転移先で呑気〜
意外とさっさと書けたので
「「う、ここは……」」
俺は目を覚まして定番のようなうめき声をあげる。するとなぜか左からも声が聞こえたような気がした。
俺は右を見る。右にいた人もこちらをみる。右にいたのは浅緋だった。浅緋は俺を呆然とした表情のまま見つめる。俺もきっとそんな顔をしている。
そして、五秒間お互いにフリーズした後、指を指して叫んだ。
「「あぁ!!浅緋!」悠!」
そしてお互いに周りに人がいないことを確認する。
右ヨシ、左ヨシ、後ろヨシ、前ヨシ。よし、誰もいない。
「浅緋、こっちはいないですよ」
「悠、こっちもいないよ」
そして、固い握手をした。
何もない平原の中で握手をしている俺と浅緋は間違いなく異質だった。
「ってシンクロ双子じゃないんだからさぁ!」
俺は握手している手を、ぱっと崩すと叫ぶ。浅緋以外誰もいないようなので「敬語を使えぇ!!」と怒られる心配もない。
「本当だよね。まったく……って悠が敬語じゃない!」
浅緋はイケメンだけに許されるポーズ、『やれやれ』を実行すると目を丸くする。
俺が敬語を使っていないのはそんなに珍しいだろうか。珍しい、な。と自己完結終わり。
「まぁ他に人もいなさそうだし。もちろん我が父もいない」
そう。全ては我が父のせいである。敬語を強要し、俺からラノベさえも奪おうとしたあの人さえいなければ俺もここまでクラスで孤立しかけることはなかったもしれない。
あれ、思い出したら怒りが……
「たしかにね。こんな異世界転移の定番みたいなシチュだとせいぜい学校までだし悠のお父さんがいるわけはないね」
浅緋は俺の元幼馴染である。なぜ元なのかって?隠と陽は別世界に住人だからだ。しかし陽の陽でありながら浅緋は生粋のオタクのままである。いわゆる隠れオタクというものだろうか。ラノベもギャルゲーもアニメも全て雑食に見ているただのバカである。「ねえ、なんか変なこと考えてない?」あと、勘が鋭い。野生動物並みに。「ねぇ、」
俺は急いで咳払いをすると話題を逸らす。
「ま、まぁ。とにかく、安心安全なんだ」
「安全かはわかんないけどね」
と浅緋の口元が笑う。
それにしても目は口ほどに物を言う。浅緋の目は「はいはい。その話題転換に乗ってあげますよ」とでもいいたげである。
「ではオタクとして現在の状況の批評をどうぞ」
「そうだね。今僕らは『始まりの村』を希望したんだけど……。あぁ、悠もそうだよね?だよねよかった。それで…白い空間にいた神様たちは僕らの言った始まりの村を名前だと勘違いして『全ての始まりの村』という名前の街の近くに転移させた。ここまではいいね?それでここからは憶測になるんだけど、この街の名前は僕らと同じような転移者が関与していると思う。始まりの村なんていかにもオタク____悠みたいな人が付けそうじゃないか。仮にその人を転移者アルファと置くと転移者アルファはこの街である程度の地位を持っていると考えられる。領主とかかな……。もちろん会いに行くってのも一つの選択肢なんだけど、今生きているかもわからないからひとまず街に行ってみるのがいいと思うかな。」
浅緋は一呼吸すら開けずに三百字長に及ぶことを言い切った。
ぜーぜーと今浅い呼吸をするぐらいなら一呼吸開ければよかったのではないかと俺は思う。でもそれよりもとにかく
「ひとまず一ついいか?俺は浅緋ほどオタクじゃない」
そして手を前に突き出しタンマの意思表示をする。
脳の処理が追いつかない。俺はラノベのために最適化された脳をフル回転して情報を整理する。活字だったら早いのに口で一気に言われるとなぁ。そしてどうにか一言絞り出した。
「とにかく街に行けばいいわけだ」
「かなりまとめたね?」
その言葉に早速浅緋はツッコミを入れる。
「別にいいだろ?」
「うん、それが悠だ」
浅緋はうんうんと頷いているがそれで納得されると怖い。
「そんなに知らないだろ!?」
「照れ隠しかなー?でも今の悠だったら佐藤くんより知ってる自信はある」
照れるより怖いが勝つわ!と言外に伝えると俺は薄っすらと見える街に向かって拳を突き上げた。
「ま、それもそっか。よし行くぞ!」
浅緋が何も言わないため俺は拳を突き上げたままゆっくりと顔だけ後ろを向き何か喋れ、と念を飛ばす。
「全ての始まりの村を目指して!……であってた?」
「完璧だよ」
さすが浅緋。略してあさす。どんな時も完璧な返答を返すことをこれからも期待しことう。
俺心の中で頷く。それを見て浅緋は何かを感じ取ったのかぶるっと震えた。
「なんか変なこと考えられた気がする…」
本当に勘が鋭いヤツだ。
「気のせいだろ。他のクラスメイトが心配でもしたんじゃないか?」
「そう言えば他の人は勇者だったけ」
「神様曰くな。他にも別の場所に転移したやつはいるかもだけど」
「委員長とかあり得そう」
委員長…。確かに真面目な性格だから一語一句聞き漏らさないとは思うがみんなと同じところに行きそうだな。だから……
「それよりは副の方じゃないか?」
「ふふ、確かに」
星隠しの方も書かなければいけないとはわかっているんですが…。筆が進まなくて逃げてきた次第です。許してください。許してくれますか、ありがとうございます