17 華燭の典と葬送の儀(9)
翌朝、寺院で一晩過ごしたリーユエンとフォンダンは、柩を乗せた荷車を騎獣に牽かせ、町の広場で、太師とハイネルの二人と落ち合った。と、そこへ、町の門をくぐった蒼馬四頭に牽かせた馬車が、猛スピードで走ってきて、彼らの手前で急停止した。馬車が停止するや、その中から小柄な男が飛び出してきて、リーユエンへ駆け寄り、いきなり土下座した。
「リーユエン様っ、お出迎えが遅れて申し訳ございません」と、小男は、いきなり半泣きの声で叫んだ。リーユエンは一瞬呆気に取られたが、それが誰なのか気がつき、あわてて小男の肘を抱えて立ち上がらせた。
「内官長、どうなさったのです?そんなに慌てて」
不思議そうに問いかけるリーユエンを、内官長は青ガエル面で見上げ、
「魔導庁の役立たずの魔導士が、あなた様の到着日を一日間違えて伝えてきたのです。本来でしたら、離着陸場にお出迎えする予定でしたのに、本当に申し訳ございません。昨夜は、さぞ、ご不自由をなさいましたでしょう」と、一気に答えた。
リーユエンは、微笑んだ。
「わざわざお出迎えいただいて、ありがとうございます。内官長には、ご足労をおかけしましたね。ヨークの柩はどちらへ運び込めばよろしいでしょうか」
「はい、外苑の番人小屋の前へ運ぶようご指示を受けております。どうぞ、あの馬車へお乗りください。陛下と太子殿下がお待ちかねでいらっしゃいます」
口調は丁重だが、内官長は、以前のようにリーユエンが突然出奔することを恐れるのか、彼女の袖をしっかり掴み、馬車の方へ誘導し、
「柩は私が連れてきた内官が運びますので、お気になさいますな。ヨークの葬儀は、外苑で執り行い、外苑に墓をつくります。ザリエリ将軍もお待ちかねですから、早く参りましょう」と、一刻も早く王宮へ連れて行こうと急かした。リーユエンは、内官長に、
「ヨーダム太師もおいでなので、同乗させてください。尸蟲の件でご報告もございますので」と、伝えた。
内官長は、ヨーダム太師を振り返り、
「これは、これは、太師、お久しぶりでございます。さあ、どうぞ、馬車へお乗りください。早く出発しましょう。あっ、そちらの魔導士お二方は、申し訳ないが、騎獣に乗って後をついてきてください」と、落ち着きなく言った。
フォンダンは、またしても訳がわからなくなった。カエル面の小男のことを、リーユエンは内官長と呼んでいたし、小男の方はリーユエンを様づけで呼んでいた。それに、陛下や太子殿下とか聞こえたのだ。
馬車の後へ続きながら、フォンダンはハイメルへ、
「まさか、リーユエンは、金杖王国お抱え魔導士なのか?」と、尋ねた。ハイメルは左手で自分の顔を覆い、ハアーッと大きなため息をついた。それから、騎獣をフォンダンの方へできるだけ近づけると小声で、
「おまえ、まさか、リーユエンが誰なのか知らないのか」と、問うた。
フォンダンは、その質問の意味不明さにますます訳がわからなくなった。
「知らないも、何も、リーユエンはリーユエンだろう。魔導士学院創立以来の神童、龍石の錬成師だろう」
ハイメルは、眉をしかめ頭を振った。
「これは他言無用だぞ。リーユエンは、玄武国第二位のお方なんだ」
「?」
フォンダンの頭の中に、玄武国と第二位、ふたつの言葉が浸透し、ついに化学反応を起こした。
「エ、エエエッッッー」
「声が大きいぞ、抑えろ」
ハイメルが注意した。フォンダンは、大口を開けたまま、前を行く馬車を指差し、
「あ、あの方は、み、明妃なのか?」と、訊いた。
ハイメルは無言でうなずき、
「この事は、魔導士協会でも、魔導士学院内でも、知っているのはごく少数だ。決して口外するなよ」と、厳しい表情で、もう一度念押しした。
フォンダンは目を剥き、激しく数度うなずいた。
「も、もちろんだ。そんな恐ろしいことを口に出せるものか。そんなことをしようものなら、その瞬間にどんな悲惨な呪いがかかるか分かったものじゃない」と、声を震わせて言った。魔導士のはしくれなら、誰でも、法座主の法力の凄まじさと、明妃への異常なまでの寵愛ぶりは当然知っていることだった。この春先の、位返上についての怪文書騒動と法座主の閉関騒ぎ、それに関連したらしいと密かに囁かれた、八大公家の一部当主交代も耳に新しいところだった。
ハイネルは続けて、
「彼女は、微行で来ているそうだ。だから、おまえも魔導士同士として、自然な態度でいろ。それから、ここで見聞きしたことは、誰にも漏らすな。父母、兄妹、妻子含めてすべてにだ」と、厳しい口調で言った。
フォンダンは無言でうなずいた。
(なるほど、あれが明妃なのか・・・道理で美しい人なわけだ。でも、俺がリーユエンの同窓から聞いた話では、痩せっぽちのチビで、大火傷があったと聞いていたのに、背は俺より高いし、顔はおっそろしく綺麗だし、全然違っている。やっぱり魔導術で姿を変えてしまったのかな?)
呪文を小声で唱えただけで、髪色を変えてしまったのだから、それもあり得るかもしれないとフォンダンは思った。
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