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第六十八話 祭りの後


 ベネディクト王立学園対抗戦は、一回戦最後の試合直後のハプニングをもって幕を閉じた。


 対抗戦から数日後。


 王都の一等地に存在する高級ラウンジバー。


 照明を落としたしっとりとした雰囲気の漂う大人の社交場。


 そんな中、カクテルグラスの置かれたカウンター席に座り、目を伏せている女性がいた。


 ガーランド家の女性執事セリカである。


 本来であれば、女神教による襲撃事件の事後処理に奔走しているはずであった。


 このよう場所で呑気に酒など飲んでいられない立場である。


「……来たか」


 口の中で小さく呟き、セリカはうっすらと目を開ける。


 店内に一匹の場違いな獣人が入店して来た。


 格式の高いランクに合わせたような客たちは、その獣人に好奇の目を向けている。


 Aランク冒険者、虎族の獣人フウ。


 冒険者スタイルのフウの姿は、洒落しゃれた身なりをする客の中では、やはり周りと比べて浮いて見える。


 フウは周りの目も気にせず店内を見回すと、カウンター席に座っているセリカを見つけると近づいて来た。


「待たせちまったかな?」


「気にするな」


「店の前で止められたけど、あんたの名を出したらあっさりと通してくれたぜ」


「この店は、組織が運営している店だ」


「あぁ、道理で」


 フウは納得と言った顔をすると、セリカの隣の席に腰かける。


「ところで、先に確認しておきたい事があるんだが」


「なんだ?」


「この店を指名してきたのはそっちだ。 当然ここの飲み代はあんたの奢りだよな」


「好きに注文して構わん」


「この店で一番高い酒をくれ、ボトルでな」


 フウの注文を受けて、バーテンダーが棚から豪華なラベルの張られた瓶と二個のグラスに手を伸ばす。


 カウンターに置かれたグラスに、琥珀色の液体が注がれていくのをぼんやりと眺める。


「んじゃ、とりあえず乾杯といくか」


 フウとセリカは互いにグラスを手に取ると、キンッと触れ合わせ酒をあおる。


「うんめ~、冒険者ギルドの酒場じゃ飲めない酒だな」


 陽気に酒を飲むフウに、セリカは真顔になると目を細め口を開いた。


「貴様には、礼を言わなければな」


「ん? 何か礼を言われるような事あったか?」


「今回、貴様が居なければ、クエルお嬢様とシルフィード様のお二人がどうなっていた事か」


「別に礼を言われるほどの事じゃねえよ、坊やを守るのが今回の仕事だったからな。 嬢ちゃんと共闘したのは成り行きだ」


「本来我々が、クエルお嬢様をお守りしなければならなかったのだ」


 セリカは痛ましげに眉をひそめ、拳をぎゅっと握り締めるとカウンターを叩く。


 本人は軽く突いたつもりだろうが、悔しさと後悔にいきどおるセリカは力の加減ができなかった。


 ドンッと思いのほか大きな音を立て、周囲の客が飛び上がる。


 女神教の策略により、彼女たち魔族の女王であるクエルを助けに行けなかった不甲斐無さに、セリカは身体を震わせた。


「クールが売りのあんたが、熱くなってどうすんだよ」


 詳しい事情を知らないフウはボトルを手に取ると、空になったセリカのグラスに酒を注ぎ入れる。


 注がれた酒をゆっくりと飲み干したセリカは、冷静さを取り戻す。


「そう言えば今回の襲撃事件、市民への発表がまだされてないが、そこの所どうなってんだ?」


 自分のグラスに酒を注ぎながらフウは話題を変えた。


「それならば、近いうちに騎士団から正式に発表がある」


 事件自体の概要がいようは、何者かによる王族並びに貴族を狙ったテロ活動と発表される。


 実際、陽動作戦の為か潜入していた女神教の信者たちは王族や貴族を襲撃していた。


 もっとも、それらの襲撃者たちはガーランド家の者たちによって抹殺されている。


「女神教の事は発表しないのか?」


 今回の襲撃が女神教による犯行だと知っているのはクエル、フウ、それとセリカ含めた魔族たちと冒険者ギルドの一部のみ。


 騎士団などには、女神教の情報は共有していない。


 ミレーヌには、フウが口裏を合わせて口止めをしていた。


「しない方針だ、襲撃の首謀者が勇者の末裔などと発表すれば、市民への影響は計り知れないからな。 謎の集団として処理するだろう」


「まぁ、妥当な落としどころか」


 フウは木の実の殻を握り潰すように剥き、口元に運びながら呟く。


「それと、女神教の信者に対抗戦のチケットを横流ししていた者を特定した」


「どこの馬鹿だよ、そいつは」


「ウィロー家だ」


「ウィロー家って、確かこの国の三大貴族の一つだろ。 何だってそんな大貴族が?」


「実は対抗戦が始まる前にウィロー家は、ガーランド家と少々揉め事を起こしてな」


 揉め事と言うのは、ウィロー家の令息であるマクシミールの開催したドラッグパーティーの事である。


 そこでクエルと組織に対して不利益な事をしたとして、ソフィア=ガーランドはウィロー家に対して多額の賠償金を請求していた。


 ウィロー家はその賠償金を捻出する為に、確保していた対抗戦のチケットを横流ししていたのである。


 そのチケットが女神教の信者の手元へ渡ってしまったのだ。


 この事がバレれば、ウィロー家は王族を狙ったテロ組織に協力したと疑われかねない。


 ソフィアはこの事をネタに、ウィロー家に対して脅迫交渉をしていた。


「なるほどね」


 目を細めてセリカの話を聞いていたフウは、ふと思い出したように書類入れの封筒を取り出した。


「忘れてたぜ、こっちからも提供する情報があったんだ」


 そう言うと、フウは封筒をカウンターに滑らせる。


 セリカは受け取った封筒から資料を取り出した。


 出てきたのは冒険者ギルドで作られたプロフィールと、ギルドカード用に撮られたであろう写真。


 そこに書かれている個人名はジヴァート、女神教による襲撃事件の首謀者である。


 この男は王立学園対抗戦に選手として出場していた。


 冒険者として出場していた以上、予選の際にギルドカードの提示が必要である。


 そのため冒険者ギルドでジヴァートの素性を調べてもらっていたのだ。


 だがプロフィールと写真に写っている人物は、まったくの別人である。


「……これは、どういう事だ?」


 セリカが呟きを漏らした。


「見ての通りだ、冒険者ギルドに登録している人物とは別人だ」


「説明してくれるか」


「本人確認をギルドカードの目視だけで照会をしてなかったんだ」


 同姓同名、もしくはジヴァートが偽名を使っていたのだろう。


 ギルドカード本来の持ち主は、恐らく消されている。


 仲間であったザビーネも同様であろう。


「冒険者ギルドの失態だな」


「言い訳になるが今回の対抗戦、発表から開催までの期間が短かっただろ。 それに予選に参加した冒険者の数が想定よりも多かったらしい」


 とは言え、冒険者ギルドの責任は大きい。


 ギルドマスターの責任問題に発展するだろう。


「フウ、この対抗戦に出場していたザビーネと言う女を覚えているか」


「覚えてるぜ、開会式と一回戦の試合で観た」


 生ハムを口にしながらフウはこともなげに頷いた。


「この者も女神教の信者で、お嬢様と裏で闘っていたのだが、知っていたか?」


「嬢ちゃんがそんな事を少し話してたな、地獄に落としたとか。 それがどうかしたのか?」


「……死体が見つからんのだ」


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