コッチの世界 4話
そして、1ヶ月後がやってきた。目の前には陸くんがいる。なんか目が険しい。
「どうしたんだい?」
「いや、実は猶予を2ヶ月という約束をしましたよね。それが、組織の方で問題になっているようで。」
「例外だったの?」
「いや、そんなことありません。以前も似たような例があったはずなので。」
「じゃ、嫌がらせ?」
「なんかまるでそこにいたかのような発言しますよね。つまりそういうことです。」
「嫌われてんだね、、、。」と、僕が可哀想なものを見るかのような目で見ると
「あんたかもしれないだろっ!」と、陸が叫ぶ。
「で、陸くんはどうするの?」
「これから組織に行って交渉してきます。めんどくさいけど。」
「別にそんなことしなくても良いじゃない?いいよ俺、今夜スイッチ押してあげるよ。」
「いや、そんなバイトのシフト変わるみたいな言い方されても」
「後始末の話もちゃんと終わったし、元々の予定通りでいいんじゃない?」
「あなた怖くないんですか?」
「正直いうと怖いけど、多分想像通りなら少し面白いかもしれない。」
「、、、。」
「じゃ、陸くん。今夜逝こうか!」
「あなたってヒトは、、、。でも、感謝とかしないですよ。」
「良いって良いって。」
「わかりました。今夜ですね。」
「そう今夜。ちなみに、あのスイッチって、押して2週間後にって言ってたけど、調節して押した1時間後とかできるの?」
「その辺なら大丈夫です。あの2週間後っていうのは、マニュアルで設定された数値なので。」
「じゃ、大丈夫だね。その前に夕ご飯食べようよ。」
「ふぅ、わかりました。」
と、陸くんはうなだれた。
「じゃ、19時に新宿で。」
「何食べる?陸くん。」
「貴方、これが最後の食事なのに自分の好きな物食べれば良いじゃないですか?」
「そうなんだけど、たくさんありすぎて悩んでるからさ、ハシゴしても良い?奢り?」
「あんた年下に奢られるの恥ずかしくないのっか!」
「ほめないでよー」
「ほめてない!好きにすれば良いじゃないですか。」
「じゃ、最初は鰻行こうか。ひつまぶし食べたい。」
「はいはい」
「はいは、一回!」
「もうボタン押す前に死ね!」
「つぎは、焼き肉」
「はいはい」
「次は、ラーメン、」
「よく入りますね、、、。」
「じゃ、、、次は」
「まだ行くんですか?」
「いや、部屋に戻る前に軽くお酒でも、、、。」
「緊張してんすかっ!」
「刺身食べたくて、、、。」
「そっちね。」
「ふぅ、食べた食べた。」
「ちなみに、俺はさ、街にある防犯カメラは俺たちが知らないだけで実は超高性能で見られているって確信してるんだけど、、、。」
「、、、。」
「でね、このまま部屋に行くと、陸くんが一緒にいるところ記録されてるんじゃないかと思うんだけど、大丈夫?」
「僕の心配ですか、、、。」少しの沈黙の後、
「大丈夫です。」と、陸が答えた。
「そっか、そ、そ、組織の力あるもんな。」
「また、気になる言い方しましたね。そうです。組織が処理します。」
「じゃ、安心だ。行こう!」
と、俺たちはあらかじめとっていたホテルの部屋に行き、陸くんから渡されたスイッチを手に取り、そしてすぐ押した。
「躊躇いないのか!あんたは!」と、陸くんが笑いながら言った。
「あっ、そうね。じゃ、陸くんありがとう。あとはよろしく。」
「お元気で、、、。」
俺は、逝く人に向ける言葉ではないなと思いながら、意識が遠くなっていった。
数時間後。ベットの横に座って、窓から外を眺めていた彼は、おもむろに立ち上がって
「終わりました。」
と、陸と呼ばれていた男はどこかに連絡をした。
そして、
「貴方は僕が担当した人の中で抜群に面白かったです。もう少し、話していても良かった。できれば、この先の貴方に幸運がありますように。」
「でも、、、もしかするとあなたなら、、、。」
と、呟き、しばらくして部屋を出ていった。
そして、少しして黒い服を着た男たちが部屋に入っていき、ベッドに横たわっている男を器用に袋に入れ、そして運び出していった、、、どこかに。
そして、俺の中から時間が失われ、時間は段々と溶けていき、そしてそれに伴って俺のヒトとしての輪郭がぼんやりと曖昧になり、同じように溶けていった。