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第六十五話 決着


 逃走を図るジヴァートが宙に浮く光の足場を飛び移りながら、観客席の上空へと差し掛かった。


 その時。


 バガンッ!


 クエルの助けに呼応するかのように、破壊された客席と床の瓦礫を吹き飛ばし金色こんじきのオーラを纏ったフウが、ジヴァート目掛けて飛び上がる。


「なにぃっ!?」


 既に倒され動けないと思っていたフウの動きは、ジヴァートからすれば完全に想定外であった。


「ライジングタイガー!」


 雄叫びと共に光の足場に立つジヴァートに向けて、虎族の闘技である必殺の飛び膝蹴りを放つ。


 バキッ!


 フウの放った飛び膝蹴りが、ジヴァートの顎を蹴り抜いた。


「ごふっ……」


 顎を蹴り上げられ、顔を跳ね上げるジヴァート。


 その衝撃にジヴァートの手から、ケインの魂の結晶である純白の珠が零れ落ちた。


 純白の珠はえがき床へと落ちていく。


「あぁ、ケインッ!」


 落ちる魂の結晶をクエルが目で追うと、純白の珠に向かって走る人影が目に入る。


「うおぉぉぉぉぉっ!」


 赤い髪を振り乱し猛然と落ちる純白の珠に向かって走るのは、ジヴァートに蹴り飛ばされステージの下に落とされていたミレーヌであった。


 落下地点に手を伸ばしながら飛び込むと、ミレーヌは落ちてきた純白の珠をダイビングキャッチする。


「取ったわよ! ケイン殿の魂!」


 ミレーヌは、ケインの魂の結晶である純白の珠を掲げて見せる。


 その様子を光の足場の上で、苦々しい表情のジヴァートが睨みつけていた。


「おのれ小娘が、よくも天使様を……」


「どこ見てんだよっ!」


 ミレーヌを凝視するジヴァートを他所よそに、フウが既に次の攻撃態勢に入っていた。


「なっ!?」


「受けてみやがれっ! タイガーストライクッ!!!」


 練り上げられた凄まじい獣気じゅうきを全身からほとばしらせると、フウが宙を蹴った。


 フウの脚から蹴りだされるように、光球が放たれる。


 見る者が見れば、その光球は獲物に襲いかかる虎に見えだろう。


 一握りの獣人の更に選ばれし天才のみが使う事の出来る、獣気を飛ばす超絶秘技ちょうぜつひぎ


 放たれた光球が、ジヴァートに直撃した。


 ドガガガァン!


 ジヴァートは、まるで巨大な鉄球を剛速球でぶつけられたかのような衝撃を受ける。


「おぐ……」


 凄まじい衝撃と共に、ジヴァートは光の足場から投げ出された。


 客席上空から、クエルのいるステージ上空に向かってジヴァートが吹き飛ばされる。


「いったぞ! 嬢ちゃん!」


 フウがステージの上にいるクエルに向かって叫んだ。


 クエルに向かって、バランスを崩し無防備なジヴァートが飛んでくる。


 千載一遇せんざいいちぐうの攻撃チャンスであった。


 だがフウの獣気も、クエルの放てる最大の魔法である火弾ファイアーバレットでも倒せない相手にどうすれば……。


「嬢ちゃんの本当の力を、魔力を解放するんだっ!」


 フウの言葉にクエルはハッとする。


(魔力の解放、その手があった)


 クエルは自身の指を見る。


 両手の指にはめられた十個の銀色に輝く指輪。


 邪神の加護によって膨大ぼうだいで馬鹿げた魔力量を宿す、クエルの魔力を封じる魔封じの指輪。


 その一部でも解放すれば、莫大ばくだいな魔力を得られる。


 問題は、その強大な魔力に身体が耐えられるか?


 考えるまでもない。


 今ここで、この男を倒さなければ、いつまでもケインの魂は狙われ続ける。


 クエルは親指にはめている魔封じの指輪を掴むと、一瞬の躊躇ちゅうちょもなく指輪を引き抜く。


 ドクンッ!


 直後、クエルの身体に異変が起こった。


「うあぁぁぁぁぁ!」


 封じ込められていた魔力が、クエルの奥底から湧き上がる。


 魔力の源である丹田たんでんから、膨大な魔力がクエルの全身を駆け巡った。


 クエルを中心に魔力の暴風がステージに巻き起こり、クエルの身体から漆黒のオーラが立ち昇る。


 魔力がクエルの幼く小さな身体の許容範囲を超え、完全にオーバーフローを起こしていた。


 ステージがクエルの発する魔力の嵐によって悲鳴を上げて軋んでいる。


 いや、ステージばかりではない。


 建物全体が絶叫ぜっきょうしているかのように、小刻みに震えている。


 あふれ出るほどの膨大な魔力を全身から放つクエルの姿を見て、ジヴァートは目を見開く。


 身の毛がよだち、血の気が引き、戦慄が走り、ジヴァートの表情が初めて恐怖に凍りつく。


 天を突くように立ち昇る漆黒のオーラは、闘技場の外にいる者たちにも目撃されていた。


 誰もが理由を知らぬまま、それでも本能のうちにただ一つだけ、正しく理解する。


 闘技場の中に、人ならざる者がいると。



「くうぅぅぅぅっ」


 クエルは、まるで無限に湧き出てくるのではないかと思われる魔力を必死に制御する。


 身体の中で巨大な怪物が暴れているが如く禍々しい力の暴走。


 容量オーバーの魔力によって、クエルの幼く小さな身体が悲鳴を上げていた。


 身体に多大な負荷がかかり、全身に激痛が走る。


 だが幸か不幸か、媚魔薬の後遺症で発情状態であるクエルの身体は、本来であれば気を失っていてもおかしくない痛みを快楽へと変えていた。


 炎が燃え盛っているかのように、身体中に異様な熱感が広がる。


 クエルは膝立ちの状態になると、落ちてくるジヴァートに向けて震える手で指鉄砲を向けた。


 照準を合わせる必要もない。


 無詠唱魔法を放つ為に、頭の中で魔法をイメージする事もない。


 今、この身体から湧き起こる魔力そのものを放つ。


「ジヴァート、消えていなくなれっ! わたしとケインの前から、永遠にっ!!!」


 クエルの叫びと共に、指先から漆黒の閃光が放たれた。


 ズドギューーーーーーン!


 強烈な衝撃波が闘技場を震わせる。


暗黒大砲ダークネスキャノン』とでも言うべき極太のビームのような、荒れ狂う魔力の激流げきりゅうが、ジヴァートへ向かっていく。


「こ、こんなモノ」


 迫りくる漆黒の闇から身を守ろうと、ジヴァートは光の魔法障壁を展開した。


 ジヴァートの全身を覆う光の障壁と、クエルが放った漆黒の閃光がぶつかり合う。


 次の瞬間、漆黒の閃光がジヴァートの身体を守る光の障壁ごと飲み込んだ。


「この力、この魔力、まさかこの少女は、魔オォォォォォォ……!!??」


 キュゴォォォォォォォォォォッッ!!!


 轟音と共に漆黒の閃光はジヴァートだけでなく、そのまま闘技場の一部を消滅させる。


 天に向かって放たれた漆黒の閃光は、闘技場周辺のみならず王都の多くの人々が目撃する事となった。


 漆黒の閃光が空に消えると、ステージの辺りは静寂に包まれる。


 クエルはジヴァートが消滅したのを確信すると、構えていた腕をゆっくりと下ろした。


「…………これで……本当に……サヨウナラ…………」


 魔王の娘であるクエルが、勇者の末裔であるジヴァートに勝利したのである。


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