おかんの丼物屋 ~庶民の味で胃袋を掴んでみよう~
短編です。
誤字脱字に誤変換、あると思いますがごめんなさい(;´Д`)
「へい、らっしゃい!」
「其方が店主か。我が主が屋敷にて召し抱えたいと申しておる」
「だが断る!客じゃないなら出て行って貰えます?邪魔!」
「な、我が主はこの国の上位貴族で」
「うっさい!見て解りませんかね?私忙しいんですよ。
だいたい勝手に厨房に入ってくるんじゃないわよ!」
「またおかんがやってるよ」
「おかんの前じゃお貴族様とか関係ないもんなぁ」
どうも、おかんと呼ばれている楡山菊乃です。年齢は内緒!
まぁ成人済みの子供が2人居たとだけ言っておく。
遡る事3か月前。
なんか知らんけど聖女召喚てのに巻き込まれたとかで、行き成り異世界に放り出されたんだよね。
一緒に居た若い女の子達、中学生くらいかな? その2人が聖女だとかなんとかで、私は当面の生活費とやらを渡されて放り出された訳。
なにそれと文句の1つでも言いたかったけど、城門の前で叫んでもね?・・・
親切にも門兵さんが町のある方角を教えてくれたのでそこへ向かって歩いた。
それにしても私の格好よ、店の定休日で野良仕事してたからモンペよモンペ!
しかも足元なんか地下足袋よ! おまけに腰には鉈よ!
どうか目立つ服装じゃありませんように、西洋風のドレス姿とかメルヘンな町じゃありませんように・・・
チーンと頭の中で鐘が鳴った。
私の願い空しく、辿り着いた町はメルヘンな町だった。
どう見ても場違いな私、困ったぞこれ。どないしよう。
町の中に入るにに気後れしてしまい、入り口で立ち尽くしていると老夫婦に声を掛けられた。
場違いな服装なので中に入るのに気後れしているのだと伝えれば、ここはちょっと裕福な商人や貴族の専用入り口なのだそうで一般的な町民や冒険者などの入り口は別にあるのだとか。
なるほどと思い、教えて貰った礼を言って一般の入口を探しに行く。
中に入って見ればさすがにモンペ姿の人は居ないけど、ドレス姿の人もみかけなくて普通にワンピースやズボン姿の人ばかりだったのでほっとした。
どことなく『大草原の〇さな家』の雰囲気に似て懐かしさがあった。
さて、ほっこりしている場合ではない。
今後の事を考えないとならないので貰った当面の生活費とやらが幾らあって、ここらの物価がどんなものかを確認しなければ。
そう思いまずは宿屋を探す事にしたのだけど、なるべくなら安い宿がいい。
入り口に戻り、門番さんに聞いてみた。
門番さんは訝しげに何処から来たのかとか、その服装は何処の民族衣装なのかとか聞いて来た。
隠す事はあるまいと思い、この町に来た経緯を話すと驚かれた。
当面の生活費が幾らあるのかと聞かれまだ確認していない事を伝えると一緒に確認してくれる事になった。
「あのクソジジィ・・・」
「門番さん、声押えて!」
門番さんが怒り始めてしまった。
当面の生活費とやらは、切り詰めて1ヶ月持つかどうかの額だったらしい。
つまりは早急に仕事を見つけて金を稼がないとヤバイ訳で、安宿に泊まってる場合でも無くなった訳だ。
野宿かぁ、さすがにキツイなぁ。
「おい、どうした」
「あ、隊長。じつはですね・・・」
詰め所から出て来た隊長と呼ばれた人に門番さんが説明をすると、隊長さんは頭を抱えてしまった。
「あんた、名前は?」
「楡山菊乃です」
「ニェーリャ・マ・キクノ?」
「キクノで・・・」
訳の分からん外国名にしないで貰いたい・・・
隊長さんは少し考えた後で、短期の仕事をしてみないかと言ってくれた。
この門番を務めているのは国の第三兵士団で、そこの寮母さんが腰を痛めて1ヶ月安静なのだそうだ。
本来寮母さんは2人体制なのだが1人しかおらず無理がたたったのだろうとの事で、部屋も開いているからそこで寝泊りをしてもかまわないとの事だった。
1ヶ月とは言え私にはありがたい話なのでお受けする事にした。
寮母の仕事については腰を痛めた寮母さんから聞く事になり、1か月分の給金として提示されたのは当面の生活費として渡された額の3倍だった。
「言っておくがこれが平均的な1か月分の給金だからな?」
「マジで?・・・、あのジジィ・・・」
さっきの門番さんじゃないけど、クソジジィと叫びそうになった。
隊長さんの名前はエンリコさん、普段はリコさんと呼ばれているようだ。
そしてあの門番さんはデイルくん、娘と同じくらいの年齢なので「くん」で呼ばせて貰う事にする。
リコさんに寮母さんを紹介して貰い、仕事内容の説明を受ける。
寮母さんの名前はアマンダさん、私より年上の方だった。
仕事内容は料理洗濯掃除といたってシンプル。
寮に入っているのは8人で朝と夕の2食だけでいいそうだ。
仕事さえ終わればのんびり自由時間でいいのだとか。
「さっそくで悪いのだけど、今日の夕飯から頼めるかしら」
「はい、お任せください。材料は有る物を使っても大丈夫です?」
「ええ、大丈夫よ。後、食材の予算も渡しておくわね」
1か月分の予算を渡されたのでそれを4等分にしておいた。
まずは食材の確認をしに台所へと向かう。
玉葱 人参 芋 大根 キャベツ ピーマン 猪肉 ベーコン
ソーセージ パン 米 大蒜 生姜
調味料は砂糖 塩 胡椒 唐辛子 瓶入りソース5本 壺入りの味噌?
ソースと味噌っぽいものは味を確認してみる。
ウスターソース 甘めのお好みソースっぽい物 醤油 黒いトマトソース
唐辛子のソース(名前が不明) 味噌はちょっとピリ辛だけど一応味噌
ふむ、明日の朝の分も考えないとなのよね?
見慣れた食材で安心した、これならなんとかなりそうだ。
よし、夕飯はホイコーロー丼と大根スープにしよう。
今から作れば夕飯には間に合うだろう。
申し訳ないけど洗濯と掃除は明日からだな。
早速調理に取り掛かるが、竃だった・・・
ふっ、まさかこんな所で鉈とライターが役に立つなんてね!
竃は使った事がないけれど、要は薪ストーブと要領はおなじはずだ。
薪を持って来て着火剤代わりに削っていき、焚き付け様に細く割っておく。
「キクノさん火起こしは、出来てますね」
「あ、デイルくん。心配してくれたの?ありがとう」
「もしかして竃を使った事が?」
「いや、無いよ。でも薪ストーブは使ってたからね」
「なるほど」
まずは米から炊いて行く。
使う野菜を切って肉も切っておき、調味料は予め合わせておけば下準備の完了だ。
あれ、夕飯の時間聞いてなかった・・・
「18:00が夕飯の時間ですよ、朝は07:00です」
「了解、ありがとう」
なるほど、時計があるので時間の確認ができるのは助かる。
となれば、30分前なのでそろそろ作り始めてもいいだろう。
ホイコーローも大根スープもすぐに火が通るからね。
米もいい感じで炊きあがりそうだ。
「ところでデイルくん、仕事は終わったの?」
「今日は早番だったので16:00には終わってますよ」
なるほど、それで様子を見に来てくれていたのか。
ならば味見でもして貰おうじゃないか。
「デイルくん、ちょい口開けて?」
「はい?」
開かれたデイルくんの口に熱々ホイコーローを入れる。
「はふっ はふはふ」
少し冷ましてからの方が良かったかもしれない・・・、ごめんよ。
「キクノさん、これ見た目は地味ですけど旨いです!」
うんまぁ、見た目は地味だよね確かに。
でも口に合ったようならよかった、安心して夕飯で出せるね。
「なんだこの匂い、腹が鳴る」
「今日の当番はデイルだったっけ?」
アマンダさんが腰を痛めてから私が来るまでの3日間は兵士たちが交代で作っていたらしい。
「うおっ、知らない女が居る!」
「人を指差すんじゃありません!」ペシッ
あ、ついいつもの癖で叩いてしまった・・・
「失礼、本日よりアマンダさんの腰が治るまで代理を務めさせて頂きます。
どうぞ宜しくお願いします」
「あ、はい。お願いします?」
すると背後でクククッと笑い声が聞こえる。
「キクノさん、いいね。
あいつらまだ若いから礼儀も解ってない部分があるんだ、すまんな。
遠慮なくしごいていいから」
あら見てたのねリコさん・・・
騎士なら貴族が多いので礼儀もなっているらしいのだけど兵士は平民が多いので口も悪いのだとか。
まぁ口は悪くてもいいけど、人を指差すのは駄目よね。
「では並んでくださいな、大盛り、並み、少な目
どれにするか行ってくれれば盛り付けて渡しますので」
「食欲をそそる匂いだな、大盛りで頼む」
大盛りホイコーロー丼と大根スープをよそってトレイに乗せてから渡す。
リコさんは目をキラキラさせてそれを受け取り、席に着く。
「私も大盛りでお願いします」
デイルくんも大盛りだ。
見た事が無い料理だからだろう、他の兵士は2人の様子を見ている。
「んっ、これは旨いな!」
「でしょう、この濃い目の味が米に合うんですよ」
大盛りホイコーロー丼が2人の口の中へとドンドン消えていく・・・
特盛りも用意した方がよかっただろうか・・・
「じ、自分も大盛りでお願いします!」
「お、俺も大盛りを!」
結局皆大盛りになってしまった。
うん、次からは大盛りのみでいい気がする。
あっという間に無くなり皆お代わりが欲しいようだったが残念、アマンダさんの分しか残っていない。
おそるべし若者の胃袋・・・
食べ終わった兵士を食堂から追い出し後かたずけを済ませる。
温め直した食事をアマンダさんに届けて、空いた器は明日の朝取りに来る事を伝えた。
寝るにはまだ早いし、ついでに食堂だけ掃除をしておこうかな。
箒で掃いた後にモップで拭いて、雑巾でテーブルと椅子も吹いておく。
うん、これで朝食は気持ちよく食べれるだろう。
グゥと私のお腹が鳴った。
しまった、私の分がないじゃないか。
仕方が無いので残っていたご飯をおむすびにした。
食べ終わると割り当てられた部屋に戻る。
電気と言う物はないらしく、明かりはランプだ。
ランプのほんのりとしたオレンジ色の光は眠気を誘う。
怒涛の1日だった。
まだまったく状況が把握できていないけど、1ヵ月の寝床が確保できたのはありがたかった。
考えなければいけない事は山積みだけど、まずは寝よう。
私の頭はオーバーヒート寸前だ。
翌朝、キャベツを千切りにしてソーセージを炒めていく。
朝食はホットドッグとオニオンスープだ。
昨夜の様子からホットドッグは1人3つにした。
パンもソーセージも大き目だからたぶん足りるであろう。
この大きさなら私は1つで十分だけど、アマンダさんはどうなんだろう。
2つ用意しておけばいいだろうか。
時間になり兵士たちは次々と食堂へとやってくる。
「おぉ、朝も旨そうだな」
「おはようございます、並んで取りに来てくださいねー」
パンに千切りキャベツを挟みソーセージを乗せ、ケチャップとマスタードをかけていく。
スープをよそってコーヒーを淹れトレーに並べて渡していく。
アチコチから「旨い」と声が上がれば私も嬉しくなる。
皆が食べ終わり後片付けを始めた。
お代わりの声が上がらなかったので朝はあのくらいでよさそうだ。
食べ過ぎて仕事に支障が出ても困るしね。
片付けが終わるとアマンダさんに朝食を届け、昨夜の食器を下げる。
アマンダさんも美味しかったと言ってくれたので良かった。
私も手早くホットドッグを食べ、洗濯に取り掛かる。
「 ・・・ 」
いや別にね?下着も出してくれていいんだけどさ。
洋風の褌だとは予想していなかったよ。
そうか、下着は褌なんだ・・・
洗濯石鹸は粉せっけんだった、懐かしいな。
ジャブジャブと手洗いしていく。
全部洗って欲し終わった頃にはお昼になっていた。
皆ため込んでたんだな、干場が無くなるかと思ったよ・・・
さて私とアマンダさんの昼食を作ろう。
簡単にパスタでいいだろうかと思い、ナポリタンにした。
2人だし、アマンダさんの部屋で一緒に食べる事にする。
アマンダさんは喜んでくれて、色々と話して聞かせてくれた。
息子さんが1人居て、南の国境で兵士として勤めているのだそうだ。
旦那さんは残念ながら数年前の災害で亡くなられたそうだ・・・
私の事はリコさんから聞いていたらしく、自分のお古で悪いのだけどとワンピースを2着頂いてしまった。
正直とても助かる。
掃除が終わったら食材の買い出しついでに服や靴なんかも買おうと思っていたのだ。
掃除をする部分は食堂や風呂場、廊下などの共有部分だ。
窓も拭きたかったけど、今日は買い出しにも行きたいので明日に回す。
掃除が終わったら、アマンダさんから頂いたワンピースに着替えて買い出しだ。
いくつかの店を見て廻って値段を見比べる。
アマンダさんに聞いたところ、どの店で買うとかは決まっていないのだそうだ。
ならば鮮度が良くて安価な店がいい。
おや、露天商もあるのかと覗いてみる。
少々不格好な物が多いけど、鮮度は悪くないし値段も安い。
どうやら店には置けない不格好な物や不揃いの物を農家さんが直接売っているようだった。
見た目が悪くとも味や鮮度が悪く無ければいいじゃないか。
そう思いあれこれと買っていく。
おばさんは沢山買ってくれたからと林檎を1山サービスしてくれた、ありがたい。
次に肉を買いに行く、これはギルドの直売所が安くていいとアマンダさんに教えて貰った。
この世界のお肉は魔物肉なんだそうで、魔物が居る世界なんだ・・・
鳥肉、猪肉、牛肉 3種類とも買った。
はっ、買い過ぎて重い。 服は明日にしよう・・・
夕飯はハンバーグにしようと思う。
こちらではクズ肉と呼ばれているようだけど、ミンチ肉が売ってあったのよ。
色々な肉の切れ端なんかを叩いたお肉だから安価だったのよね。
付け合わせはサラダとポテトフライ。スープはポタージュ。
1つのハンバーグは大きめに作り1人2枚、食べ応えは十分だと思う。
私は1枚の半分の大きさでいいわよ・・・
そしてやっぱり大好評だった。
ハンバーグは大人から子供まで皆好きだもんねぇ。
勿論アマンダさんにも好評だった。
そんなこんなであっという間に1ヶ月は過ぎ、アマンダさんの腰も回復した。
「この1ヵ月とても助かったわ、ありがとうキクノ」
「いえ、こちらこそ助かりました。ありがとうございました」
「それでキクノはこれからどうするの?」
「それなんですけどね。
町の外れにボロボロだけど安くて小さな家を見つけたんです。
そこを買って手直ししてお店をやろうかと思ってます」
「もしかして北の外れの家かしら?」
「あれ、アマンダさんご存じなんですか?」
「ええ。だってそれ私が売りに出した家だもの」
「ぐはっ」
ボロボロとか言っちゃったじゃないか、ひぇぇごめんなさい・・・
寮母になる前ご主人と暮らしていた家なのだそうで。
ご主人が無くなって寮母となりここに移り住んだため売りに出したものの買い手はつかないままなのだそうだ。
人が住まなくなった家は傷むのが早いと言うものね・・・
アマンダさんは条件を1つのんでくれるのであれば無償で譲ってくれると言う。
その条件と言うのが、アマンダさんが休みの日に一緒に夕食を食べて欲しいとの事だった。
そんな事でいいのだろうか・・・
「娘がいたらこんなかんじなのかしらと思ってね。
どうかしら、母親代わりとは言わないけど仲良くして欲しいのよ」
「私は幼い頃に母を亡くしているので母親に憧れがあったので嬉しいです。
アマンダさん、ありがとうございます」
「お、話はまとまったのか」
「リコさん、1ヵ月間ありがとうございました。助かりました」
「まぁ気にするな。
しかしあの家を手直しするにしても金が掛かるんじゃないか?」
「そこはまぁ自分でやろうかと思ってます」
「は?キクノがか?」
「中をちゃんと見てみないと何とも言えませんが、柱や梁がしっかりしていれば
なんとかなるんじゃないかと・・・」
「まぁ必要な木材は森で調達するか間伐材でなんとかなるか・・・」
「非番の時なら私も手伝いますよ?」
「自分も手伝えます」
デイルくんを始め何人かが非番の時に手伝いを申し出てくれた。
まずは家の名義変更手続きだね。
商業ギルドが不動産屋の役割も担っているらしく、アマンダさんとリコさんが付いて来てくれた。
ついでにギルド登録をしておけば店を始める時に便利だと教えて貰ったので、その登録もしておく。
身元保証人が2人必要との事でリコさんとアマンダさんがなってくれた。
手続きが終わり、家へと行ってみる。
中へ入って見れば、床や壁の痛みは酷かったけど、柱や梁、筋交いなど全体的に骨組みはしっかりしているよううに思える。
壁や柱、床など手が届く範囲でコンコンと叩いて回る。
ぐらついた柱も無いし、叩いた程度で崩れる床や壁も少ししかない。
これなら自分でなんとかなりそうだ。
まずは寝る部屋の確保からだね、明日から頑張ろうと思う。
この日は寮の部屋に泊めて貰った。
翌日からは家の手直しを始める。
ご近所さん、とは言っても少し離れているけど、家の手直しをするので少しうるさくなるかもしれないと挨拶に行った。
皆さん気にしないでいいと言ってくれたのでありがたい。
まずは寝る部屋、アマンダさん達も寝室として使っていた部屋から取り掛かる。
木材は間伐材を安価で分けて貰えたし、解体した家屋の廃材で使えそうな物があれば持って行っていいとも言って貰えた。
枝打ちした枝や細い木材などは薪用に持って行けとも言って貰えたので助かる。
長さを測ってのこぎりで切って釘で打ち付けて行く。
驚いたのはこの釘、金属じゃなくて魔物の骨や外殻を使ってあるのだそうだ。
ある意味エコだなぁと思った。
床を張り終わった頃には日が暮れかけていた。
台所の竃はまだ使えそうだったので火を起こして肉を焼いて行く。
めんどいので今日はこの肉の串焼きだけでいいや・・・
デイルくんに貰ったお古の寝袋(といいつつ新品な気がする)に潜り込んで寝る。
1週間かけて寝室は完成した。
ちょーっと屋根に苦戦したんだよね、ほら木材を持ち上げる重機とかチェーンとか無いからさ・・・
手伝いに来てくれた非番の子と一緒にチマチマと担いで梯子の上り下りをね・・・
お陰で全身筋肉痛だけど体は引き締まった気がする。
非番の子が来てくれた日は、お昼に丼物をご馳走した。
作るのも食べるのも手軽でいいし、私がやりたい店が丼物屋だから。
そのせいか、非番だからと手伝いに来てくれる子が増えた・・・
ちゃっかりリコさんも居たし。
水回りの配管工事だけは専門の業者さんにお願いする事にした。
さすがにこれは解らないんだもの。
幸いな事にご近所さんに居たので探す手間が省けて助かった。
そして再び驚く事になる。
なんと水は魔物の魔核(魔石とも言うらしい)を利用して水道と同じ様に使えるし、トイレやお風呂も同じように魔核を使って日本と同じ様な感覚で使えるのだ。
だったらコンロ的な物もあってもいいのではと思ったけど、魔核を使って出せるのは水やお湯だけらしいので不思議なものだなと思った。
お陰で台所は随分と便利になったように思う。
後はカウンターを付けて、お店の看板を作れば完成となる。
お店の名前は「おかんの丼物屋」だ。
なんでこの名前にしたかって?
元の世界でやってたのが「おかんの総菜屋」だったからだ。
わかりやすくていいじゃないか。
1ヶ月後、家は完成した。
1LDKプラス店舗部分。4人掛けテーブル席が1つ、2人掛けテーブル席が2つ。
台所前のカウンター席が8つとMAXで16席、いくら丼物とはいえ、1人で店を廻すのだからそれ以上はキツイと思うんだよね。
お金はまだ1/3残っているけど、これらは食材の仕入れに消えるんじゃないかな。
まずはお店を知って貰う為、3日間の露天商許可を取った。
荷車を改良してキッチンカーのちっこい版みたいなのを作ったのだ。
竃の代わりに冒険者や兵士が野営の時に使う小さな竃みたいなのも買った。
あれよ、一斗缶で作るストーブみたいなやつ。
温め直すだけだから、これで十分だと思う。
1日目、この日のメニューは牛丼のみで営業時間は11:00~14:00までの3時間。
お値段はお手頃に1コインの小銀貨1枚、1000円くらいにした。
他の定食屋とかだと小銀貨2枚や小銀貨1枚と大銅貨1枚だったり、高い店だと小銀貨3枚だったのだ。
丼だしこのくらいが妥当だろうと思う。
日本だとほとんどの人が好きな牛丼だけど、こっちには丼物文化がないらしいので人々の反応がどうなるか解らない。
寮の子達には大好評だったんだけどね。
結果としては用意してた30食完売、もっともその内9食は寮の皆とアマンダさん。
そして配管工事を請け負ってくれたアンディさんも家族と一緒に来てくれた。
2日目、この日のメニューはカツ丼で営業時間と値段は同じ。
少し欲張って40食用意してみた。
余ったらカツサンドにして夜勤の兵士に差し入れてもいいしね。
なんて思ったのに完売だった。
デイルくんなんかはお代わりで2杯買ってたよ・・・
3日目、最終日の今日はロコモコ丼にしてみた。
営業時間と値段はは同じだけど、今回はお子様用にハーフサイズも用意してみた。
ハンバーグは子供も好きだし、親子で分け合っていたお客さんも居たからね。
余ったら余ったでハンバーガーにすればいいので、通常サイズ40食、ハーフサイズ10食を用意してみた。
そして完売御礼である・・・
予想外だったのはハーフサイズが高齢者にも人気だった事だ。
もう少し多めに用意しておけばよかった。
噂を聞いたからと、ここまでの道を教えてくれた門兵さんも来てくれて嬉しかった。
ずっと気になっていたのだと言ってくれてお店の方にも休みの日に顔を出すからと言ってくれた。
社交辞令だったとしてもそう言って貰えるのがありがたかった。
露天に来てくれたお客さんにはお店の事を聞かれたら答える感じにして、こちらからは特に売り込みはしなかった。
代わりに立て掛け看板には説明を箇条書きにしてあったからね。
メニューは日替わりで1種類の丼物のみのスープ付き、値段は小銀貨1枚と均一。
料金は前払い制で丼物受け取り時に支払う事、これは食い逃げ防止の為だ。
お昼の営業は11:00~14:00無くなり次第終了で定休日は日曜。
好き嫌いやお残しはお断り。
庶民の味でお手軽に食べれるようにと考えたので、文句があるなら来るなと思っている。
だってちゃんとした定食屋や居酒屋がある訳だしね。
そもそも北の外れにあるのだから、そんなに人が来るとは思えないし・・・
私としては生活出来るだけ稼げればそれでいいのだ。
いよいよお店での開店日。
朝から念入りに掃除して、下準備をする。
この日のメニューは親子丼にキャベツとベーコンのスープだ。
立て掛け看板は黒板になっているので、チョークで書き直す。
親子丼の説明も忘れずに書いておかないとね。
下準備をしているとカランカランとドアベルの音がした。
「あ、ごめんなさい。まだ準備中ですー」
「キクノ、俺だ」
「リコさん、どうしたんです?」
「非番だったのでな、第三兵士団の代表で来た。
新規開店おめでとう、これは皆からの祝い品だ」
大きな花束と箱を渡された。
「ありがとうございます。開けてみても?」
「ああ、気に入ってくれるとよいのだが」
箱の中には可愛い猫のランプが入っていた。
「うわぁぁぁ、めっちゃ可愛いんだけど!」
「気に入ったようで安心した」
「大事にしますね、お店だと万が一にも壊れたら嫌だし寝室に飾ろうかな」
そうか、以前何気なく猫が好きなのだと言った事を覚えていてくれたのだろう、嬉しいな。
お花はそのままお店に飾らせて貰った。
リコさんはこのまま開店を待って食べていくと言うので、カウンターに座って貰いコーヒーを飲んで待っていてもらう事にした。
そして開店時間、立て掛け看板を外に出せばすでに待っている人が居た。
マジで?・・・
と言うか、服装からして騎士? え? なんで? 私なにかやらかした?
そんな覚えはないのだけれども?・・・
「開店したのだろうか、入っても良いか?」
「あ、どうぞ。いらっしゃいませ」
お客さん? でも何故騎士の人達が?・・・
「エンリコ、来てたのか!」
「なんだ兄貴、来たのか」
はい?・・・ この騎士さんがリコさんのお兄さん?
「驚かせてすみません、エンリコが旨いと自慢するもので気になってしまい
つい来てしまいました」
「そ、そうですか。でも騎士服と言う事はお仕事中なのでは?・・・」
「早めの昼休みと言う事で・・・」
「なるほど? 今回は大目に見ますが、次回は正規の休み時間で来て下さいね?」
「なるほど、人柄も聞いた通りの・・・」
「何か?」
「いえ、なんでも」
「看板の説明は読んでいただけました?」
「ああ、なんの問題も無いので5人分頼む」
「はい、少々お待ちくださいね」
騎士って貴族が多いと聞いたのだけど庶民の味が口に合うのだろうか。
そんな心配は無用だった、リコさん含めて1人2杯ずつ食べていったよ・・・
おかしいな、あれ大盛りサイズなんだけど?
リコさんのお兄さんはまた来ると言いながら帰って行ったけど、次はサボらないで来て欲しいものだ。
後で聞いたのだけど、無くなり次第終了なのだから売り切れては困ると部下を巻き込んで早めに来たらしい。
巻き込まれた部下の騎士達はご愁傷様・・・
その後も客足が途切れる事は無くて、13:40には完売し閉店となった。
50食分用意してたんだけどな・・・・
見かねたリコさんが途中から皿洗いに入ってくれて助かったけど申し訳なかった。
お礼に夕飯を食べて行かないかと誘ってみた。
この時間ならまだアマンダさんは夕飯の準備を始めていないだろうから連絡を入れれば大丈夫だろう。
「いいのか?
今日は初日で疲れているだろうから夕飯に誘うかと思っていたんだが」
「でしたら是非、振舞わせて下さい。
感想を聞かせて貰えれば今後のメニューの参考にもなりますし」
「あぁ、それでだな。
キクノの丼物はギルドで商品登録をしておいた方がいいと思うんだ」
「商品登録?」
「目新しい物は紛い品の粗悪品が出回ったりするんだよ」
「あ~、〇〇直伝だのと見た目だけは似てても味が別物とかか」
「登録しておけばギルドが取り締まってくれるし
レシピを販売する場合の窓口にもなって貰えるからな」
「なるほどね」
ともあれレシピを書き出すにはそれなりに時間が掛かるので定休日にでもギルドへ行くかなと思ったのだけど、名前だけでも先に登録しておくべきだと言われた。
あくどい商人や貴族に眼をつけられると厄介だからなのだそうだ。
うん、確かに厄介そうだし面倒くさい事になりそうだ。
リコさんに付き添ってもらいギルドで商品の登録をしていく。
同じ名前が無いか、似たような名前は無いか、ギルドの人が確認をしてくれた。
想像するだけで大変そうな作業に思えるのだけど、食品に関しては食いしん坊さんが居て丸暗記しているのだそうだ。
凄いけど、チビ〇子ちゃんのコスギみたいな人だろうか・・・
一通りの手続きを終えて、後は新作を出す時にまた登録にくればいいらしい。
さて夕飯は何にしようかとリコさんに食べたい物があるか聞いてみた。
「以前作ってくれたプルコギが食べたいのがよいだろうか」
「じゃあ材料を買って帰りましょうか」
包んで食べる(包み菜と言う)サンチュは流石に無いので、代用としてレタスを使用している。
個人的には大根の千切りも一緒に巻くのが好きだ。
お肉は大目に・・・かなり多めに買って帰宅した。
プルコギの山盛り、レタスの山盛り、あっさり玉子スープにご飯。
さぁ食べようかと言うタイミングでデイルくんがやって来た。
「やっぱり・・・、ずるいですよ隊長!」
「ぶっ・・・」
「ずるくはないだろう、これは労働の対価としてキクノが用意してくれたんだ」
「労働って何したんです?」
「皿洗いだ」
「隊長が皿洗い・・・ 大変だキクノさん。明日は天気が荒れるかも!」
ゴンッ
デイルくんの頭にリコさんの拳骨が落ちたようだ・・・
次の非番の日に手伝うと言う条件で、デイルくんはプルコギにありつく事が出来たようだった。
でもね? 私抜きで2人で決めないでくれるかな? いいけどさ。
次の日からも客足は途絶える事が無くて、だいたい13:30頃には完売になっている。
第三兵士団以外の常連さんも付くようになってありがたい。
あの門兵さん、名前をチップさんと言うのだけど、本当に休みの日には来てくれている。
リコさんのお兄さんもあれ以降はちゃんと休憩時間や休みの日に来てくれている。
ありがたいよね。
そしてお客さんによく聞かれるのが「オカンノ」とはどういう意味なのか。
おかんと言うのはお母さんと言う意味なので、お母さんのって事だと答えている内に「おかん」と呼ばれる事が増えた。
「店主」とか「女将さん」よりは気楽でいいんだけどね。
更に月日が経つと常連さんや馴染み客なんかは「ただいま」と店に入ってくるようになった。
いやまだお昼なんですけど?と言いたくなりはするが「おかえり!」と返すようにしている。
夕食もやって欲しいと言う声もあったりするのだけど、もう少し慣れてからかなぁ。
こうやって順調になって来ると、町の中心の方でも噂になっているらしく時々厄介なのがやって来る。
大手の商会が経営する定食屋で働けだとか、どこぞの屋敷で働けだとか何故にそんな上から目線で言ってくるかね。
勿論そんなのには私もそれなりの対応で追い返すのだけどね。
まぁそれが冒頭のやり取りになるんだけどさ・・・
金持ちだろうがお貴族様だろうが知った事ではない。
人にものを頼むような態度ではないし、誰かの下で働く気もないからね。
今の生活が気楽でいいのだ。
何かしらの嫌がらせをして来ても、そもそもが居住区分が違うし仕入れ先も違う。
私の手に負えなければリコさん達第三兵士団やお兄さんの騎士団、ギルドの担当者(常連)が対応してくれている。
それにね、近隣住民や商店街の皆も協力してくれてるのよ。
なんかショバ代寄越せとかってチンピラが乗り込んで来た事があったんだけどね?
此処は私の土地な訳でなんで他人のチンピラにショバ代払う必要があるのかと。
今までそんなのがまかり通ってたのなら町長や領主も1枚かんでるって事かと、だったら町長や領主も叩けばもっとアレコレ埃が出て来るんじゃないのかね?と言い返したんだよね・・・
そうすると今度は暴力に訴えてこようとするからさ、ついね? ついやり返しちゃったのよねぇ・・・
これには居合わせた兵士団の子も驚いてたっけ、ははは・・・
まぁ昔取った杵柄って事で察して?
この話がリコさん経由でお兄さんの耳に入って、お兄さんから騎士団長さんの耳に入って調査が入る事になってとなんだか大事になっていってね?
結局は町長の馬鹿息子が絡んでましたって事で、町長は新しい人に入れ替わり近隣住人の皆や商店街の皆も安心出来る様になった訳だ。
皆「キクノのお陰だ」「おかんのお陰だ」と言うけど、私としては売られた喧嘩を買っただけで・・・
リコさんとお兄さんにはもう少し頼ってくれと言われてしまったのだけども・・・
そんな訳で(どんな訳だか)一般地区(平民地区)では皆仲良くやっているので金持ちだのお貴族様だのにコビ売る必要もないし言いなりになる気も無いのだ。ふふふ。
何度か王子の使いだの城の使いだのもやって来た。
「今更どの面下げてやって来やがりましたかね?
そっちが聖女じゃないからって私を放り出したんでしょうがよ!
今更用があるから城に戻って来いとか勝手言われても困るし
そちらに従う義理も恩もありませんが?」
「不敬だぞ!」
「当たり前でしょう、どうやって敬えと?
敬えるような事何かして下さいましたかね?」
「うっ、ぐぅ・・・」
「はい、邪魔邪魔。帰った帰った」
ぐいぐいと押し出して玄関の外に塩を撒く。
「おかん大丈夫か?」
「何が? 別に国外追放令とか出たら出たでどっか他国に移住するだけさ。
此処の皆には愛着あるけど、この国自体に愛着なんて無いもんよ」
こんな感じで日々を過ごして居るが今の所国外追放令は出ていない。
聖女召喚に巻き込まれたあげく聖女じゃないからと放り出されて一時はどうなるかと思ったけど、いい人達との縁があってよかったと思う。
この先もまだまだ色んな出会いや出来事があるだろう。
元の世界に心残りはあるけども、すごーくあるけども。
嘆いていてもどうにもならない。
カランカランッ
「腹減ったー!おかん、まだ今日の丼物残ってる?」
「お疲れさん、後2杯だよ」
「うぉ、ギリギリじゃないか。2杯頼む」
「はいよ、ちょっと待ってね」
おかんの丼物屋、今日も完売御礼だ。
読んで下さりありがとうございます。
お暇潰しにでもなれば幸いです。




