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第四話 王都


 クエルの存在をアピールした夜会から二か月後。


 王都で開催される武闘会を観戦するためマリスの街を出る事になった。


 生まれてから一度も街すら歩いた事のないクエルは、屋敷の外へ出るというだけで興奮していた。


 王都への旅はクエルのほかに、母のソフィア、女執事のセリカ、それとエリスを含むメイド兼護衛の十名が同行している。


 馬車をメイド達が囲むというのは、一見不用心にも見える。


 だが護衛に付くメイドたちはソフィアが選んだ精鋭たちであり、その実力は騎士に勝るとも劣らない猛者たちである。


 事実、マリスの街を出てから王都に付くまでの間、魔獣と呼ばれる怪物の襲撃を一度受けるが彼女らはものの数分でそれらを制圧して見せた。


 いくつかの街で宿泊し一週間ほどかけて王都へと到着した。


 武闘会が開催されるからか王都へ入る門には長蛇の列が並んでいる。


 並んでいる者の中には、獣人の少女の姿も見えた。


 クエルたち一団は貴族の特権を使いそんな長蛇を尻目に早々に王都へと入る。


 王都へ入ると、きれいに整備された石畳の道が続く。


 通りには行商人たちが思い思いに広げている即席の店。


 大道芸人の曲芸を見るために集まっている子供たち。


 広場は雑多な人や音であふれ返っている。


 街はまさにお祭り一色といった雰囲気を醸し出していた。


「わぁ、凄いです」


 馬車の中から外を眺めるクエルは見えるモノに歓喜する。


「ふふ、クエルはぁマリスの街を出てからぁずうっとその調子ですわねぇ」


「すみません母様、その見るものすべてが新鮮で」


「良いんですのよぉ、あなたにはぁこれから外の世界を知ってもらうのですからぁ」


「あの王都を見て回ることは出来ますか?」


「セリカこの後の予定はどうなっていたかしらぁ」


「この後は一度ホテルにチェックインしていただき、その後は王都の商人組合によるパーティーに出席していただく予定です。

 明日は武闘会の前日と言う事で朝から関係各所の者たちとのあいさつからの、前夜祭のパーティーに出席していただく予定です。

 明後日は、武闘会当日と言う事で朝から闘技場で大会の観戦、その後祝勝会への参加が予定されております」


「これはぁ王都を見て回る時間はありませんわねぇ」


「そうですね……残念です……」


 その後、クエルたち一行は王都の高級ホテルへと到着した。



 商人組合の主催するパーティー会場。


 会場内ではヴァイオリンの音とピアノの音が響く中、来場者は酒を飲んで笑いあっている。


 豪華なドレスを着た貴婦人やスーツを着た男性もいれば、ターバンやベールを纏った商人もいた。


 そんな会場の一角で、ある一団に人々が群がっていた。


 銀色の長い髪に、漆黒のドレスを着た妖艶の美女、ソフィア=ガーランド。


 本来であれば、その場の視線を一身に受けるはずの彼女であるが今回は少々違っていた。


 注目の的は彼女ではなく、その脇に立っている幼い少女であった。


 薄紫色の長い前髪で目元を隠し、フリルがたくさん付いた黒色のジャンパースカートに、頭にはヘッドドレス。


 胸元に赤いブローチを付けた漆黒のゴスロリ服の少女。


(まるで妖精のような少女だわ)


(あの子が噂の)


(ソフィア=ガーランドの娘)


(彼女の全てを受け継ぐ後継者)


(((( クエル=ガーランド ))))


 公式の場であのソフィア=ガーランドの娘がいるという状況は、商売を生業にしている者たちが話題にするのは仕方のない事だった。


 聞き耳を立てているクエルは、周囲のざわめきの中に自分の話題が出ているのが恥ずかしかった。


 引っ込み思案で気弱で控え目な性格で人と関わるのが苦手なクエルは、こういった華やかな場は苦手だった。


 なるべく目立たないように静かに過ごそうとするのだが、その服装と身にまとう雰囲気に視線が集中してくるのはやむを得ない。


 そんなクエルを囲む人垣が背後から現れた者に気づき割れた。


「ソフィア=ガーランド子爵夫人、ご無沙汰しておりましたな」


 声をかけてきたのは、スーツを品よく着こなしたスラリと背の高い青い髪の中年の男であった。


「これはこれはぁ、カイン=シルフィード侯爵さまではありませんかぁ、なぜこのような場所にぃ?」


「貴女がこのパーティーに参加すると聞きましてね、飛び入りで参加させてもらったのですよ」


「あらぁ、カイン侯爵さまと会うと知っていればぁもっと着飾りましたのにぃ」


「いやいや、どんな宝石を身に着けたところで、貴女自身の美しさにはかないませんよ」


「まぁ、カイン侯爵さま口がお上手ですこと」


「それに、宝石などよりも、もっと光り輝くモノをお持ちのようで」


 そう言ってカインは、ソフィアの横に立っているクエルを見る。


「クエル、このお方はベネディクト王国のシルフィード領を治めるシルフィード家当主、カイン=シルフィード侯爵さまですわぁ」


 ソフィアの紹介に、クエルが挨拶をする。


「初めましてカイン侯爵さま、クエル=ガーランドです、今後ともお見知り置きください」


「これはこれは、ご丁寧にカイン=シルフィードです」


 握手を求めるように手を差し出されたので、クエルも笑顔で幼い手を差し出す。


「本当に妖精のような可愛らしいお嬢さんだ」


「ありがとうございます」


「残念だな、せっかくなら息子を紹介したかったのだが」


「そぉいえばぁシルフィード家にはぁ神童と呼ばれるお子さんがいると聞きましたわぁ」


「いやぁ優秀な子ではあるのですが行動が突拍子もなくて、最近は冒険者の真似事をしていましてね。

 今回の武闘会にも子供ながらに出ると言い出しまして、数日前から王都に一人で出発する始末で」


「まぁたった一人で、危険ではありませんこと」


「あの子に関して心配することはありませんよ」


 ソフィアとカインが話していると護衛が声をかける。


「シルフィードさま、そろそろお時間が」


「おぉそうか、ソフィア子爵夫人申し訳ないがここで失礼させてもらうよ」


「あらぁカイン侯爵さま、もうお帰りで」


「人と会う予定があるのでね、息子の紹介は明日の前夜祭……いや武闘会当日にいたしましょう、では」


 そう言ってカインは護衛を連れてパーティー会場から出ていく。


 どうやら本当にソフィアに会いに来ただけのようだった。


 だが周りにいた者たちはカイン=シルフィード侯爵がわざわざソフィアの娘を見に来たと捉えた。


 その後入れ替わり立ち代わり商人組合の幹部が挨拶に来る。


「ふぅ……」


 挨拶に来る人間が一区切りしたところで、クエルはソファに座りながらため息を吐く。


「クエル疲れたでしょう」


「いえ、大丈夫です」


「無理はいけませんわぁ、わたくしはこれから商会の皆様と大人のお話がありますからぁ、先にホテルに戻って休んでいてくださいねぁ」


「はい」


「エリス、娘をホテルに連れて行ってもらえますか」


「かしこまりました、さぁクエルお嬢様参りましょう」


 クエルはエリスに連れられて、パーティー会場を後にした。



「「「 お帰りなさいませ、お嬢様 」」」


 ホテルに戻るとロビーでメイドたちがクエルとエリスの帰りを出迎えた。


「エリスメイド長、先ほど商会から荷物が届いております、ご確認の程よろしくお願いします」


 一人のメイドがエリスに報告をする。


「わかりました、それではクエルお嬢様を部屋へお連れしてから確認をします」


「良いですよエリス、部屋へ戻るだけですから一人で行けます」


「そうですか、それではお部屋に戻ってお休みください、後でお茶をお持ちいたします」


「はい、お仕事頑張って下さい」


 エリスと別れロビーを横切ると、エレベーターに乗り込む。


 最上階のボタンを押すと、エレベーターが上昇を始めた。


 このエレベーターも、勇者や天使が異世界の知識で作ったのかしら。


 そんな事を考えていると、エレベーターが最上階に到着し扉が開いた。


 エレベーターを降りると左右に伸びた長い廊下。


 右へ行き、角を曲がれば泊っているスイートルーム。


 部屋の前には護衛のメイドが立っているはずである。


 クエルが歩き始めると背後から声をかけられた。


「失礼ですが、クエル=ガーランド様ではございませんか?」


 振り返るとそこに立っていたのは、スーツを品よく着こなし顎髭を蓄えた背の高い男がいた。


「はい、そうですがあなたは?」


「あぁ良かった、実はソフィア様からクエル様を街の観光に連れて行って欲しいと頼まれておりまして」


「えっ! 母様が!」


 クエルの表情がパっと明るくなった。


「はい、馬車を用意しておりますのでどうぞこちらへ」


 そう言うと髭の男はクエルが泊る部屋とは反対の廊下を歩き出すと、クエルは疑うことなく髭の男に付いて行く。


 男は従業員用のエレベーターに乗り込むとクエルも一緒に乗る。


 従業員用のエレベーターで一階へ降りると扉が開いた。


 従業員用の通路には人はおらず、髭の男はそのまま裏口へとクエルを連れていく。


 ホテルの裏口を出ると、大きな馬車が止まっている。


「クエル様、馬車の中へ」


 髭の男が馬車のドアを開けると、クエルは身構えた。


 馬車の中には大柄で屈強な男が三人座っていたのである。


「あの、この方たちは?」


「この者たちはお嬢様のボディーガードでございます、さぁどうぞ中へ」


「は、はい」


 少し戸惑ったものの髭の男に背を押され、クエルは馬車の中へと自ら入ってしまった。


 大柄な男と男の間に座ると、髭の男も馬車に乗り込みドアが閉められてしまう。


 こうして馬車の中は密室と化した。


「出せ」


 髭の男が号令を出すと、馬車が動き出した。


 しばらくすると、屈強な男に挟まれ居心地の悪いクエルが口を開いた。


「あの、この馬車どこに向かってるんでしょうか? 何だか街の音が遠くなってるような」


 馬車の窓にはカーテンが閉められており外の様子は見えない。


 だが、街の騒音が小さくなっていくのを感じていた。


 髭の男が目で屈強な男たちに合図を出す。


 ガシッ。


 両脇に座っていた屈強な男たちがクエルの腕と肩を掴んだ。


「えっ? うぐっ!?」


 突然の事態に困惑しているクエルに、前の席に座っていた大柄な男がクエルの顔に布を押し付ける。


 むせるほど甘ったるい濃密な芳香が、鼻から肺へと染み渡っていく。


 クエルは暴れる間もなくフッと意識を失った。


 男たちがクエルの顔や胸を触るが何の反応もしないのを確認すると、髭の男が首輪と手枷を取り出す。


 装飾のされた首輪をクエルの首にはめると、同じく装飾された手枷を手首にはめる。


 クエルを乗せた馬車はそのまま闇の中へと消えていった。



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