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千年妃(異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須ですのつづき)  作者: nanoky


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17 華燭の典と葬送の儀(6)

 ミレイナは、その言葉に、頭に血が上った。先ほどのダルディンの注意は覚えていたけれど、やはり一言言い返さずにはおられなかった。

「離陰大公殿下がおっしゃる魔女というのが、一体誰のことなのか、私にはわかりません。私は、夫のことを信じております」

 強張った口調を聞きながら、離陰大公は柔らかな口調でさらに毒を吐き出した。

「ええ、そうですとも、まずは夫を信じなければね。けれど、実際、この国は、恐ろしいことに一位のお方でさえ、魔女にいいようにされ、心痛のあまり一時は閉関までなさったほどです。本当に、困ったことなのですよ」

 ミレイナには、離陰大公がいう魔女というのが、誰のことなのかはっきり分かっていた。彼女の目元に涙が浮かんだ。それを見た離陰大公は、これでミレイナも、明妃の敵に回ると確信した。ところがミレイナは、周囲を見回し、

「今日ここにお集まりいただいた皆様、私たちの門出を祝っていただき、御礼申し上げます。少しお時間をいただき、皆様にお聞きいただきたいことがございます」と、凛とした声で、話し始めた。

「私は、東の果て、東海に浮かぶ海上都市、蜃市を治める大青亀王の娘、ミレイナと申します。そのような遠方の国から、はるばる玄武の国へ参り、乾陽大公殿下とこのたび夫婦となりました。本来ならば、遠方にあって決して出会うことのない、このご縁を取り結んでくださったのは、皆様もご存知でいらっしゃるリーユエン様です。リーユエン様は、自らも襲撃を受け、毒を浴びて重傷を負いながら、東海にいるかもしれない玄武の一族を求め、乾陽大公殿下とともに旅を続けられました。その途上、ウマシンタ川の岸辺で、大水蜥蜴の術中に嵌まり、甲羅を傷つけられ原身に戻っていた私を見つけ、助け出してくださいました。術を使うと、ご自身の内傷が悪化するのに、ためらう事なく私の甲羅を錬成術で再生までしてくださいました」と、そこまで話した時、ミレイナは気持ちが昂りすぎて、涙が溢れた。しかし、彼女の真剣さに、誰もが黙ったまま、再開するのを待った。しばらく言葉が途切れたが、涙をこらえ、言葉を続けた。

「その後、私たちは、氷と雪に閉ざされた極寒の大地で、再び襲撃を受け、その際も自身の身を顧みることなく、大公殿下と私を、蜃市の城まで畳地連結術で逃がしてくださいました。リーユエン様はその時内傷が全身に広がり、命を落とすところでしたが、私の高祖が助け出し、秘術で体を再生しました。彼女は、しばらく記憶を失っていましたが、幸い記憶を取り戻し、私を連れて、玄武の国へ帰って来られたのです。

 玄武の皆様は、あの方に色々思うところがお有りのようですが、私にとっては、リーユエン様は、命の恩人であり、乾陽大公との縁を取り持ってくださった大切な仲人です。今日は、ご臨席いただけませんでしたが、私は、あのお方に感謝の気持ちをこめて一献捧げたいと思います」と、言い、涙に濡れた顔に笑みを浮かべると、杯を取り上げ、一気に飲み干した。ダルディンもそれに倣った。高祖も、ドルチェンも、カーリヤもそれに倣い、陽大公たちとカーリヤと親しい坤陰大公が拍手をした。

「・・・・・」

 離陰大公は、言葉を失い、呆然とその場に立ち尽くした。


 乾家で華燭の典が執り行われていた頃、リーユエンは、金杖王国へ向かう大鵬鳥の上で、爆睡中だった。出発前の数日間、寝食も忘れた状態で、溜まりに溜まった決裁を、南荒に行くまえにダルディンが引き抜いた優秀な官僚パパディとともに、何とか片付け、ヨーダム太師と魔導士学院の教授とともに大鵬鳥に乗ったのだ。

 

 魔導士学院の若手教授で、蟲術の専門家であるフォンダンは、先ほどから、毛布にくるまりヨーダム太師の横にいながらお世話もせずに爆睡中の魔導士に呆れ果てていた。それで、思わず太師へ、

「太師、その者は、大鵬鳥へ乗り込んでからずっと眠り続けておりますが、病気なのですか?それならば、連れて行かない方がよいのでは?」と、思わず遠回しながら嫌味を言わずにはおられなかった。しかし、ヨーダム太師は、穏やかな笑みを浮かべて、首を振った。

「いや、お疲れなのだ。出発前に随分無理をなさって仕事をされたのでな。しばらく寝させてさしあげてくれ」

 太師が敬語を使っていることに、フォンダンは驚いた。この毛布にくるまり、眠りこけている魔導士は一体何者なのだと、ひどく気になった。それに、その魔導士の横には、どう見ても棺桶としか見えない縦長の大きな箱が置かれ、大鵬鳥の体全体に渡した鞍ベルトにしっかり係留されてあった。その箱のことも気になって仕方なかった。すると、彼の視線の先に気がついた太師は、棺桶を見ながら、

「それは、そなたが思うとおり(ひつぎ)なのだ。先日、震陽大公の件で審議があったであろう。あの場で、尸蟲の死骸と、それに寄生されておった陰護衛の亡骸を検分したのを覚えておるか?」

 太師に尋ねられ、フォンダンは、

「ええ、覚えております」と、答えた。あの亡骸は、彼にも強烈な印象を残した。凡人が迎える死の中でも、もっとも悲惨な死に様だと思ったほどだ。

「この柩の中身は、その陰護衛の亡骸なのだ。陰護衛は、金杖王国の者であった。それで、亡骸を金杖王国へ運び、わざわざ主替えまでして譲ってくれた金杖国王に詫びを申し上げねばならないのだ」

「そのために太師がわざわざ出向かれるのですね。けれど、この者は一体誰なのですか。いつも太師には、ニエザ殿が付き添っていらっしゃるのに・・・」

 太師は、毛布越しに、その魔導士の肩のあたりにそっと手を乗せた。その手の置き方と、太師が一瞬見せた慈しみに満ちた表情に、フォンダンは、見てはいけないものを見てしまったような気まずさを感じた。

「この者は、わしの直弟子だ。訳あって魔導士を名乗ってはおらぬが、実力はわしと並ぶ、いや、もしかしたら、もうすでに、わしを超えたやもしれぬな」

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