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1-1:ナチュラルに前世を”不幸だった”って片付けられたの私怒っていいよね。


 「ーーって事で、バイバイ!」

 「ーーーーっへ?

 「あ!”無能力者の貴方は死んじゃうかも!”」


 その瞬間が、私が見た”最後”の光景で、私の”最初”に見た光景だった。

 奥に巨大な白い宮殿が聳え立つ森をバックに、私の腹を蹴っ飛ばす四女と、少し悲しげな長女と次女の姿があり、そしてその光景は直ぐに過去の景色となった。蹴っ飛ばされた私の体は崖の先へと飛ばされ、重力に従い、下へ下へと物凄いスピードで落ちているのだ。

 言葉を発することすら出来ない、バーッ!と鼓膜を叩く暴風の中、私は空中での体の制御を失い、というか元からそんな技術が無い私は軽いパニックを起こしていた。バタバタと手足を振り、暴風の中で踊る最中、私は、水平線を見た。


 橙色に焼けた雲ひとつ無い青空と、雲の引き裂かれた先に大地が見えるその狭間に、揺らめく暖かな光を放つ太陽が煌めく水平線。

 そうだ。わたしはーー


 ーー私は、[木下 優月(きのした ゆづき)]。

 バイクに轢かれてポックリ逝って、気がつけば今な高校生。

 ...とりあえず一応聞きたい。

 これが走馬灯な可能性って....あっ無い。そっすよね。


 「ーーーっ!!!!


 ...それは、さっきの出来事の記憶。

 私はーー


 「ゆづちゃんっ!!!しっかりしてっ!!!お願い!!」

 「待ってヒメっ!そんなに揺らさないであげて!あぁえっと....これっ!これで頭を押えて!!」

 「わっ分かった!!救急車は!?」

 「もう呼んだ!!優月さん?大丈夫だよ絶対助かるからね!」


 ーー信号無視のバイクから男の子を守ろうとして、その男の子を突き飛ばしたまでは良かったんだけど...自分がトロかったせいで、自分がバイクに轢かれてしまった。

 私はバイクにそんな詳しい訳じゃないから適当だけど、ハーレーとか言ったっけ。超でっかくて、しかも速度違反のバイクに撥ね飛ばされてしまったらしい。


 目の焦点が定まらず、ぼーっと虚空を見つめる私を介抱してくれているのは、[天城 城姫(あまぎ じょうき)]と[稲荷 夏姫(いなり なつき)]。私と同じ[星ヶ丘高等学校2年B組]のクラスメートで、2人とも1年生の頃に知り合った、私の初めてのお友達。


 「....ぐぇー...」

 「.......ゆづき....」

 「......あの子、大丈夫....?」

 「...うん、大丈夫だよ。優月さんのお陰で...。」

 「そっか、良かった...私はなんか痛くないし、大丈夫だよ。」

 「いや全っ然、...............うん。大丈夫だよねっ!」

 「そうだよ大丈夫だよ。日本の医療技術すっごいから。」

 「「「.........。」」」


 私の視界には霞がかかり、もはや2人の表情など見えなかった。

 足に力は微塵も入らず、手もぐったりと重く、動かせる気がしない。

 ...そんな中、辛うじて動いた口から発せられた私の言葉は、


 「....あー、...スカイダイビングとかしたかったなぁ...」

 「スカっ...た、高いよ?」

 「ねぇ。こんな時にお金の話はしないのよヒメ?」

 「あっゴメン...」「ふふっ...あはははっ。」


 この梅雨の時期の様なしっとりとした空気を、少しだけ和らげた。


 「...ふふっ...寒くなくていいや......」

 「ちょっと「ねぇ。ダメだ(駄目。)よ。」」「っふふ、ごめんって...。」


 ーーもはや痛みなど無い。

 暑いとか寒いとかも無い。


 「.....ゆづ?」

 「................んー...?」

 「っ.......」

 「....居なくなったらやだよ。勉強また教えてよ。」

 「...ふふ、うん...。」

 「.........絶対、また遊びましょう。」

 「........ふふ....うん.......」


 「...........あ!!ほら、救急車来たよ!!!」

 「................」

 「....優月...?」


 私は、それまで感じたことの無い”温もり”の中で息絶えた。


 赤点回避に必死な城姫に2人で勉強を教えたり、強強ゲーマーの夏姫に2人で挑んで返り討ちにされたり、私の誕生日に2人でケーキを買ってきてくれたり.....この短い1年半、私達3人は最高に青春をしていた。

 他にも、大晦日から神社に行って3人一緒に一番乗りで参拝をしたり、桜の下で写真を撮ろう!って言うのを私が花見と勘違いして超本気の弁当を作って行ったり、春休みに行ったボウリングで筋肉痛でのびた私と夏姫を城姫がなんとか家まで送ったり、私の家でお泊まり会をして翌日乗る予定だったプール行きのバスに間に合わなかったり、その帰りのバスで3人とも寝落ちして終点まで行っちゃったり、城姫の実家にお邪魔して近くの川で沢釣りをしたり、夜はBBQに花火を楽しんでキャンプの中で寝袋にくるまったり、私が自作したボードゲームで夏姫が勝手に大爆死して大笑いしたり、デパートの秋フェア満喫し過ぎて3人とも小遣いが消し飛んだり、紅葉を見に行ったら大雨で全員風邪をひいたり、家の前にスフィンクス雪像とシャチホコ雪像とティラノ雪像を作って普通に怒られたり、3人で3日くらいかけて色んな映画とアニメを一気見したり、城姫が鍋にケーキをぶち込んで必死に何とか食べ切ったり.....今こうして見ると馬鹿だしアホだし、そして最高に楽しかった。

 そんな最高の青春を共にした2人を、私の”死”に立ち会わせてしまった事が本当に心残りだ。私達は3人仲良し。故に、その輪に”欠け”を作ってしまった事が私の一番の後悔だ。


 ーーそんな、走馬灯での後悔中....


 【基礎能力付与:[超頑強][超再生][浮遊][冷気無効][智者][反骨成長][愛され者][神速][超記憶力][料理上手][疲労不知][夢遊快眠][釣り上手][休み上手][手作業上手][やりくり上手][天候操作][病気不知][工作上手][創作上手][不眠不休][悪食][状態異常無効]。】

 「.....ゑっ。」

 【基礎能力整理:[超頑強][超再生][冷気無効][智者][反骨成長][神速][超記憶力][料理上手][疲労不知][夢遊快眠][釣り上手][休み上手][手作業上手][やりくり上手][病気不知][工作上手][創作上手][不眠不休][悪食][状態異常無効]に、[熱気無効][超反応][採取上手][狩り上手][工夫上手][エネルギー効率最適化]を追加、[究極の肉体][器用万能]へと統合。】

 【基礎能力整理:[浮遊][愛され...

 「ちょちょちょっと待って!?どういうこt【器を設計中...】ちょっと!?」


 突然自分の頭の中に、最近目まぐるしい進化をしている合成音声ソフトみたいな、人ともコンピューターとも思えるそんな声が聞こえて来た。しかも何を言い出すかと思えば、基礎能力付与?基礎能力整理?頑強?不眠不休?意味わかんないって。


 【設計完了。記憶再想期間を17歳に設定。】

 「ねえっ!きいてよ話っ!?」

 【説明:貴方が助けた男児[児玉 幸雄(こだま ゆきお)]は後の日本総理大臣であり、[日本の父]として後世に語り継がれるほどの大改革を成す人物でした。それへの感謝と、貴方の人生経験上における悲劇と幸福の割合を鑑み、転生措置を発動します。】

 「へっ!?......はいっ!!?」

 【その命尽きるまで、どうか、”人生”を謳歌して下さい。】

 「.....え、ねぇっ!!まだ訊きたいことがいっぱい.....


 【転生。】



 「そうだっーーたーーー!!!!!!」


 [私]の記憶を思い出し、記憶の濁流でゴチャゴチャに荒れていた私の脳内は、この出来事を思い出した事で急速に整理がついて行った。あの自動音声が言っていた【記憶再想】とは、”前世の記憶を完全に思い出す瞬間の設定”だったらしい。

 基礎能力?とやらの影響か、私は無意識に身体を動かし、スカイダイビングの人がやっているような”大の字”の体勢をとっていた。そんな時に私の脳裏を一瞬過ったのは、「すげ〜!アスノヨゾラ哨戒班みたい〜!」という思考だった。


 ーー記憶を思い出すまでの私は、[ルナクル・アイア=エイジール]という人だった。

 雲よりもはるかに高い所にある[アーク]という天空都市を統括する、超能力を有する[アイア一族]と、[エイジール]という一族との間に生まれたのがこの私、ルナクル。

 他にも、長女[シュイト]、次女[ルミドゥ]、私が三女で、四女が[フレルラ]、五女六女が[シズシン]と[ハーリャ]で、七女が[ネプスタ]、そして末娘に[ソルゥナ]....っていう、各氏族とアイア一族との間に生まれた次期王妃の座を争う姉妹達がいた。この姉妹はキッチリ1年違いで生まれていて、長女が19、末娘が12歳だ。

 で、私達の父方にあたる[アイア一族]は、”重力を操る力”を持っていて、[アーク]を”天空都市”として成り立たせている超重要な役割があり、その代わりに[アーク]における絶対神的な振る舞いが許されている。


 [アーク]に住んでいる人達は、自らを[アークス]と定義している。意味としては”新人類”とか、”選ばれた存在”みたいな。

 だが現実は、彼らは”旧時代の人類”...その”生き残り”で、所謂[上流階級]という立場の人々。性格は尊大な人が多く、我儘。今思うと”天竜人”と似ているが、個々がちゃんと技術を持っている為、あちらよりはまだ耐え...かなぁ。

 彼らは一家残らず[ソラール]という組織に属しており、これは、[アーク]におけるインフラや食糧生産等を担う”8大企業”の総称。

 私ルナクルのお家[エイジール]は[ガーデンキーパー]という企業の代表で、[アークの防衛]、つまり[国防軍]的な役割を担っている。


 で、そんな[ソラール]の代表の一族は、一定の周期で”[アイア一族]との間に女の子を儲ける”という事をしなければならない。

・理由ひとつめは[ソラール]側の理由。

 設けた子が[アイア一族]の王妃になれば、その子を儲けた褒美として、その企業に対して莫大な報酬金が支払われる他、ファクトリーの維持費や一部の税が免除されたり、給料が3倍になったり、いい事ずくめ。

・理由ふたつめは[アイア一族]ないし[アーク全体]に関係する理由。

 [アイア一族]のもつ”重力を操る力”は、当時絵に書いた様な純血主義であったアイア一族内での近親交配が重なった事で、現在の[アークを丸々浮かせる程の力]へと研ぎ澄まされたが、研究によってその力の成長が、『”青天井”である。』という事が判明した。またその研究結果が出たと同時期、アイア一族の長になるはずの人物が能力の制御に失敗し、幼くして死亡するという出来事が起こる。

 そこで、「他家の血を入れることで、能力の強さを”制御可能なレベル”まで希釈しよう」という案が採用され、現在は、


1、  アイア一族 ソラール

        ↓ ↓

2、アイア一族 混血児(私達姉妹)

   ↓近親交配↓

3、純血児(次期王) ソラール

        ↓ ↓

4、アイア一族 混血児(姉妹)

   ↓近親交配↓

5、純血児(次期王) ソラール


 ....とする事で、[制御可能]且つ[アークを存続できる強さ]の能力を維持しているとか。倫理的なとこは知らん。


 で、じゃあ私は何故蹴っ飛ばされたのか。何故[アーク]から突き落とされたのかというと、姉妹達の「あ!”無能力者の貴方は死んじゃうかも!”」の言葉通り、[アイア一族の力を受け継がなかったから]。

 ソラール側の[アイア一族の恩恵にあやかる]という目的の為には、私は[アイア一族]の当代の王の妃にならなければならない。けど、アイア一族側は[重力の力の継承]が最優先事項であり、その場合、ソラールとの間に生まれた子は[重力を操る力を継承している]というのが絶対条件。故に、力を受け継がなかった私は”勝負の土台に立てなかった”。

 アイア一族と交われるのはその1回きりで、再び子を設けるとかは「全員男or全員無能力者」という特例でも無い限り無い。

 つまり、今代の[エイジール一族]は[アイア一族]の寵愛の対象になるチャンスを完全に失ったという事。そうなったら、幾らアイア一族の血が流れる私とて、両一族の中で奴隷同然の扱いを受けることになる。

 しかし、技術ツリーのある程度育った[アーク]では、[自動収穫器]や[自動加工機]、[自動操縦自動車]等の超技術が当たり前で、奴隷としての立場は家主が相当加虐的でも無い限り”無い”と言える。

 ーーそして、虐める価値すら無くなった私は、こうして”処理された”という訳だ。


 こういう時は決まって、アイア一族の処刑人が[重力で押し潰す]という方法で処理する筈だが....私がそれを回避したのはおそらく、”神のシナリオ”的なフシギナチカラが働いたのだろう。何も失わず誰にも邪魔されない、純粋無垢な”自由”の付与...そんな所だろうか。


 「いやっ!良かったじゃないっ!絶対!!死ぬって!!!」


 って、いうのは[ルナクル]の話。

 [木下 優月(きのした ゆづき)]の話じゃない。

 せっかくの第2の人生がこんな一瞬で終わってたまるかーーぃっ!!


 ーーでもそんなこと思ったって、時間が止まる訳じゃない。

 私は今、雲の中に突入した。


 「いったイタイッ!!何っ!?」


 雲の中の雨粒と雹が私をハチノスにしたのも束の間、再びあの美しい水平線を私の目が捉えた。しかも私はだんだん加速しているのか、もう地面と激突するまでもう多分10秒も無いだろう。

 ピーーー!!!!!と耳をつんざく風切り音が、私が最後に聞く音らしい。


 「それなら2人の声で終わりたかったってーーーーー!!!!!」





 記憶、ある。

 意識、はっきりしてる。

 体、動く。痛くない。

 クレーター、無い。


 周りを見渡すと、そこは海岸沿いの砂浜だった。

 ポツポツとヤシの木っぽい木が生えているクリーム色の砂浜に、右にはリゾート(を紹介してるテレビ)でも中々見ない超クリア&コバルトブルーな海と、左には奥に山が見える、木漏れ日で奥までずっと明るい森林があった。薮には赤や深紫の木の実がなっていたり、いくつかの低木には果物っぽい果実が実っていたり。異世界っぽくて、けど滅茶苦茶既視感を感じる光景だ。


 私はその砂浜で、胎児のように丸まって気絶していた。

 意識はハッキリとしている。眩暈等の症状は無いし、身体が痛むって事も無い。

 [ルナクル]として経験した数々の出来事も、記憶に深く刻まれる”3人”の馬鹿げた思い出も、全部さっきの事のように思い出せる。


 「ーー生きてる...。」


 むくりと上体を起こした私は、そう一言ボソッと呟いた。

※当小説は、「GravityDays ~重力的眩暈:上層への帰還において彼女の内宇宙に生じた摂動~」及び「GravityDays2 ~重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て、彼女の内宇宙に収斂した選択~」に影響を受けています。

※趣味小説です。

※書き終わって見直してそのまま投稿したので次話投稿はかなり先になりそうです。

※誤字してたらすいません。チェックミスしてたらごめんなさい。

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