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5. 姫が本音の弾丸トーク

 私が後宮に入ってから、間も無くひと月が経つ。

 庭園を散歩したり図書館へ行ったり。

 同じ行動を繰り返す以外は——何もすることがない。


 エルトネイル王国にいた頃には自由だった外出も、今は難しい。

 ピクニックに出かけることも、福祉施設を訪問することも、剣術を習うことも。そのどれもが側室としての生活には必要とされていないから。


 外出するならまず、申請から始めて許可を得る必要がある。

 けれどその許可がなかなか下りない上に、たとえ許可されても——結構な人数の護衛を必要とする。

 そう考えると「そこまでして出かけたいのか?」と自問してしまう。

 そして「出かけない方が無難ね……」と自答することになるだろう。

 これは——毎回同じことの繰り返しになりそうね。


 最近では時間が有り余るせいか、余計なことまで考える。

 例えば、皇帝陛下と私の関係。

 『妻』『(めかけ)』『人質』——私はどれなんだろう?


 それでも思ったより後宮(ここ)を嫌いにならないのは、けっこう今の生活を気に入っているから——なのだろうか?


「姫様、今日も図書館に行かれますか?」

「そうね、行こうかしら。アヴァンジェルの歴史についても知っておきたいしね。アンネは小説?」

「そうですね、恋愛小説を読みたいです」


 最近のアンネは、陛下の侍従を少し気にしているようで。

 私の契約のことや治療のこと、あの事件以来やりとりが頻繁だったようだから当然か?——男女はそうやって出会うのね。

 自由に恋愛ができる人が羨ましい。



 ——蔵書数帝国一の皇室図書館、皇城で一番のお気に入りの場所になった。そしてここでもまた素敵な出会いがあって、私の後宮生活に潤いを与えてくれている。


 受付の女性アメリアが私の顔を覚えてくれて——。

 図書館の規模についていけない私が、希望の本を見つけられず困っている時に声をかけてくれたのだ。キッカケはそんなことだったけれど、今では私にとってアンネの次に親しい人になった、そう言っても言い過ぎではない。


「おはようございます、レーナマリア様。今日はどのような本をお探しで?」


 今日も笑顔で声をかけてくれる。

 読みたい本がなくても毎日通うくらい嬉しい。

 彼女のような人が多いのなら、アヴァンジェルは良い国なのだろう。

 

 ——歴史書と恋愛小説の場所を教えてもらい、まずは恋愛小説の棚。


 帝国で発売されたものは全てここへ納品されるそうだから、恋愛小説の数もけっこう豊富で。そういえば「読んでも読んでも次がある」とアンネが喜んでいたっけ。


 指で辿(たど)りながら、ゆっくりと好みの本を探していく。

 棚の左側から右側へと指を動かしていったところで、男性にぶつかった。


「あ!申し訳ございません。よそ見をしておりました」


 恐る恐る視線を上げると、銀髪に青い瞳の男性が立っている。

 背が高くがっしりとした体格で、視線を合わせるのに苦労する程だ。

 祖国のお兄様と同じくらいかしら?


「こちらこそ申し訳ない」


 言葉少なに詫びると、男性はその場から立ち去った。

 きっと騎士さんね——けっこう好みのお顔——また会えるといいな——。どうせ陛下とは会うこともないんだし、騎士さんを目の保養に使ったって文句は言われないわよね。


 面白そうな本を数冊選び、今日は早めに部屋へ戻ることにした。

 するとまたレオンと遭遇して、当然のごとくアンネの顔が思い浮かぶわけで。

 アンネにも会わせてあげたい——。


「レオンさん、こんにちは」

「図書館に行かれたのですか?」

「はい。よくお会いしますね。お茶をご一緒しません?後宮生活のことでご相談もありますし」


 誘いに乗ったレオンと一緒に部屋へ戻る。

 アンネへのささやかなプレゼントのつもりだけれど——。

 喜んでくれるかしら?


「お帰りなさいませ。次回からお一人で行かれませんように……」


 お説教タイムが始まりかけたから、レオンをさっと前に出した。

 想像した通り真っ赤になって。

 私も嬉しくて、踊り出したい気持ちになった。


「いろいろと聞きたいことがあってね。お茶にお誘いしたの」

「さ、さようでございますか。で、ではすぐにお茶の支度を」


 レオンに質問しながら、ティータイムの支度を待つ。

 答えが戻ってくるか分からないけれど、私にとっては重要なことだ。


「さっそくで申し訳ないのだけれど、教えて欲しいことがあって。街への外出のことです。ここにいると本当に息が詰まりそうで…。街へ出かけたり、気分転換が必要なんです。でも許可が下りるまでが大変でしょう?……つまり、本当は出かけさせたくないのかしら?」

 

 レオンが急に笑い出したものだから、笑われた私は咄嗟にアンネの方へ視線を移した。アンネは不思議そうに首を傾げている。


「あはは。そんなご質問を側室様から受けたことがないので驚いてしまって。そんなに息が詰まりますか?」


「ええ、もちろん!逆に他の皆さんの息が詰まらないのが不思議なくらいですわ。誰も外出なさらないのですか?」


「はい、だいたいの物は城に商人を呼べば手に入りますし、出かけたところで……彼女たちには街でやることがないんだと思います」


「うーん、私には不向きな生活ですね。だからここは本音でお話ししようと思うわ。あ!陛下には秘密ですよ」


 レオンは笑いを堪えながら「わかりました」と了承する。


「まだこちらへ入ってひと月たらずですけれど、それでも既に将来が不安なんです。なにしろ私って、50番目じゃないですか? ご存じのとおりの最下位側室なんですよ。で、港まで迎えに来てくださったレオンさんとは別の侍従が言うには、特定の3人しか側室として機能していないそうで!だとしたら!だとしたらですよ!?私なんて……一生に一度も『皇帝』の顔を生で見ることなく死んでいきますわよね?私の時間が恐ろしいくらい無駄になると思われせんか??あー!仮に属国程度の娘を人質として連れて来てここに閉じ込めているだけだと陛下が思っているんだとしても、むしろそれなら尚更!?多少の自由を与えて下さらないと、皆んな必死で陛下と夜に会いたいと思っちゃいますよね?だってやることないんだから!申し訳ないけれど、私は陛下に一瞬たりとも会いたいと思っていませんから、そこはお気になさらず。取り計らっていただく必要はないというか……会いたくないので取り計らってもらうと逆に困るっていうか?要は一夫多妻でも多妻の一人になりたくないので、多妻の一人として夜を一緒に過ごすくらいなら、いっそ人質のまま自由にして欲しいというかなんというか?とにかく、私に自由をくださ……」


「姫様っ!!そこまでです!なんてことを……。ここはエルトネイルではないのですよ」


 ここまで(まく)し立てたところで、ワナワナと震えながら必死で叫ぶアンネの声に遮られた。——止められたのだ。

 お茶のセットを落としそうなくらいに震えているのだから、私が反省するしか選択肢はなかった。


「どうしたの、アンネ?……あなた私の弾丸トークに慣れてるじゃない?」


 ——あれ?

 レオンは静かなのではなく、声が出ないくらい笑っている?

 彼は言葉を発することもできないくらいに笑っていた。

 それなら、もう少し——とはいかないわね。

 あのアンネの様子じゃ無理だもの。


「あのぅ……大丈夫かしら?そのぅ……理解できました? スピードが早すぎましたかしら?」

「こんなに面白いお方だとは思いませんでした。人は見かけによりませんね。見かけで判断できないとは、まさにこのことだ」


 レオンからの評価を上げたのか下げたのかは全く分からない。

 それでも言いたい事は全て言ったのだから、大満足である。


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