第二章 英雄の試練
お読みいただきありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。
黎初の英雄は、塵常界に姿を現して以降、夙罹との終わりなき戦いに身を投じた。
猛る獣の咆哮、底知れぬ闇の呻き、裂ける大地の轟き……
世界の輪郭が脅かされるたびに、英雄の剣がその歪みに応じた。
嵐の如く吹き荒れ、森を薙ぎ払う魔竜。
その咆哮は空の色を変え、灼熱の奔流が大気そのものを焼いた。
英雄は霊気を鎖めた衣でその猛威をはね除け、炎を纏った大刀を振り下ろす。
一太刀、世界の理を断つように。鋭き一閃が硬き鱗を穿ち、
魔竜は深淵の裂け目へと、無音のまま消え失せた。
静寂の狭間で、英雄の胸に問いがよぎる。
——この戦いの果てに、我は誰の夢を歩んでいるのか。
やがて、腐敗に染まる森の底、
星明かりも届かぬ地に潜むは、無音の蜘蛛。
漆黒の肢が静かに絡みつき、毒の息が命脈を蝕む。
英雄は意志の光で身を包み、閃く剣で毒風を断ち切った。
たとえ肉体が侵されようとも、霊の核は揺るがない。
猛毒の霧を裂き、蜘蛛の急所を貫くと、
毒と影が悲鳴をあげて崩れ落ちた。
絶望が這い寄るたびに、それでも英雄は前を向く。
己が存在が果たすべき役割を知る者として。
かすかに射す未来への光を、胸に抱き続けながら。
こうして英雄は、夙罹の猛威に抗い続け、
人々にわずかながらも安寧の欠片をもたらした。
その姿は語り継がれ、やがて神話へと昇華されていく。
終わりなき試練の中で、
なおも輝きを失わぬ、一筋の光として——
第二章です。英雄が試練にどう立ち向かったか、神話的な視点で描きました。
前章とはまた違う雰囲気ですが、お楽しみいただけたら嬉しいです。