こっちの世界 2話
「コーヒーでいい?」と、僕が聞くと彼は
「最初の印象とはかけ離れた感じですよね。」
「まぁ、これから聞きたいことは聞くからさ。ゆっくりしていってよ。って、あと2ヶ月しか無いけどね!」と笑うと、彼は下を向いて深いため息をついた。
「なんで明るいんだ、この男。じゃあ何から聞きたいんですか?」
「なんか、悪口聞こえたけど、、、。まぁいいか。ちなみに、契約前と契約後だと質問の深度が変わるの。」
「まぁ、質問にもよりますけど。」
「じゃあ、聞きながら探るとするよ。あんまり聞きすぎても面白くないしね。」
「はぁ〜。」と、彼は又下を向く。
「そうだな。まず、これって日本限定?」
「いえ。」
「なるほど、じゃあグローバルなんだね。世界進出かぁ」
「何が世界だよ。死ぬ話してんだよ?満を持しての世界進出じゃないから!わかってる?」
「あ、ごめんごめん。つい浮かれちゃってさ。」
「どこに浮かれる要素あるんだよ、どこに。」
「でね。」
「だから、でねってなんだよ!」
「君はスイッチを押して死を迎えた人を目の前にしたことはあるのかい?」
「!!」
「言い方を変えるね。このスイッチを人々に配って、何が君たちに手に入るんだい?別に攻めているわけじゃないよ。スイッチを押した先に辛く苦しいことさえ待ってなければ良いなぁと思って聞いているだけなんだから。」
「、、、、。くっ。」
「答えちゃいけないことなのかい?」
「、、、はない。」
「えっ?」
「息を引き取ったものを目の前にしたことはない。」
「そっか。なるほど。まぁ、押すことは決めてるんだけど。あまり先のことを知っちゃうと面白くないもんね。」
「、、、。」
「そうだ、ひとつ、いや、いくつかお願いを聞いてくれないか?」
「僕は、それを渡すだけで、その代わりに願い事をかなえる担当ではない!」
「いや、簡単なことだよ。僕が息を引き取る瞬間に立ち会って、後始末をお願いしたいんだよね。」
「えっ?」
「いやぁ、今は6月じゃない?だったら2ヶ月後は8月。人にみつかりやすい、迷惑のかからない場所で死なないと、夏はさぁ〜、色々あるじゃん!腐敗とかさ。」
「あんたって変わってるな。今まで、そんなこと言って来たやついないよ。」
「今までって、結構大勢を担当したんだ。」
「さっきも言ったけど、世界中で配ってるから、俺だけじゃない。そもそも1人で世界を回るなんてサンタみたいなシステムはとっていない。」
「そっか。じゃあさ、連絡先教えてよ。」
「なんで?」
「スイッチ押す日と死ぬ場所を教えるからさ。後始末だよ。」
「そのくらいなら聞いてやるよ。」
「あとさぁ、、、」
「もう聞く気はない。」
「いや、これって死ぬ時苦しくないの?」
「それは大丈夫らしい。」
「らしいって、、、。」
「僕は押したことないからわかんないだろ。」
「いやぁ、その位は職務の知識として知っておいてよ。なんなら?今、会社に電話して聞いてよ。」
「会社じゃないし、そんなフレンドリーな組織じゃない。」
「え〜、でも苦しいのいやじゃん?最初に言ってたよね。苦しくないって。」
「ちっ、聞いてやるよ」
と、彼はどこかに電話して聞いたことのない言葉で何かを聞いていた。
「苦しくないってさ」
「ねぇ、今の言葉、どこの言葉?聞いたことない。」と、乗り出して聞くと
「どこにもない言葉だよ。」
「うっわ!厨二。」
「ふざけるな。僕は帰る。」
「え〜、せっかくなんだからもう少し話していこうよ。俺明日休みなんだよね。話し相手欲しいしさ。えっ、もしかして直帰したら会社に叱られるの?俺、上司に話してやろうか?」
「あ〜、もう良い。付き合ってやるよ。」
「じゃ、ピザ取るわ!」
彼は、頭を抱えてうなだれた。