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7. 順番待ちの列に並ぶのは嫌!

 今日は第一側室カテリーナ様のお茶会。

 昨晩は緊張で寝つきが悪くて、浅い眠りのまま朝を迎えていた。


「姫様、髪のお支度も終わりました。今日もお美しいですよ」

「アンネ、ありがとう。憂鬱だわ……行きたくない」


 この後宮で側室として機能しているのは寵愛を受ける3人だけと聞いて以来、その話を記憶に残すどころか——すっかり忘れていたのだ。


 受け取った招待状の裏側、差出人の名前——カテリーナ・クロウ様と拝見して、久しぶりに思い出した次第。


 ——さすがにお部屋の前まで来れば覚悟も決まるかと思っていたのに。

 大きな扉の前で深呼吸をしている最中から私の緊張などお構いなしに、紹介の声が響いた。


「第五十側室、レーナマリア・ルディ・エルトネイル様がお見えになりました」


 何番目かまで言っちゃうの?

 まぁ良いのだけれど——、一番下がやって参りました!と紹介されているようで居心地が悪いわね。


「まあ!新しいお方ね。はじめまして、カテリーナ・クロウよ」


 どんな高飛車が待っているかと怯えていたのに、素晴らしく優しい笑顔の女性が迎えてくれた。檸檬色の瞳が美しくて、釘付けになるほどだ。


 見惚れて挨拶が遅れてしまったわ。

 皇帝陛下が寵愛するのも納得の女性ね——そう思わない人がいるのなら、その人の見る目を疑うくらいよ。


「ご挨拶が遅れました。エルトネイル王国から参りました、レーナマリア・ルディ・エルトネイルと申します。宜しくお願い申し上げます」


「後宮の暮らしはどう?もうなれたかしら?」

「はい、快適に楽しく過ごしております。良いお部屋を使わせていただき、感謝しているところでございます」


「今日は楽しんでちょうだいね。あちらが貴女のお席よ」


 席に着こうとすると、先に座っていた側室が「35番目のナリス・ラズフィールド」だと自己紹介をしてくれて。私が50番目だと自己紹介を返すと、なぜか気の毒そうに背中をさすってくださる。

 ——同情されたのかしら?


 丸テーブルが5つほど置かれていて、それぞれ5人ずつ着席している。

 今日は25人ほどの側室が出席しているようだ。


「レーナマリア様、お怪我はもうよろしいの?私はサナ・グレイ。30番目よ」

「25番目のイリス・フェルナンド。同じくよろしくね!」

「私は20番目よ。けっこう古いの!テッサ・グリーンフィールドですわ。仲良くしてくださいませね」


 3人の自己紹介が終わったところで、急に気が抜けた。

 良い人ばかりで——。

 38番目のイズから受けた悪意など忘れてしまいそうだ。


「皆さん、良い先輩方で安心いたしました。とても緊張していたのです」

「イズ様の件があったのだから仕方ないわ」


 皆一様に首を横に振り、慰めの言葉を下さった。


 お茶菓子も美味しくて、楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 もうそろそろ会も終盤という頃、20番目のテッサが禁断の話題を持ち出す。


「ところで、皆さん……今月はいかがでした?……陛下は?」

「いらっしゃるわけないじゃないですか!」

「ほんとですわ……私など一度もお会いしておりませんもの」


 イリス様は笑ってしまっているわね。

 それだけ陛下とは無縁、不敬も冗談に変えるくらいに無縁ということかしら。


「もちろん私も!このまま一生お会いしなくてもいいかなぁ~って思うことも最近では多いのですよ」


 サナ様もまた、すごいこと仰るわね——。


「というわけでね……レーナマリア様、私たち寵愛を賜っていない側室たちは、陛下から忘れ去られているのです。本来の側室の役割を果たすなら、閨事(ねやごと)が一番大切な仕事になるはずですのに。一生順番待ちですわ」


 テッサ様、このお茶会でそんなこと仰って問題ございませんの?

 こうして本音を話し終えた側室たちは解散の時間を迎え、それぞれの部屋へ満足げな表情で戻って行った。


「ねぇアンネ、陛下との閨事(ねやごと)の話題が出たの。たしかに子を成すために(めと)られるのが側室だものね。3人の側室しか機能していないと聞いたから安心していたのに、陛下の気が向いたらお見えになってしまう可能性があるような話だったわ。来るか来ないか分かりもしない男を待って、一生順番待ちの列に並ぶくらいなら……私……別のことを考えて暮らしたい」


「姫様、そんなこと仰らないでくださいませ。せっかくここまで来たのですから。こう言っちゃなんですが、選ばれれば良いのですよ。ふふふ……」


「選ばれる?陛下が私を選ぶってこと?選ぶってことはなに?寵愛するって意味?」

「さようでございます。先ほどチラっと拝見した第一側室様のお顔、とても美しゅうございましたが……我が姫レーナマリア様のご尊顔には敵いませんでしたわ」


 だんだん痛くなってきた頭を抱えて、部屋へと急ぐ。

 すぐにでもお風呂に入って眠りたい、そんな気持ちになったから。

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