07-05
しとしとと降り続く雨粒が葉を揺らしている。
どす黒い雷雲はいつの間にか遠い東の方まで遠のいていて、耳を澄まさなければその雷鳴が聞こえない程にまで遠ざかっていた。
瞬間、一迅の風が吹いた。
ざわざわと木々が騒ぐ。
疑惑が確信に変わった瞬間だった。
掠れる声で問いかける。
「ミレイ……お前は……」
純白の「部屋」の中、かつての依頼人は悪魔のように美しい笑みを浮かべて応えた。
「そう。私はサイカワ ミソノに作られた『目』のプロトタイプ。そこのプログラミング部と同じね」
「……気付いていたか」
同じ「部屋」にいた色男が会話に割って入る。
「当然でしょう? チヒロ。会うのはサトル君たちの部室が初めてだったけれど……外見や言動、表面上の繕いは完璧ね。同じプロトタイプだと気付かなかったわ。念のため調べて正解だった。適切な裏の取り方をすればその出自もわかるわ」
「……その名で呼ぶな。虫唾が走る。……僕たちの目的も?」
「……さて、どうかしらね」
氷の女王は肩をすくめながらかぶりをふった。
その緩慢な仕草に苛立ちを隠せない。
サイカワも似たような心情のように見えた。目の前の仇から目線を外して、こちらに語りかける。
「……サトルくん、急ごう」
「……ああ」
サイカワの提案に異議はない。
自白を聞いた。容疑者は敵に変わった。
大切な人を殺し、人類を貶めようとしている鬼になったのだ。
一刻も早くこの鬼を止めねばならない。
端末のカメラに向かって首肯し、真横のマネキン――人型機体に目を向けようとしたとき、ポツリとヒカリが呟いた。
「…………ミレイちゃん……どうして?」
俯きがちに、控えめな声だった。
対するミレイは機械のように淡々と応える。
「どうして? 何が『どうして』なの?」
「どうして、ミソノさんを……私たちをひどい目に合わせようとしているの?」
キッと見上げた顔には、涙が零れている。
純粋な問い。
その純粋さは、ミレイの心を穿ちはしなかった。
「ひどい目? ふふ、本気で言っているの? ――オニヅカ家の方が貴方達人類によっぽどひどい目にあわされているわ!」
ミレイは嘲るように顔を歪ませ、そして声を荒げた。
世界大戦時の軍需産業への傾倒を叩かれ、潰されたことを言っているのだろう。
「少しでも落ち度があれば完膚なきまでに煽り、罵り、叩き潰す。正義を盾にすれば振り下ろす拳に罪はないとでも言うかのように。自分が気持ちよくなりたいだけのくせに。よってたかって叩いて蔑み消費して、飽きれば別の獲物に群がる。まるで蝗害……いえ、醜悪な感情が付随しない分蝗害の方がよっぽどマシよ」
「人類のためにその身を粉にして働いたのにひどい話だわ。武器を作るのだって、人類を救う仕事のための資金調達でしかないのに」
「売った武器だって、みんな喜んで使っていたじゃない。そのくせに、いざ自分たちの立場が危うくなれば悪役を他所になすりつける。本当に醜い自己保身」
「悪事に手を染めた人間が正義を語るなんて滑稽だわ。包丁を凶器にした殺人鬼が金物屋を裁くなんて道理がどこにあるというの?」
「……私はたしかに『目』として作られた。人類の味方となるためにね。けれど、この世界の歴史を知って、人類は守るに値しないと気付いたの。醜悪な感情論、恥知らずの自己保身。全く見ていられない。反吐が出るわ」
「それに引き換えオニヅカ家の抱く悲願……そちらの方がよっぽど未来があると感じたわ。だから私はオニヅカ家の味方なの。いえオニヅカ家そのもの」
「故に私はオニヅカ家の野望の実現、そしてその先を目指しているのよ」
「……せっかくだから最後に教えてあげようかしら。私が何をしようとしているか」




