こっちの世界 3話
僕らは、それから朝までいろいろ話した。
彼の名前は陸、2時間粘ったら、やっと答えた。本当の名前かどうかは知らないし、どうでもいい。
会話の時に君はというより、陸くんは?と話したほうがなんか心地良い、それだけだった。
陸は、日本人ではなかった。見た目は、日本人にしか見えないが、ここではないどこかの国で生まれたらしい。
本人もよく知らないらしい。忘れたのか、思い出したくないのか、それとも忘れさせられたのか、、、。
彼の組織、、、組織なんて聞くと笑っちゃうけど、頑なに会社じゃないっていうから、仕方ないから唇歪めながら組織って呼んでたら、怒られた。
「ちなみに、貴方は2ヶ月何するんですか?」
「身辺整理かな。自分がいなくなった後に、身内に色々と迷惑をかけたくない。」
「怖くないの?」
「う〜ん、死んだ後に何かがあるのならば、怖いかもしれないな。ただ、今までの人生、何かに虐げられて生きて来たわけじゃないし、人を羨んだらキリがないしね。これから先の不安とかに比べると、苦しまないで死ぬのなら選択肢としては有りかな、、、と。」
「、、、。」
どこか、不思議な間があった。
彼の会社、いや組織については彼はあまり知らないらしい。
基本的には日本が中心らしい。
聞けば聞くほど、興味が湧く組織だった。
なぜこんなことをしてるのかは、答えてもらえるわけがないし、彼がそれを知っているかは定かではないし、それが真実すらわからないので、やめた。
ただ、どんな感じで、このミッションが運用されていることには興味があった。
そもそもの話、こんなスイッチを配っている自体が、社会性とは真逆な活動な訳だから、その運用もかなりファンタジー色があるのではと興味があった。
「君の、そ、組織だけどさ。」
「今、言い淀んだけど、含みがあるんですか?」
「いや、言葉が体に入ってこないだけだから気にしないで。」
「なんかしっくりとこないけど。で、何?」
「さっきは、僕の死に目の処理を強引に頼んだわけだけど、冷静に考えると投げっぱなしというのは、情報の隠蔽の必要からいうとおかしいよね。本当は、専門の隠蔽のチームがいるはずだよね。」
「なんだ、わかっちゃいました?そうですね。」
「そのチームの人たちにオーダー出せるの?」
「オーダー?」
「そうそう、後始末のオーダーを頼めれば楽じゃない?」
「できなくはないとは思うけど。」
「じゃあさぁ、頼んでも良い?ちなみにどこまでやれば良いのかな?会社への退職、銀行、区役所、マンションの解約、、、サブスクの解約もあるなぁ、いっぱいあるなぁ。」
「まぁ、彼らは慣れてるから気にしないんじゃないですか?」
「親悲しませたくないんだよね。」
「だったら、普通貰わないんじゃない?」
「そうなんだけどねぇ、こんなチャンスなかなかないと思うんだよね。」
「チャンスねぇ。ポジティブですね。」
「死の後に君たちが僕に用意するもの次第だけど、辛くなければ良いなぁとは思うね。」
「意味ありげですね。」
「そうだね。普通に考えると、こんなことやるメリットはあまりないよね。延命治療の医療費を抑えたい国の思惑とか、ただそれは死を国がコントロールするということだから、批判は避けられないよね。だから、それはないと思うんですね。あとは、証拠が残らないシステムを構築して、表向きにはないはずの安楽死を普及させる、、、これも無いよなぁ〜。だったら、死んだはずの人間を使って死後(仮の)に、仮想の環境下で実験するっていうのが、現実的な想像なんですよね。」
「異世界物のライトノベル読みすぎなんじゃないですか?」
「確かにそれは否めないけど。現実の組織なら、その人間にチートな能力を与えることはまだできてないと思うから、後は記憶削って、違う人間としてどこかで実験。閉鎖的な実験空間で、これまた実験。まぁ、考えればキリはないし、人の想像力は、現実を凌駕するから想像もつかないことかもしれないね。ただ、願うべくはただ一つ。」
「一つ?」
「そう、痛いのとか辛いのとかが、嫌だなぁ。」
「緊迫感削がれるよ、あんた。」
「え〜、でも普通じゃん?辛いのやだってさ。」
「わかるけど。」
「だから、頼むね。陸くん。」
「それは、俺の仕事じゃないしね。」
「ということは、やっぱり死後なんかあるのかあ〜。ま、仕方ない。選んだわけだし。」
「、、、。」
「で、その処理の人達と話できるの?」
「話?」
「なんとなく進捗とか聞きたいときあるじゃない。」
「無理ですよ。僕も直接連絡つけたことないのに。」
「じゃあ、陸くんに頼めば良いのか。」
「そうですね。なんとかします。」と、彼は深いため息つきながら言った。