で、主であるあんたが頭を下げたら、逆にヨークを貶めることになる。だから、頭は下げないでくれ」と、続けた。
ザリエルは淡々と話し、感情は交えなかった。そばで見守るニンマたち陰護衛も、無表情だった。しかし、大切な仲間を失った心痛は彼らに共通しており、表面に出さなくとも、リーユエンにもヨーダム太師にも、仲間が逝ったことを悼む彼らの心は十分感じられた。その上で、主となったリーユエンを気遣う言葉までかけられては、もう何も言うべき言葉は見つからなかった。
リーユエンは瞑目し、「分かった」とだけ、答えた。
その時、番人小屋の扉が開き、中から森番のお爺さんが現れ、リーユエンへ微笑みかけた。
「おかえり、元気そうだな」
お爺さんの後ろから、濃茶色のマントをまとい、そのフードを真深に被った背の高い男が現れた。その男がフードを跳ね上げると、黄金の巻き毛が溢れ出た、影護衛府の者たちは一斉に跪いた。
「今は私用だ。楽にしろ」
ゲオルギリー陛下が、皆へ声をかけた。リーユエンとヨーダム太師は、揖礼した。影護衛の葬儀に、本来なら国王が参列することはない。そのため、ゲオルギリーは微行で森番の小屋を訪れ、小屋の中で葬儀の様子を見届けたのだ。陛下は、墓石へ近寄ると黙祷し、それからリーユエンへ近寄り、
「震陽大公の甲羅を叩き割ったそうだな?」と、話しかけた。
リーユエンは、一瞬目を見開き、
「術で破りました。叩いてはおりません」と、答えた。
陛下は、ニヤッと笑った。
「凡人が齢三千年越えの玄武の甲羅を破るなど、前代未聞のことだぞ。リーユエンは、通り名に甲羅の破壊者も付け加えたらどうだ?」
リーユエンは一礼し、
「勿体無いお言葉でございますが、通り名はひとつで十分でございます」と、生真面目に答えた。
ヨーダム太師が進み出て、深々と揖礼し、
「このたびは、邪術の使用の発見が遅れ、魔導士協会を代表してお詫び申し上げます」と、謝罪した。
ゲオルギリー陛下は、ヨーダム太師へ
「詫びの言葉は受け入れた。邪術が絡むゆえ、表沙汰にしないほうがよいだろう。それで、ほかに産卵された者の一覧表を手に入れたそうだな」と、話しかけ、ふたりで小屋の中へ入っていった。
森番のお爺さんは、リーユエンを上から下までじっくり見下ろし、頭をふると、
「あんたも中へ入りなさい。ゲオルギリーは、ここで打ち合わせをするつもりなのだ」と言い、少し離れた場所で待機していたハイネル、フォンダン二人の魔導士にも、中へ入るよう声をかけた。
おまけ:(お爺さんの独白)
王宮を出奔した、あのリーユエンが帰ってきた。しかも、前よりさらに色っぽくなっている。ということは、魔性の女度が増し増しになったということだ。おまけに、人外めいた雰囲気も増し増しになっているではないか。フウーッ、まったく困ったものだ。さっさと用件を終わらせて、無事に玄武の国へ戻ってくれるよう祈るしかあるまい。
まったく、どうしてこんな女を、ドルチェンの奴は手元に繋ぎ止めもせず、うろつかせるのだ。危なっかしくて、わしでさえ、見てはおられなくなるのに、閉関なんぞして皆を騒がせる暇があるのなら、この女の面倒をちゃんと看ろ、と言いたい。孫のデミトリーが、また、この女のことで騒ぎを起こすのが予想できて頭が痛くなってくるわい。ヨーダム太師が付き添っているが、この太師ですら、リーユエンを見るときの目つきは緩みきっておる。ダメだ、ダメだっ、どいつもこいつも、お願いだからしっかりしてくれっ、リーユエンを子猫みたいにうろつかせるのはやめてくれっ、わしまで、おかしくなりそうだっ!




