第六十三話 反撃
「はっはっは、まるでわたくしが人ではなく化物とでも言いたげですね」
クエルがジヴァートの強さに疑問を持つのも当然だった。
卑劣な策を使ったとはいえ、天使候補であるケインの魂を抜き取り。
Aランク冒険者のフウを一蹴し、剣聖と呼ばれるミレーヌを子ども扱い。
この場に魔族の中でも最上位の存在であるソフィアが居たとしても、必ず勝てるかと聞かれれば即座に頷くのがためらわれた。
それほどまでに、この男の強さは常軌を逸していた。
「しかし、クエルさんがそう思うのも致し方ないでしょう。 わたくしは普通の人とは少々異なりますからね」
「……どういう意味?」
「そうですね、クエルさんには特別に冥土の土産と言う事で、わたくしの秘密を見せてあげましょう」
そう言うと、ジヴァートは自身の金髪をかきあげた。
「どうでしょう、分かりますか?」
最初、クエルはジヴァートが何を言っているのか分からなかった。
だが、目を凝らして見ると違和感に気がつく。
金色の髪の付け根、そしてモミアゲの色が……。
「く、黒髪……」
この世界に黒い髪の者は存在しない。
もし存在するならば、その者は。
「……ま、まさか勇者? あなた勇者なの?」
「ほぉ、若いのによく知っておられましたね」
黒い髪、それは勇者の証。
この世界とは異なる異世界からの異邦人。
クエル自身、異世界の記憶を持った悪魔である。
異世界の記憶を思い出した際に、その記憶が何なのかを調べるためにガーランド家にあった書物を読み漁った。
その時に、勇者の事が書かれた書物も読んでいる。
もっとも、勇者に関して書かれている書物は、驚くほど少なかった。
仮に、一般人が黒髪を見たとしても、ちょっと変わった髪色程度だと思うくらいで勇者とは思わない。
勇者が召喚されなくなってから約二百年。
一般人からの勇者への認知度は、それくらい低い。
「ですが残念ながら、わたくしは勇者ではありません」
「勇者じゃない? それなら、その黒い髪は?」
「わたくしには、女神様に祝福を受けた勇者の血が流れているのですよ」
かつて世界を乱す者が現れた時、女神によってこの世界に召喚された勇者たち。
その者たちの一部は、世界を乱す者を倒し世界が平和になると王族や貴族、勇者を支援していた当時の女神教の司祭などと結婚をした。
勇者を取り込もうとする政略結婚である。
「勇者の末裔……でも、それなら……」
「どうやら知っておられるようですね。 勇者の子供がどの様な者なのか」
「知っている、勇者の子供には、黒い髪の子は産まれない」
勇者がこの世界の者と子供を作っても、その子の髪はこの世界の配偶者のモノと同じ髪色になる。
そして優秀ではあるが、勇者のような超人的な腕力も、高い魔力も、そして何より女神から授かるチートと呼ばれる特殊能力も遺伝しない。
「ですが、長い歴史の中で、勇者の血に目覚めるような者もいるのですよ」
「血に目覚める?」
「古い言い方をするならば先祖返り、今風に言えば血の覚醒とでも言いましょうかね。
もっとも、力だけは十二分に目覚めておりますが、残念ながら女神様から授かるという特殊能力は持たない不完全な覚醒ですがね」
そこまで聞いて、ジヴァートの異常な強さの秘密と、妙にクエルを気にかけていたのかが分かった。
ジヴァートの身体の中に流れる女神の祝福を受けた勇者の血が、魔族であり邪神の加護を持つクエルを無意識のうちに感じ取っていたのだろう。
「説明、どうもありがとう」
竜骨棍を強く握り直すと、クエルは勇者の末裔であるジヴァートに向かって一歩踏み出した。
「でもね、たとえ貴方が勇者の子孫だろうと、そんなことはどうでもいいの! 今この場であなたを倒し、ケインを取り戻す事に変わりはないわ!」
「まだ闘うおつもりですか? 力の差が分からぬ訳ではないでしょう。 それとも何か秘策でも?」
「わたしは負けない、わたしはケインを愛しているの。 愛の力は何者にも負けないの!」
クエルは二本の竜骨棍を握り締めて身構えた。
「プッハッハッハッハッハッハッ、愛の力と来ましたか! アッハッハッハッハッハッハッ!」
ステージにジヴァートの笑い声が響く。
「何が可笑しいの?」
「可笑しいじゃないですか。 あなたのような穢れた魂を持つ者が愛を語るとは」
「悪い、わたしが愛を語って」
「あなたのその天使様に抱いている感情は、愛ではありません。 愛という言葉で着飾った独占欲に過ぎない」
「独占欲ですって」
「クエルさん、あなたの穢れた魂から放たれる悪しき力を感じます。
怒り、悲しみ、恨み、つらみ、憎しみ、そして独占欲、愚かしい人の負の感情で闘う者にわたくしは倒せません」
「なら見せてあげる。 わたしのケインへの愛の力ってモノをっ!」
愛らしい顔に怒りの表情をあらわにして、クエルはジヴァートに向かって走った。
◇
「でやぁっ!」
先のダメージをまったく感じさせない速さでジヴァートの目前へと迫ると、手に持った竜骨棍を振る。
ヒュン!
だがクエルの竜骨棍は先程と同じように、ジヴァートの影を打ち貫く。
「ふっ、先程と一体何が違うというのですか?」
ステージの上を滑るように、ジヴァートは竜骨棍を避ける。
「もう良いでしょう。 救済を受け入れなさい」
クエルに必殺の一撃を入れようとジヴァートは死角へと回り込もうとする。
ジャラッ!
ジヴァートの耳に、アクセサリーの揺れる音が聞こえた。
「捉えたわよ」
高速で移動するジヴァートに並走するかのように、クエルが動いた。
クエルはステージの上を高速で移動するジヴァートの動きにピッタリと追従する。
「なっ!?」
「うりゃぁっ!」
ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!
一瞬、動きを止めたジヴァートを竜骨棍の連撃が襲う。
「な、なんと……! この短時間の間に強くなっている!」
先程まで余裕で竜骨棍を避けていたジヴァートの顔に、驚きの表情が浮かぶ。
「ジヴァート! あなたに私の何がわかる」
クエルの竜骨棍を振る速さが、どんどん速くなっていく。
パッパッパッパッパッパッパッ。
竜骨棍を避けきれなくなったジヴァートは、両手を使い竜骨棍を捌き始める。
「愚かしい人の負の感情? それが何!」
連撃を捌かれ続けていた竜骨棍が、遂にジヴァートの脇腹を打つ。
ドゴンッ!
「ばっ……がはっ」
果たしてクエルの小さな身体のどこに、それほどの力があったのか?
予想外の衝撃が広がり、フウの獣気の蹴りをくらっても、ミレーヌの闘気をくらってもビクともしなかったジヴァートの身体がぐらりと傾く。
「怒り、悲しみ、恨み、つらみ、憎しみ、そして独占欲! それら負の感情が!」
間髪入れずに、もう片方の竜骨棍を振り上げると、ジヴァートを天に向かって打ち抜いた。
ドンッ!
「ば、馬鹿な、こんな、はずは……」
ジヴァートの身体が床から離れ、宙に浮く。
「わたしを強くしてくれているっ!」
クエルは両手の竜骨棍を手放すと、ジヴァートに向けて指鉄砲を向ける。
指先に赤い炎が生まれた。
コートに付けた大量のアクセサリーと、指輪に付けた四色の魔石がクエルの魔力を増幅させる。
指先の赤い炎が、青い炎、緑の炎へと変化した。
「燃えろっ! 火弾!!」
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